三の六 群れなす首魁 〜殲滅〜

 パイプクリーニングホースを奥に押し入れ、音と流量が変わったところを重点的に洗浄する。

 圧力の掛かった水が、油脂の固まりを剥がして汚水枡まで流してくれば、その地点はオーケーで次に進む。


 次の地点といっても、十数センチほどだろうか。

 少しずつ、本当に少しずつ進んで、汚水枡の縦穴には油脂の固まりが積もっていた。

 小さなカケラは間を縫って流れていくが、少し大きなモノは固まりと固まりの間に残っている。


 固まりは、流されてきた油脂だけで成長するのではなく、押し流されたカケラが引っ掛かって同一化した部分もあるのだろう。


 例えば、パイプフニッシュのような薬剤でシンク下の蛇腹に付着した油脂を剥がす。

 蛇腹だけを狙って流すわけではなく、排水管全体を洗浄する目的で使用していた薬剤だが、指定された使用量で効果があるのは蛇腹くらいまでだと思われる。


 薬剤によって剥がされた油脂は、仕上げの水に押し流される。

 この時、道中の排水管がつるりとした状態であれば問題ないが、油脂の固まりなどのために流れが滞留する箇所があったり、流す水の量が少なかったりすれば、固まりにくっついてしまうかもしれない。


 かように、薬剤も役に立つばかりか油脂の固まりの形成を助長する場合もある。

 水道業者の動画では、薬剤と油脂が混ざってスライム的なとした物体に化けた事例も紹介されていた。これも、薬剤を入れたあとに流す水が少なかったか、流すのを忘れていたかで、ゼリー状の物体は排水管詰まりに大いに寄与するという。

 このスライムのあまりの気持ち悪さ、アレが出現しても対峙するのは自分という絶望感に、薬剤使用時は放置時間を守り、水を多めに流そうと固く誓った。


 観察と考察を繰り返す間にもパイプクリーニングホースはゆっくりと進んでいる。

 汚水枡の縦穴には、長さ十センチほどの油脂の固まりが積もり、狐色の水が泡立ちながら流れすぎていく。


 どれくらいの長さ入ったのだろう。

 ホースの一メートルおきに印を付けておけば良かった。


 床下排水管は、第一汚水枡の横穴から真っ直ぐ二メートル、九十度曲がって二メートルの地点から、さらに九十度奥へ曲がりつつ斜めに立ち上がる。

 ケルヒョー(仮)専用パイプクリーニングホース七・五メートルのうち四メートル入れればここからの洗浄はお仕舞いとなる。二度目の九十度は、曲がりながら立ち上がる難所で、この固いホースではおそらく曲がれない。


 残りを測れば何メートル入っているかは分かるというのに、そんな簡単なことにも気づかずにじりじりとした思いを抱いて作業を続けた。

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