ネクストターゲット

【スクリーンチーターズ】お嬢様と仲良くなりたい突発コラボ《指宿アキラ》

同接:4200人



 配信開始から1時間が経過した。


 最初は少なかった同接数も、炎上騒ぎ真っ只中のミサキさんとコラボしてるからか、いつもの自分の配信よりもかなり多くなっていた。


 突発的な配信にも関わらず、たった1時間でここまで多くの視聴者が見ているというのは、それだけミサキさんたちの炎上の規模が大きいという事実を表している。


 コメントを見れば色々な反応が流れているのが目につく。


 この配信を純粋に楽しんでくれるコメントや、炎上騒ぎからの興味本位で見に来たという声、さらには少数ではあるがこの配信を批判する意見まで様々だ。


「(そろそろかな……)」


 これ以上長引かせるとアンチのコメントが増えてくる、そういう直感があった。


 現状、批判的なコメントはおおよそ全体の5%程度か。


 だいたいは普通のコメントに押し流されて気にならないが、注視していればに目に入るくらいの頻度でちらちらしている。


 純粋にこの配信を楽しんでくれている視聴者も、批判的なコメントを目にすれば不快な思いをするだろう。


 この配信を成功のまま無事に終わらせるなら、そろそろ切り上げるのが良いだろう。


 タイミングを見極める。


 ずっとそのあたりの塩梅を見極めながらミサキさんとゲームで対戦するというマルチタスクをこなしてきたせいか、対戦成績はどっこいどっこい。


 現状、ちょっとの差で俺が勝っているという状況だ。


 相手の姿が見えないシューティングゲーム。


 相手の画面が見れるとは言え、コメントも見ながらやるとなれば流石に


 ミサキさんはどうやらFPSが得意じゃないらしく、最初は一方的な展開になるかなと危惧していたのだが、結果的にはそんなことにならず拮抗した戦いが続いていた。


 下手 VS 下手という形で……だが。


 コメント画面、自分のゲーム画面、相手のゲーム画面と3つの画面を見ながら相手の位置を推測して撃破するというのは俺に強力なデバフとして作用していた。


 『アキラ下手すぎw』というコメントにぐぬぬしながら気付かないふりをしつつ、配信終了のタイミングを見極める。


 ミサキさんにも花を持たせたいところだけど、こっちにもプライドがあるんでね。


 あと、これ以上長引かせると批判コメントが増えそうだし、ここで終わりにしよう。


 ちょうど今、やっていた対戦が終了した。


 総合結果は変わらず、僅差で俺の勝ちだった。


 ちょっとゲーム展開的に気持ちが熱くなっているお嬢様をどうどうと抑えながら、締めの言葉を口にする。


「はい、というわけでね。ちょっと短いんですけど、これにて配信は終わりにしようと思います」

「ちょっと待ってください!? 勝ち逃げは許しません!! もう1回!! もう1回です……わっ!!」



コメント:アキラ勝ち越し!!

コメント:ぐだぐだでワロタ

コメント:絶対勝ち逃げする気だろw

コメント:謝罪まだー?

コメント:まぁ、勝ちは勝ち

コメント:もう終わり?早くない?

コメント:あっという間の1時間

コメント:お嬢様ポンコツだったんだな

コメント:「ですわ」忘れそうになってて草

コメント:キャラ崩壊w



「まぁまぁ、今日はもう遅いから。また今度やろっか? ね?」

「本当ですか? また、やってくださいますか?」

「ホントホント」

「うぅー……悔しいですが、今日のところは引き下がります……わ」


 悔しそうな声を唸らせながら、ミサキさんは引いてくれた。


 こちらの意図を汲んでくれたみたいだ。


 ありがたい。


 だからこちらも彼女の口調が崩れているのは気にしないことにした。


「ありがとう。それじゃあ今日はこのへんで配信を終了したいと思います。ミサキさん、今日は急なコラボに付き合ってくれてありがとうね」

「付き合っ!? ま、まぁわたくしも今日はたまたま予定が空きましたので、ちょうどよかっただけです……わ。こちらこそ誘っていただきありがとうございました」

「うん。視聴者のみんなもここまで見てくれてありがとう!!」

「アキラさんのリスナーの皆様もありがとうございました。それでは皆様ごきげんよう」



コメント:おもろかったwww

コメント:またコラボしてくれ

コメント:おつかれさまー!!

コメント:楽しい時間をありがとうございました

コメント:え?まじで炎上についてなんも触れないの?

コメント:おつおつ

コメント:次いつやるんだろ?

コメント:今北

コメント:初見です

コメント:いま終わったで



 マウスをクリックし、配信を終了させた。


 とりあえず、これで当初の目的は果たせたと思う。


 次の配信への布石も打てた。


 これでミサキさんが、このまま活動を継続しても良いという最初の流れを形成できたはずだ。


 あとはネットの反応を伺いながら、彼女に頑張ってもらうしかない。


 俺にできることはここまでだ。


 あとは……そうだな。


 ミサキさんとの通話はまだ切れていない。


 年末の予定でも聞いておこうかな。


「ミサキさん、このまま少し話をしてもいい?」

「はい。なんでしょうか?」

「今年の12月って予定空いてる?」

「ふぇっ!?」




◇◇◇




 次の日。


 時刻はお昼を回った頃。


 昨日の配信についての反応をネットサーフィンしながら、昼食後のコーヒーを口に含み一息つく。


 ざっと見る限りでは、昨夜の突発コラボは割と好評という結果に落ち着いているようだった。


 一部批判的なコメントもチラホラ見受けられたが好意的な意見の方が大半を占めていた。


 ミサキさんのゴースティング疑惑についても『誤解だった』との意見が上回っているようで、彼女に対する炎上も一歩一歩着実に終息へと向かっている様子だった。


 このまま今の状態が既成事実化すれば、炎上前の状態に戻るのも容易だろう。


 狙い通りの方向へ終息しそうでなによりで、ホッと安心した。


 昨日は配信を終えた後、ミサキさんと少しだけ話をしてから通話を切った。


 話と言っても、年末のFPS大会へのお誘いだったわけだが、ミサキさんからの返事は一旦『保留』という形になった。


『あ、あぁ……12月の予定ってそういうことですか……』


 何やら慌てたあとにスッと落ち着いた様子の彼女が、年末のの予定を確認してくれた。


 スケジュール的には空いているけど、返事は待たせて欲しいという。


 理由としてはいくつかあるようで、まだ炎上がおさまっていない状態で参加表明すると逆風になる恐れがあることや、彼女自身FPSが得意ではないから足を引っ張ってしまうという負い目などが挙げられた。


 ただ、一番の理由としては──。


『アキラさん、このあと井川さんとマドカさんにも連絡しますよね?』

『あら、よくわかったね』

『簡単な推理ですわ。わたくしに手を差し伸べるほどのお人好しのようですから、2人の問題にも首を突っ込むおつもりなのでしょう?』

『……まぁ、うん』

『でしたら、返事は待たせてくださいな。あの2人にも大会参加のお誘いをかけるのでしょう? わたくしたち3人の炎上騒ぎ全てが上手くおさまったら、みんなで話し合って決めたいですわ』

『ふむ……この騒ぎがおさまる前提で話すんだね?』

『人の噂も七十五日と言いますし、形はどうあれ終息はするでしょう。問題はどうおさめるかですわ。そこは経験豊富な大人であるアキラさんを信用していると思ってくださいな。今回のように、上手く着地できればわたくしとしては3人での参加を拒む理由はありませんわ』

『君たち3人をカラぶったら今のところ他に当てがないんだけどな……』

『ふふっ。そのときはわたくしたちも他のメンバーを探すのに協力いたしますわ』

『うん。その時はお願いするよ』


 アイキュー部全員の炎上騒ぎが無事に解決したら答えを出したい。


 最初から3人の炎上騒ぎを終息させるつもりで動こうとしていたのだが、そんなことを言われたら俄然やる気も沸いてくるというもの。


 ミサキさんは、ここから先の手助けはいらないだろう。


 あと2人。


 不登校疑惑の井川君か、転生疑惑のまどかさんか。


 そう言えば、昨夜のミサキさんとのやり取りで気になった発言があった。


『あと、わたくしからもお話しなければいけないことがあります。例の、わたくしたちアイキュー部のことがまとめて書かれたネット記事についてですわ』


 内容を聞くと、少しびっくりするような内容だった。


 確かめなきゃいけない。


 ミサキさんが語った話が本当かどうか。


 それに、彼の炎上に関してはまず本人と話をしないことにはどう解決したらいいのかがわからない。


 そもそも的はずれな炎上をしている可能性すらある訳で。


 そのためにも、話さなきゃいけないな、彼と。


 チラッと壁に掛かった時計を見る。


 時刻は午後の1時過ぎ。


 今日は平日。


 普通の学生なら、学校にいる時間帯。


 もし彼が家にいるなら、通話が繋がる可能性がある。


 まぁ、無視される可能性もあるけど。


 チャットツールから井川君のアイコンを選択し、通話を開始。


 1コール。


 2コール。


 3コール。


 4コール。


 だめか?


 5コール。


 トゥルン!!


『……なに?』


 通話が、繋がった。





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