第19話 ミュージックステージ

「フンフ~ン♪」

「実ちゃん何聴いてるの?」

登校中、私はヘッドフォンをつけながら登校していた。(危険なので真似しないように)

「あぁこれ? 最近知ったんだけど、「呪われた作曲家」っていう人の音楽なんだ。いい曲だぞ」

「いや名前すごいね!? 厨二病なの!?」

「それは私も思った。でも曲は良いぞ」

「ふーん。どれどれ・・・・・・あ、なかなかいい曲だね。実ちゃんが気に入る理由も分かるよ」

日菜がうんうんと頷く。こいつ、意外と音楽のよさが分かるんだな。

「だろ? 私は全然音楽なんて聴かなかったが、この曲を知ってから音楽を聴くようになったんだ」

「へぇ~。それよりも遅刻するよ?」

「本当だ。急ぐぞ!」


「次の時間体育だよ~! 確かドッジボールだったはず! 楽しみだね!」

「そうだな。私はサボるけど」

スマホをいじりながら適当に会話する。・・・・・・ん? 高校の体育でドッジボール? あれ? ここ小学校だっけ?

「というかまだヘッドフォンつけてたの? いい加減に外さないと耳が悪くなるよ!」

「あっ、おい!」

日菜は強引に私からヘッドフォンを取り上げた。

「ちょっと、今サビの部分だったんだぞ!」

「ずっとヘッドフォンしてたら耳が悪くなるよ! ただでさえ実ちゃんは、家にいるときはずっとヘッドフォンつけてゲームしてるのに、これ以上装着時間が増えたら本気で難聴になっちゃうよ」

「お前は私の親か」

「ということでジャージに着替えるよ~!」

「お、おい! 苦しい・・・・・・うっ!」

日菜は私の首の後ろをつかみ、引きずりながら更衣室へと連れて行く。

途中で本気で吐きそうになったのは内緒だぞ。


「実ちゃんはジャージ姿も似合うね」

「そうか? お前と出会う前はずっとジャージ着てすごしてたから分からんな・・・・・・」

だって服に金使うなんて無駄じゃない? たかが布だろ? 欲しけりゃ自分で作れって話だと思うのよ私は。

「そろそろ体育館に行かないと遅刻になるよ? 早く行こうよ」

「その前にトイレに行かせてくれ。授業中ずっと我慢してたんだよ。いい加減限界なんだ」

さすがにこの年で失禁はいろいろまずいぞ。社会的にも、この物語の主人公的にも!

「そうだね。じゃあ私も行こうかな」

何で女子って複数でトイレに行くのかな?


「さて実ちゃん、大事な話があります」

「あぁ。分かってる。でも一応言ってみろ」

トイレの空気が一気にシリアスになる。

「・・・・・・確実に遅刻です。今から行っても、この学園の規模からして間に合いません。さぁどうする?」

「サボるか。一応単位は獲得してるし」

「そういう問題じゃなーい!! ・・・・・・おっと、ごめんね」

「誰と話してるんだ?」

日菜の後ろを見ると、ヘッドフォンをつけた少女が立っていた。日菜の大声で驚いてしまっている。

「おぉ、すまん。私たちは今から出るから、お前使っていいぞ」

「ありがとうございます」

そういうと少女はそそくさと鏡の前に立った。ポケットからコームを取り出し髪をとかす。

「ほら、実ちゃんも見習ったほうがいいよ?」

「うるさいな・・・・・・」

そもそもこの時間帯にトイレで身だしなみチェックするほうがおかしいと思うのだが。そう思ってるのってもしかして私だけ?

「身だしなみを整えるのは乙女の基本中の基本! 大体実ちゃんは髪も整えられてないし、目のクマは酷いし。それなのに肌荒れが一つも無く、高身長って・・・・・・愛されている、愛されている! 実ちゃんは神に愛されている!」

「悪いけど私神とか信じないから」

「現代っ子!」

トイレの中で騒がしくしていると、何かが落ちる音がした。

「ん? スマホか」

たまたまホーム画面になったので見てみると、(見ちゃだめだよ)楽譜が映し出されていた。作曲者名は、「呪われた作曲家」。

「ほい。お前もこの人好きなのか? 今度語り合おうぜ」

「前から思ってたけど、実ちゃんって初対面の人にも「お前」とか言うんだね・・・・・・」

「あぁ、それ私よ。拾ってくれてありがとう」

「・・・・・・私?」

何かのドッキリかな? この学校の財力なら出来ないはずが無い。

「だーかーら、これは私よ」

「えぇ!?」

「祝え! 時空を越え、ネトゲと学力を知ろしめす廃人ゲーマー。その名も秋雨実。憧れの作曲家本人とのご対面の瞬間である!」

「日菜、それ何の真似だ?」

そしてどっから持ってきたんだよ。その分厚い本と、真っ黒なマフラー。そしてベージュ色のコート。


「貴方が、「呪われた作曲家」様でよろしいのですか!?」

「そうよ。サインいる?」

「頂戴いたします!」

「普段からそれをやってくれたらいいのに・・・・・・。主に生徒会の方々に対して」

日菜はため息をつく。

「そういえば、何で貴方はヘッドフォンをつけているのですか? あ、もしかして自分の曲の振り返りですか? なんとも真面目ですね・・・・・・」

「まぁ・・・・・・いろいろあって。あと普通に喋ってくれてもいいのよ?」

「そうか? じゃあ・・・・・・名前教えてくれないか?」

「私はさゆりよ。よろしくね」

「よろしくな」

二人で仲良く握手をしていると、日菜がさゆりに飛び掛った。

「えい! このヘッドフォンどんな感じなのかな~?」

「おい! 勝手に人の物を取るな!」

早速スマホに接続する日菜。無線だから便利なんだな。そんなことはどうでもいいけど。

「~♪ あれ? 音がしない・・・・・・」

「あぁッ・・・・・・!」

「ん? どうした・・・・・・?って、おい! 大丈夫か!?」

さゆりが地面に倒れてのたうち回っていた。

「おい! しっかりしろ!」

「ハァ・・・・・・。ハァ・・・・・・」

さゆりは必死で耳をふさぐ。目が痙攣し、口からは唾液が垂れ流しになっている。

「あっ! お前らやっと見つけたぞ。先公がお前ら呼びに行けってうるさいから・・・・・・。何やってんだ?」

「おっ! 優香、いいところに! 今さゆりが大変なんだよ! 一緒に助けるの手伝ってくれ! あとで購買のラーメンおごってやるから!」

「仕方ねえな・・・・・・」


「ウッ・・・・・・」

「だめだ・・・・・・。医学的知識の無い私たちがやっても無理か・・・・・・。おい実、何とかしろよ」

「無理言うな!」

三十分間、色々と手を尽くしたが、結局さゆりの状態は変わらなかった。

「おい・・・・・・そろそろ他の奴等来るぞ? もしこの状態を見られたら・・・・・・」

「本気でまずいな」

ただでさえ今はとんでもない生徒がそろっているんだぞ・・・・・・?

優香=学校公認の不良生徒(しかも前科持ち)

日菜=脳内銀河&天国

下手したら、冤罪で停学処分もありえるぞ・・・・・・

「さゆり~。どこにいるのかな~・・・・・・さゆり!? どうしたの!?」

今度は白衣を着た女性がトイレに入ってきた。見たところ大学院の人だろうか。

「誰だお前? やるか?」

「いきなり喧嘩吹っかけないで!」

「え!? 何でヘッドフォンしてないの!?」

「・・・・・・ら・・・・・・れた」

「取られた!? 誰に?」

今ので分かるのかよ。やるな。

「・・・・・・の・・・・・・人・・・・・・」

さゆりは日菜を震えた指で指差す。いい加減体力が限界なのだろう。

「君! 何で勝手に取ってるの!」

女性は怒りながらも冷静に日菜の頭からヘッドフォンを取り上げる。そして、さゆりの頭にヘッドフォンを戻す。

「ハァ・・・・・・助かったわ。ありがとう」

「大丈夫だよ。で・・・・・・。何で君は勝手にさゆりからヘッドフォンを取り上げたのかな? さゆりはヘッドフォンがないと大変なことになるんだよ?」

穏やかに、かつ怒りをむき出しで微笑んでくる。さすがに怖い。

「いや~・・・・・・こうなるなんて予想してなくて・・・・・・。何でヘッドフォン無いとこうなるんですか?」

「私は、ヘッドフォンがないと耳が良過ぎるのよ」

「良過ぎる? どういうことだ?」

「私は生まれつき、聴力が人じゃなかったのよ。その上、普通の会話がものすごい爆音で聞こえるの」

「はぁ・・・・・・。なるほど・・・・・・」

「それで、私はこのヘッドフォンをつけてセーブしているって訳。それでもかなりの地獄耳レベルだけどね」

さゆりはヘッドフォンを大事そうにさする。

「そんな大事なものを・・・・・・。ごめんなさい」

日菜は素直に頭を下げる。

「いいのよ。今回は説明不足の私も悪かったし」

「・・・・・・ところで、ヘッドフォンをつけていないときって、どれくらい遠くまで聞こえるんだ?」

「まぁ、ここからブラジルくらいかしら。集中すればの話だけどね。それにヘッドフォンをつけていないとさっきみたいになるからなかなか実践できないのよね」

「えぇ・・・・・・」

私は顔を青くする。え? じゃあ・・・・・・今までの私の独り言も・・・・・・。全部・・・・・・

「いやだぁ~~~!」

「ちょっと実ちゃん!? というより本気で授業サボちゃったよ!」

トイレの中で、私は他の人に心配されながら絶叫するのだった。

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