第24話 寝すぎる子も普通に育つ

「じゃあ、今日は古文の授業を・・・・・・」

私が今やっているのは、古文の授業だ。正直私は古文には一切興味は無い。でも受けないと単位取れないからな~。

「ここの文を訳すのは、えーっと、氷川・・・・・・を飛ばして、秋雨」

「あ、はい」

何で飛ばしたんだよ。おかげでこっちが被害受けてるんだが。

「はい正解」

氷川という名の少女は私をよそに寝息をたてて気持ちよさそうに快眠している。

実は彼女が授業中に居眠りを始めたのは今に始まったことではない。少なくとも私が入学してこのクラスに入ったときには既に彼女は眠っていた。

というより私の自己紹介のときもずっと眠ってたんだぞ。別に聞けと言ってるわけじゃないけどさ。

「流石実ちゃんだね」

「こんな問題、馬鹿でも解けるだろ」

「じゃあ私は馬鹿ということでいいんだね」

「異議なし」

「少しは異議を唱えてもいいんじゃないかな」


授業が終わった。

「ふぇぇぇ・・・・・・」

「実ちゃん、それは一体どういう鳴き声?」

・・・・・・自分でも何故こんな声が出たのか分からないんだが。

「いや、私は普通に腰を伸ばしただけだぞ?」

「そうなんだ。私、ついに実ちゃんがそういう路線に走ったと思ってひやひやしたよ」

そういう路線ってどういう路線だよ。あ、自分でも分からなくなってきたわ。もしかして『鳴き声が可愛い系女子』ってこと?

「自販機でコーヒー買ってくるけど、日菜は何か欲しいものとかあるか?」

「『早朝の紅茶』。味は濃い目のやつね?」

「はいはい」

あの紅茶高いからあんまり買いたくないんだよなぁ・・・・・・。でも私が自分で言ったことだから責任はしっかりと持つとしよう。


「げ、早朝の紅茶売り切れじゃん・・・・・・。日菜に怒られるぞ・・・・・・」

あいにく、早朝の紅茶は人気なようで、赤いランプがくっきりと光っていた。そんなに光らなくても分かるから。

「無糖の紅茶でいいか」

私は無糖、結構好きだぞ? さっぱりしてて美味いし。

「私はいつも通りのブラックっと」


「何で無糖なの」

無糖の紅茶を手渡すと、案の定渋そうな顔をした。

「仕方ないだろ。売り切れだったんだから。欲しかったら購買とか、学園内にあるスーパーとかに行け」

むしろ私がお前のために紅茶を買ってやったことに感謝しろよ。・・・・・・過去には万超えるような商品とか買い与えたけどな。

「ていうかさ、あの氷川ってやついつも寝てるのか?」

私は机に突っ伏して寝ている少女を指差す。

「うん。実際、入学式の日は保健室で寝ていたし。私自身、あの子が起きたところを見たことが無いんだよね」

「家でちゃんと寝てるのかよ・・・・・・」

「実ちゃんには言われたくないと思うよ」

「だったら月とかもヤバイだろ。次行ったとき見てみろよ、あの目の下にくっきりとある隈を。多分メイクしても隠れないだろうな」

「・・・・・・起こしてみない?」

「お前・・・・・・、正気かよ・・・・・・」

日菜がそう言った瞬間、ざわついていたクラスが静まり返った。

「神楽さん、悪いことは言わないわ。あの子を起こすのはやめなさい」

振り返ると、漆黒の髪色をところどころ白色に染めている少女が立っていた。髪の結い方のセンスすごいな・・・・・・。

「委員長? あいつのこと知ってるのか?」

「えぇ。彼女とは中等部からの仲だからね。あの子を無理やりたたき起こしたら、たたき起こした本人の無事は保障できないわ。あと委員長ってあだ名やめてもらえるかしら?」

「日菜ならいけるだろ」

「無視なのね・・・・・・。どうなっても知らないわよ」

委員長はそう日菜に警告すると、クラス全体に避難指示を出す。

「あの女・・・・・・、死んだな」

「いくら神楽さんといっても・・・・・・、絶対氷川さんには勝てないよ・・・・・・」

まるでこれから不発弾の処理でもするのかのような空気になってしまった。

「日菜、こういうタイプの人って、多分ものすごく大きい声で叫ばないと起きないんじゃ・・・・・・」

「氷川ちゃーん。起きてー」

普通に揺さぶって起こすのかよ。でもそんなので起きるはずが――

「ふぁああああ・・・・・・。あれ? 何で私今起きてるんだぁ~?」

起きるのかい。意外と眠りが浅かったな。

寝ぼけた目で日菜を見つめる氷川。日菜はそれを澄んだ瞳で見つめる。

「・・・・・・あなたが起こしたの?」

「そうだよ。起きているところ見たこと無いなーって思って」

「ふーん・・・・・・。おやすみ~」

氷川はすぐに寝始めた。

「いやいやいやいや! もう寝るの!?」

日菜がもう一度氷川の体を揺さぶる。お前も懲りないな。

「・・・・・・こ・・・・・・ぞ」

「え?」

「次、私の睡眠を邪魔したら・・・・・・殺すぞ?」

「ヒッ・・・・・・!」

いつも能天気な日菜の顔が青ざめる。生徒会大集合ぶりだな、こんな顔したの。(第十五話参照)

「これで分かったでしょ?」

「ん~? ひめちゃ~ん! 久しぶりだね~」

「今朝も会ったでしょう。それ以前に毎日あなたのことを学校に送り届けているのは誰だったかしらね?」

「ひめちゃんで~す」

あぁ~~! 喋り方遅くてイライラする!! 園児に話しかける先生かお前は!

「分かっているのならいいわ。それで、昨日は何時間寝たの?」

「昨日は頑張って寝る時間減らしたよ~。なんと20時間だったんだよ」

コアラかお前は。

「よかったじゃない。その調子で少しずつ減らしていきなさい」

「それでいいのかアンタは!?」

「これでもマシになったほうよ。小学生のときなんて24時間睡眠なんてしょっちゅうあったもの」

「人生の半分以上を睡眠に捧げていそうだな・・・・・・」

別に睡眠を悪いとは言わないが、流石に寝すぎだろ・・・・・・。赤ちゃんでもそんなに寝ないぞ?


「で、この後の授業は参加できそうなの?」

「う~ん・・・・・・。起きていられないと思うな・・・・・・」

「でもそろそろ授業受けないとまずいんじゃない? 別にあなたの頭の良さを否定しているわけじゃないけど、主に授業態度とか」

頭脳を否定しないって・・・・・・。もしかしてこいつも天才属性か?

「確かにね~。少しだけ頑張ってみよう・・・・・・か・・・な・・・・・・」

そのまま机に倒れこんでしまった。

「寝ちゃったわね・・・・・・」

委員長は頭を掻きながら言う。

「会話の途中で寝るんじゃねぇ!」

「実際、あの子は小・中・高とテストで95点以下を取ったことは一度も無いわ。でも授業中ずっと寝ているわけだから先生からの評価は最悪よ」

そりゃあそうだろうな。私もたまに居眠りするけど、テストはほぼ満点だし。

「このままだとあの子の進級も危ういし。困ったわね・・・・・・」

委員長は再度、頭を掻く。

「いや・・・・・・、そんなこと私たちに言われても困るんだが・・・・・・」

「とにかく。今後は遊び半分であの子のことを起こしたりしないように。次起こして大怪我をしても私は責任取りませんからね?」

「そのときは冥華ちゃん呼ぶよ!」

「冥華ちゃん・・・・・・? ・・・・・・あっ・・・・・・」

あぁ・・・・・・。委員長、余計なことに気付いたな。

「あなた・・・・・・、生徒会の方々とどういう関係なんですか・・・・・・? しかも体育委員長様のお名前をご本名でお呼びするなんて・・・・・・」

※ 読者の方々へ

本来なら、~委員長に様を付けるのは間違った日本語ですが、ここでは話の展開を盛り上げるためにわざとこのような表現を使っていることをご了承ください。

「この注訳いる?」

「生徒会の人たちも話せば分かってくれる人たちばっかりだよ」

良い事言ってるように見えるけど、思いっきり無視するのね?

「冥華ちゃんはカッコいい人だよ~? クールだし、力強いし、頭いいし!」

「お前だいぶ間違った情報伝えてるよな」

力が強い=これは正解。日菜よりも強い。作中二番目。

クール=これは違う。真逆の性格でいつも元気すぎる。

頭がいい=大間違い。授業中に教室を飛び出すやつ。成績も地面を這うレベル。

正しくはこうだ。

「あれ? 私冥華ちゃんのことよく知ってると思ったんだけどな」

「どうやったら頭がいいという表現が出てくるのか教えてくれよ」

ちょうどそのとき、次の授業のチャイムが鳴った。

「時間ですね。席についてください」

「はいよ」

委員長の掛け声で、私たちは席に着く。

・・・・・・進級か。今は考えないでおくか。

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