第33話 ハッピーソルトライフ

「だいぶ暖かくなってきたな。桜も咲いてきたし」

「だね! 今度一緒にお花見しよっか!」

帰り道、夕焼けに照らされた桜並木を通る。(学園内)

「学園内で花見できるのか。まぁ私たちには専用の植物園があるがな」

「それは私たちの植物園じゃないよ?」

月の植物園また行ってみたいな。今度は何か菓子でも持ってくか。

「日菜、今日はどこか寄るのか?」

「うん。久々に実ちゃんの家に行こうと思う!」

久々って。しょっちゅう来てるだろアンタ。

「ちゃんと門限までには帰れよ。絶対に泊めないからな」

今まで言い忘れてたが、日菜は学園内の寮で生活しているのだ。たまに実の家に遊びに行くこともあるが、ちゃんと門限までには寮に帰ってるのでご安心を。 (妹も特例措置で一緒に生活している)

「大丈夫だよ。帰れなくなったら野宿するし」

「現代で野宿する人なんているのかねぇ」

・・・・・・いや、日菜ならやりかねない。こいつ意外と生存スキル高いからな。

「おーい! 二人ともー!」

「冥華・・・・・・」

冥華が手を振って私たちのほうへ走ってきた。

「一緒に帰ろう!」

冥華は日菜の手を握る。何故お前が日菜の手を握るんだ。

「冥華ちゃんは生徒会の仕事いいの?」

「うん。今日は早く終わったからね。どうする? どこかお買い物にでも行く?」

「お買い物かぁ。いいね!」

「馬鹿は帰って勉強しろよ。だからお前らは赤点取りまくるんだよ」

ちなみに今日返されたテストの結果。

私 全部95点以上

日菜 見るも無残な点数。何故退学にならないのかが不思議でしょうがない

「大丈夫! 今出来なくても次頑張ればいいんだから!」

日菜と冥華は私を置いて走り出した。

「今を頑張らない奴に未来なんて無いだろ」

「先々の心配するより、今を精一杯楽しまなくちゃ!」

冥華は笑って話す。

こういう奴が将来苦労するんだろうな。


学園内のデパート

「帰れると思ったのにまた学園に逆戻りかよ・・・・・・」

そして私は日菜と冥華に追いつくために全力疾走したので息切れがひどい。

別に走るのが遅かったり、力が無いわけじゃないんだよ? ただスタミナが無いだけだよ? 長年引きこもり生活やってたせいで。

「何見る? お洋服とか見に行く?」

「いいね! 今度水星ちゃんと遊びに行く予定だから、新しい服が欲しかったんだよね」

「水星様とデートなんていいなぁ。いつか水星様と一緒にデートしたいな」

「あ゛?」


一方その頃、風紀委員長は・・・・・・

「へっくし!」

書類が床に散らばってしまった。

「大丈夫ですか? 風邪なら帰って休んだほうが・・・・・・」

「大丈夫よ。少し寒気がしただけだから」

なにかしら・・・・・・? 何だか身の危険を感じたような・・・・・・。


「実ちゃん? 急に変なオーラ出してどうしたの?」

「いや、気にするな。さっさと服見るぞ」

いかんいかん。思わず風紀委員長に嫉妬してしまった。ここは冷静に・・・・・・。

「ん? あそこにいるのって・・・・・・」

冥華が謎の少女を見つめる。

「あの人、どこかで見たような・・・・・・」

日菜は頭を抱える。

「副会長だ。何やってるんだろ」

「副会長か。これまた大物が出てきたな」

いや待て。この流れはまさか・・・・・・。

「尾行してみようか」

ほらやっぱり! 生徒会幹部初登場回恒例の『幹部の私生活覗いちゃいました~』始まった!

「頼むからこれ以上面倒ごとを起こさないでくれ。私の胃に穴が開く」

「大変! 接着剤持ってこなきゃ! アロンア○ファ・・・・・・」

そういう意味ではない。

「好きにやってろ。私はカフェで軽食取ってくるから」

「うん。気をつけてね」

日菜は手を振って私を見送った。


「さてと、何食べようかな」

私はメニュー表に目を通す。

・・・・・・カフェってラーメン無いのか? 何故パンケーキとかフレンチトーストはあるのにラーメンが置いてないんだ!

「あの~・・・・・・、お客様?」

「あぁすみません」

もう並んじゃってるし、適当にこれでいいか。

「ブラックコーヒー、ホット一つ。あとポテト一つ」

ふふん。たまにはちょっと大人目の料理を注文してみたぞ。私も少しは成長したのかな~?


「お待たせしました」

「!?」

・・・・・・ポテト小さすぎない? 何これ、カラスの餌? (失礼)どう見ても人間が食うもんじゃないだろこれ。ダイエット中の人の食事か?

「お客様・・・・・・、後ろのお客様がお待ちですので・・・・・・」

「す、すみません」


「あーあ。ぼったくられた」

席に着くなり私は不満を口にする。

だっておかしいでしょ。こんな量で300円も金取るなんて。だったらマッ○のポテトMのほうがまだ食いごたえあるっての。

「・・・・・・でもコーヒーは美味い」

流石カフェだな。コーヒーが美味いのは当たり前だ。

「おっ、実じゃないか。奇遇だな」

「生徒会長。アンタもカフェに来たのか?」

「この方に向かってなんですかその口の利き方は! 風紀委員長の名において・・・・・・」

風紀委員長も一緒か。何で手錠握ってるの?

「まぁまぁ。いいじゃないか。誰にでも平等に接することが出来るのはいいことだ」

生徒会長が風紀委員長を制止する。

「で、質問に答えろよ」

「おぉ、すまない。我もこのカフェが大好きでな。執務に疲れたときに来ているんだ」

「私は会長の付き添いなどの理由で来ています」

「など? 他に理由があるのか?」

すると、風紀委員長はみるみる赤面していく。

「・・・・・・実は、今度冥華さんとデートの予定がありまして、その為の服を買いに来たのです」

デジャヴか。

「そうだ実、せっかく一緒になったのだから共にお茶にでもしないか?」

「別に構わないけど」


「買ってきたぞ」

会長は満足そうな笑みを浮かべながら、私の席へ来た。

「・・・・・・意外なもの頼むんだな」

会長のプレートには、巨大なパンケーキ、生クリームがたっぷり乗ったミルクコーヒーが乗っていた。

「会長はかなりの甘党なのです。実際、執務中はずっとコンビニスイーツ食べてますから」

意外な一面。

「それでは頂こうか」

会長がパンケーキをナイフで切り、フォークに刺したパンケーキを口に入れようと瞬間。

「実ちゃん!」

「日菜!? 何でここに」

ガキィィ!!!

鈍い音がした。それも何かが衝突するような。

「痛っっっ!!!」

会長は口を押さえながら地面を転がりまわった。

「会長! 大丈夫ですか!?」

風紀委員長が急いで会長へ駆け寄る。

「歯が・・・・・・、歯がぁーー!」

おそらく、さっきの日菜の声に驚き、思いっきり口を閉じてしまったのだろう。歯と歯をぶつけてね。

「日菜さん!! 貴方なんてことを!」

「すみません! それより、実ちゃん! 何か怖い人がいるんだよ!」

「怖い人?」

「うん。何か副会長と冥華ちゃんが今戦ってるんだけど、誰か止めないとだから」

「何が何だか・・・・・・」

だが日菜があせっているのなら本当なのだろう。

「仕方ない。今から向かう」


「冥華さん・・・・・・。あなたなかなかやりますね」

「副会長もね! 盛り上がってきた~!」

私たちが到着したときには、バトル漫画のような死闘を繰り広げている二人がいた。

「おいおい、一体どうしたんだよ・・・・・・」

私の横を、会長が横切る。

「止まれ!」

会長はこの階全体に響くような声を出した。その威圧は私たちにも届き、足が震え動けなくなってしまった。

「か、会長・・・・・・」

「生徒を守る立場であろう生徒会の幹部が何をやっている! 我ら生徒会の誇りを忘れたのか!」

「申し訳ございません・・・・・・」

冥華は地面に手をつき頭を下げた。

おぉ、冥華が威圧に負けるなんて。やっぱり会長は只者じゃないな。

そしてもう片方の肩まで伸ばした白髪の少女も頭を下げる。

・・・・・・さっきの甘党なのがばれなければもっと凛々しかったのに。

「結衣! お前も説明しろ! ・・・・・・痛い・・・・・・」

会長、今思いっきり痛いって言ったな。

「冥華が・・・・・・、会長を舐めた言い方で呼んだから・・・・・・」

「舐めた言い方?」

会長も理解できなかったのか、頭に疑問符を浮かべる。

「だって、だって、誰よりも愛しい会長を、西行ちゃんだなんて・・・・・・。あぁぁ! 虫唾が走る!」

「結衣さん・・・・・・、落ち着いて・・・・・・」

風紀委員長が駆け寄るが、結衣は風紀委員長を突き飛ばした。

「会長には、私だけがいればいいんですよ? 会長を誰よりも愛する私だけがいれば・・・・・・! その為に私は副会長になったのですから!」

「うわ、こっわ」

完全にヤンデレだよ。会長気をつけな。

「実ちゃん、この人怖い・・・・・・」

日菜は私に抱きつき、私の腹に顔をうずめる。

可愛いぃぃぃ!! やめろ! 私があの人みたいになってしまうから!

「あっはははは! 誰よりも愛おしい会長会長会長会長!」

血走った目をし、狂ったように『会長』という言葉を連呼する結衣に周囲は恐怖に包まれる。誰か助けて。

「結衣、分かったから少し口を慎め」

会長は幼い子供を諭すように話しかける。

「会長・・・・・・」

何この茶番。

「次このような行動をしたら、我はお前のことを軽蔑する」

「嫌だ・・・・・・、嫌だ嫌だ!」

いや私だったらこの時点で軽蔑するわ。

「だったら次からこのような行動は慎め」

「はい・・・・・・」

結衣はすっかりおとなしくなった。

「よし。せっかく皆そろったんだ。皆でお茶にしようではないか」

「いい提案ですね!」

結衣は会長の腰に抱きついた。この二人、抱きつくの好きだな。

「会長を一番愛しているのは、この私なんですよ?」

「分かったよ。我をここまで愛してくれるのはお前だけだ。感謝する」

「はぁぁぁぁ・・・・・・!」

結衣は鼻血を滝のように垂らしながら、地面に倒れてしまった。

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