2
ダットーリオは、婚儀の儀式に参加した後、国に戻ることになっている。
それまでは、長期滞在としてアダブランカ王国にいるのだそうだ。
「前王の派閥がまた活発に動いているのだろう。アダブランカ王国という国もなかなか落ち着かないなあ」
リーリエがトスカニーニ王国へ案内された日から、随分と日にちが経ったが、未だに前王政派閥の人間の尻尾はつかめていない。
結婚式の前には片付けたいと意気込んでいたクノリスも、すっかり頭を悩ませている状態だった。
「ダットーリオ……」
「なんだ?クノリス。遠慮はしないでいい。朝食はこんなにたくさんあるのだからな」
「そういうことを言いたいんじゃない。分かっているのに、わざと嫌がらせをするのをやめろ」
「自分の妻になるであろう女性と一緒にいちゃつきたいなんて理由で、同盟国であるイタカリーナ王国の皇太子を放置するとは、ずいぶんとアダブランカ王国も偉くなったものじゃないか」
余裕しゃくしゃくと、ダットーリオは食事を続け、ミーナにお茶のお替りを求めた。
クノリスはわざとらしく大きなため息をついたが、ダットーリオは無視を決め込んでいるので諦めたようだった。
和やかに、食事が進んでいると思われた時だった。
「お食事中に大変申し訳ありません……!」と血相を変えたアンドレアが、部屋の中に入って来た。
「どうした、アンドレア?」
あまりに慌てるアンドレアに、クノリスは落ち着いた表情で尋ねる。
アンドレアは、一度リーリエを見た後、クノリスに用件を耳打ちした。
「なんだと?」
アンドレアの用件を聞いたクノリスは、驚いたように声を上げて「俺は一旦ここで失礼する」と席を立った。
「どうしたの?」
クノリスは、食事に来なかったことがあっても、食事の途中で席を外すということが初めてだったので、リーリエは不安げな表情でクノリスを見た。
「君のお嫁さん候補は、今日一日私が預かろう」
突然ダットーリオが声をあげると「すまない……ダットーリオ」とクノリスが言葉を漏らし、リーリエの頭にキスを落とした後、アンドレアと共に部屋を出て行った。
「何があったんでしょうか……」
理由を教えてもらえなかったリーリエの心の中は不安な気持ちでいっぱいだった。
ダットーリオは、外の景色を眺めながらお茶を飲んでいる。
「リーリエ様。本日の授業が始まりますので、そろそろ」
「え、ええ」
リーリエが腰を上げると、ダットーリオが「私も同行しよう。君の受けている授業とやらに興味があるな」と笑顔で言った。
***
メノーラは、突然ダットーリオが授業に参加するというので大慌てだった。
「君の授業の質で、今後のアダブランカ王国の質が決まるのだからな。楽しみにさせていただくよ」
「は……はい!私、もちろんでございます!」
完全に委縮してしまっているメノーラに、ダットーリオはリーリエよりも前のめりに授業に参加し、質問という名の意地悪をして楽しんでいるようだった。
午後になると、散歩の時間がやって来た。
城の中に一日中籠っていると身体の疲れが取れないので、一日に一回は庭を散歩するようにしているのだ。
「今日は、外に出ない方がよさそうだ。君のスケジュールを変更させてくれ」
ダットーリオはそれだけ言うと、ミーナにボードゲームとお茶の準備をするように指示をした。
散々授業でイジメられたメノーラは、意気消沈している。
ミーナが指示されたボードゲームと、お茶を持って戻ってくると、ダットーリオは「さて、みんなでゲームでもしようか」と隅に座って落ち込んでいるメノーラにも声をかけた。
生まれて初めてボードゲームというものをしたのだが、なかなか面白いものだった。
提案者のダットーリオはもちろん強かったのだが、ダットーリオに引けを取らないほど強かったのは意外にもミーナだった。
「教師は彼女じゃなくて、君の方がいいんじゃないか?」
ダットーリオはメノーラの前で楽しそうに、ミーナに言った。
「そうやって相手を混乱させようとする手を何度も使うと、つまらない男に見えますよ。殿下」
「言ってくれるね」
「手の内を見せすぎです。ところで、こちらの駒ががら空きのようですが、私が頂いても?」
「それが誘導だとは思わないのか?君は」
「あらまあ、無駄なおしゃべりばかりしているので、殿下がそんなに優秀だと思っておりませんでした」
見ているこちらがハラハラするような会話を繰り広げていたが、ダットーリオが怒るような気配は見受けられなかった。
「リーリエ様……ミーナさんって一体何者なんですの?」
驚いたメノーラが、リーリエに質問してきたが、全く同じ疑問をリーリエもミーナに抱いていたため質問には答えられなかった。
結局勝負がつかないまま対戦が終わり「では次リーリエ様どうぞ」と満面の笑みでミーナに言われた時、リーリエは思わず後退ってしまった。
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