第17話 世界一愉快な委員長

日菜が我が家に来てから一日。

「日菜、どうだ? 足りないものとかあったか?」

「そんな! 全然! むしろありすぎるぐらいだよ!」

登校中、暇つぶしにそんな会話をする。

ありすぎるって何? じゃあ減らしてもいいんだな?

と、そのとき。

「あれ~? 君たち今から学校~?」

「そうですけど何か」

チャラそうな男四人組が絡んできた。

「ね~、オレ達とあそばな~い? 学校なんて面倒なところ行かないでさ~」

「嫌です。とにかく私は急ぐので、そこをどけてください」

隙間から通り抜けようとしたが、隙間を封じられてしまった。

「おっと通さないよ~。一緒に行くって言うまでずっといるからね~」

うざい・・・・・・。日菜の力で黙らせるか。

そう日菜に目配せしたとき。

「あれ~? 二人ともどうしたの~?」

銀髪の女性がスキップで駆け寄ってきた。

「おにーさん、二人に何してるの~?」

「え? 一緒に遊ぼうって誘ってたんだけど、ノリ悪くてさ。だったら君が一緒に来る?」

男が女性に手を伸ばす。

「・・・・・・楽しくない」

女性が男の手を勢いよく払いのけた。

「痛っ・・・・・・何すんだこの女!」

「だってあなたたちと一緒にいても楽しそうじゃないんだもん。楽しくないことには興味ないよ」

「ふっざけるなー!」

「危ねぇ!」

私が咄嗟に助けに向かう。だが、

「邪魔だよ」

女性は男一人の胸元をこぶしで殴りつけた。胸元からは鈍い音がした。

「ぎゃあああ! 痛ぇ痛ぇ痛ぇ!」

「大丈夫か! この野郎・・・・・・」

「私の「楽しい」を邪魔するんだったら、本気で殺っちゃうよ? ほら、おいでよ。一緒に遊ぼうよ?」

「ば、化け物だぁ~~~!」

情けない背中を見せて、男たちは走り去っていた。

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

「いいよいいよ、それより怪我はない? 怪我したら楽しくないもんね!」

「え?」

楽しいって・・・・・・。何かすごい癖のある人だな・・・・・・

「ありがとうございます! 『体育委員長』様!」

「そんな言い方しないでよ~~。同じ学園の生徒なんだから、皆仲良く遊ぼうよ!」

『体育委員長』・・・・・・。確かどこかで見た気がするな・・・・・・。

「あっ! あのときの!」

「覚えててくれたんだね! 嬉しいな~! あの時は本当にごめんね? 今度どこかで楽しい遊びをしようね!」

「あはは・・・・・・」

この人・・・・・・、何か怖い。


「ふぅ。何とか学校に着いた・・・・・・遅刻するところだったじゃん」

「実ちゃんもすっかり、学園生活になれたようだね!」

日菜がニコニコしながらこっちを向く。かわいい。

「・・・・・・行くぞ。ホームルームに遅れる」

早足で教室へと向かう。早足で間に合うほどこの学校は狭くないが。それでもたらたらと歩いているよりはましだろう。

「あっ、待ってよ~!」

「その幼女みたいな歩き方をやめろ!」

ほんとに私の心臓が持たないんだよ。可愛すぎてさ。


「結局遅刻かよ・・・・・・」

「実ちゃん! ドンマイ!」

今すぐ全身のその皮剥いでやろうか? その後筋肉を焼いて食ってやろうか?

「あのナンパ野郎共・・・・・・絶対に許さん・・・・・・!」

拳に力をこめて、教室のドアを破壊しようと思ったとき、

「ちょっと、西園寺さん! また勝手に教室を抜け出して!」

年配の女性の声が聞こえたので後ろの教室を見ると、銀髪の女子生徒が、教室から飛び出していた

「だって楽しくないんだもん! 何か楽しいものないかな~」

そのまま廊下を走りながらどこかへ行ってしまった。

さっきの委員長か・・・・・・何やってんだ?

「授業中ぐらいはちゃんと席に着きなさい! ・・・・・・本当に毎度毎度勝手に席を立つわ、教室を抜け出すわ・・・・・・。あの子本当にどうやって生徒会に入ったのかしら?」

「あれで生徒会役員って・・・・・・」

ウチの学園大丈夫かよ・・・・・・。あんな人を委員長にするって。生徒会長も一体何考えてんだよ。

「体育委員長様・・・・・・。なかなかすごい人だね・・・・・・」


昼休み

「今日どこで食べる?」

「どこでもいいよー。もしくは購買とか行く? 今日はおにぎりが安売りだよ!」

「おにぎりか・・・・・・」

今日は弁当を持ってきたしな。さすがにこれ以上の金を使うのは辛い・・・・・・

そう思いながら廊下を歩いていた。

「ん? 実ちゃん、あの人体育委員長様じゃない?」

「ほんとだ。何してんだ?」

体育委員長はスキップをしながら廊下を進んでいた。

「あの人ずっとスキップしてるんだが・・・・・・疲れないのか?」

「体育委員長様なら大丈夫でしょ」

「あ! 二人とも! また会ったね! 一緒にご飯食べない?」

「別にいいですけど」

「た、体育委員長様とお食事だなんて・・・・・・! 最近いいことばっかり続いてる・・・・・・」

「確かに」

ここ最近ずっと委員長ズと一緒に行動しているからな・・・・・・。そのうち他の生徒から怖がられそうだな。


屋上

「は~! 風が気持ちいいな~!」

「そうですね!」

屋上はもはや屋上じゃないからな。もはや海外のガーデニングだよ。

「今日のおかずは何かな~・・・・・・おっ! ハンバーグだ!」

「よかったですね! 体育委員長様!」

二人で仲良く並んで食べているのを私は後ろに座りながら見つめている。

私の弁当は全部冷凍食品と、栄養補助ゼリーだ。でも楽だからいいんだよなー・・・・・・。いちいち作る必要ないし・・・・・・。そして洗う必要もないし・・・・・・

・・・・・・そして委員長、子供かよ。

「ところで委員長様は、どうして委員長になられたのですか? 何か理由とかあるんですか?」

「まぁ、色々あるんだけどね~、やっぱり生徒会長様の存在が大きかったかな~・・・・・・」

「生徒会長様?」

「うん。私以外の委員長も、生徒会長様に救われたんだよ」

「・・・・・・」

ゼリーを吸いながら見つめる。悲しいな・・・・・・、私。

「小さい頃はね、私は友達がいなかったんだ。「気持ち悪い」とか「頭おかしい」とか言われ続けたんだ。先生でさえ、私に近寄らなかったよ。そしていつも一人で遊んでたよ。ブランコとか、滑り台とか。でも、全然楽しくなかった」

「体育委員長様・・・・・・」

「中学校のときは、一応一人だけ友達が出来たよ。でもすぐに絶交されちゃったけど。結局中学校のアルバムに写っている私は全部一人だったな。運動会も、学芸会も、修学旅行もね。あと、頭も悪かったなぁ。今も変わらないけど。私は高校にはスポーツ入学したんだけどね」

「あ、それ私もです!」

・・・・・・やっぱりな。そうじゃなきゃ入学できるはずがないもん。

「で、その後この学園に入ったけど、やっぱり友達は一人も出来なかった。どこに行っても運命って変わらないものなんだね・・・・・・」

「・・・・・・」

「一人でご飯食べて、一人で電車に乗って、一人でお家に帰って、休日は一人で遊んで。ずっと一人だったよ。もう精神的に辛かったよ。周りはいろんな人と仲良く楽しいことしてたのに、私だけ全然楽しくなかった」

「そうなんですね・・・・・・」

「ある日、いつもどおり一人で屋上でご飯食べてたんだけどね。そこにいたのは、生徒会長様だったんだ」


『西園寺 冥華だな』

『・・・・・・あなたは?』

『生徒会長、国分寺 西行だ。よろしく』

『生徒会長様!? どうしてこちらに・・・・・・』

半分驚き、半分恐怖の思考で会話を続ける。

『日ごろのお前を観察していた。・・・・・・辛かっただろう。悲しかっただろう?』

『それは・・・・・・はい・・・・・・』

うつむきながら言う。

『お前、生徒会に入らないか? 生徒会なら、お前のありのままの自分を表現できるぞ。何より、『楽しい』ぞ』

『楽しい・・・・・・本当ですか?』

『あぁ。お前の『楽しい』は、全部ここに詰まっている。お前一人じゃ抱えきれないぐらいの『楽しい』がな。どうだ? 私と一緒に、お前の『楽しい』を叶えてみないか?』

『・・・・・・はい! 西行様! 貴方様のために、全力を果たします!』

左ひざを地面につき、右手を胸に添える。

『よかろう。今よりお前は・・・・・・『体育委員長』だ。これは、その証だ』


「で、このバッジと腕章が生徒会長様から頂いたものなんだ」

「すごいですね・・・・・・」

日菜は腕章を人差し指でつついてみる。

「そこから、生徒会長様と共に全力を果たしたなぁ。私の『楽しい』を叶えるために。生徒会長はとにかく温かい人だったよ。この世に神様がいるとするのなら、それはせいと会長様のことだと思うな」

「やっぱりすごいな・・・・・・生徒会長様は・・・・・・」

「生徒会長様がいなかったら、多分今頃、この学園から姿を消していたかもね」

・・・・・・既にさっきの問題行動で退学になっていると思うのだが・・・・・・しかもそれを毎日やってるんだろ?

「この後どうする? どこかに遊びに行く?」

「行きたいです! どこで遊びますか?」

「サッカーとか、ゲームセンターとか、ボーリングとかいっぱいあるよ! それに私体育委員長だから、優待されるからお金のことは気にしないでね!」

「わーい! 早速遊びましょう!」

・・・・・・日菜が二人に増えた気分だ。


「ストライクだ~! やった~!」

「おめでとうございます!」

ボーリング場で委員長と日菜がハイタッチしながらはしゃいでいる。私はその影でコーヒーを飲みながらスマホでニュースを見る。正直つまらん。

「はい! 次、実ちゃんの番だよ!」

「頑張ってね!」

「はいはい・・・・・・やりますか・・・・・・」

ピンに向かって出せる限りの力で玉を投げる。

はい。もちろんガーターでしたよ!

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