マダミス 投票フェーズ

◇◇◇


推理披露フェーズ→投票フェーズ


◇◇◇




「はい、それでは投票フェーズへと移りますわ!! 制限時間は5分間とりますので、5分以内にワタクシに投票先をお伝えくださいませ。皆様の投票が完了いたしましたら、エンディングフェーズへと移行しますわ!!」


 GMの言うとおり、投票フェーズへと移行する。


 この時間は推理披露フェーズでの全員の推理を吟味し、誰に投票するか──つまり誰がメナシトーヤを殺害した犯人なのかを決めるフェーズだ。


 投票権を持っているのはアキトとトーカとスバルの3人。


 奇数だから、基本的には1回の投票で犯人が決まる。全員がバラバラの人物に投票して1:1:1で同票になったりしない限りは。


 でもなんて一言も言われていない。つまりは、今回の物語の登場人物全員が投票先に含まれる。


 もちろん、行方不明であるカズトも……。


 ……俺は、さっきのスバルの推理で納得してしまった節がある。


 トーカとスバルの話を素直に信じるのであれば、確かに昨夜この屋敷にことになる。


 そして、その人物は恐らくアキトの弟──カズト以外にあり得ない。


 俺は最初はスバルが犯人だと思っていたし、スバルに投票しようと思っていた。


 でもそれは、スバルが赤の他人だと思い込んでいたから。


 心のどこかで、スバルに投票しても──スバルを犯人に仕立てあげても問題ないと、そう思っていたからかもしれない。


 でもトーカとスバルの推理を聞いて考えが変わった。


 スバルはきっと、アキトの妹だ。


 それがもし事実ならアキトはスバルに投票できるだろうか?


 そして仮に犯人がカズトだった場合でも、カズトに投票することが、アキトとして正しい行動なのだろうか?


 今回、4人コラボでマダミスをするという話を、最近コラボして仲良くなった男性トップ個人Vのバビ君にした時に、こんな会話をしたのを思い出す。



◆◆◆



 ある日のことだった。


「え? アキラ氏今度マダミスやるのか?」


 コラボを機に仲良くなって相談事もするようになったバビ君に4人コラボの話をしたところ、バビ君はマダミスという単語に反応を示した。


「うん。その口ぶりだとバビ君はマーダーミステリーが何なのか知ってるみたいだね」

「もちろんだとも!! というよりも、何度かやったことがあるしな」

「へぇ、結構好きなの?」

「見るのも好きだし、やるのも好きだ!!」


 どうやら、バビ君自身やった経験があるようで、詳しそうだった。


 そこで俺はコラボする時の参考にするため、少し深く掘り下げてみることにした。


「ふーん……ちなみにどんなところが好きなのか、詳しく聞いてもいい?」

「ふむ……強いて挙げるなら、我が好きなのはプレイヤーがするRPロールプレイだな」

RPロールプレイ? それってどんな?」

「下手くそでも何でも、自分がするキャラクターになりきってプレイする姿勢が我は好きだな!!」


 バビ君自身が『そう』だからなのか、彼はRPを重視しているみたいだった。


「あと、特に好きなのはプレイヤーがところだな」

「キャラクターの心情を読みきる? それってどういうこと?」

「ふむ……具体的に言えば『自分のキャラクターならこの場面でこんな選択は絶対にしない』とプレイヤー自身が判断して、時に目的と反する行動をすることだな」


 コラボ前に少し調べてみたから知っている。


 マーダーミステリーは、プレイヤー各々に目的──ミッションが与えられる。それを達成して最終的に得点の一番多いプレイヤーが価値になる推理ゲームだ。


 『勝ち』を目指すなら、目的の達成が最優先のはずだ。


 それにも関わらず目的と反する行動をすることがある?


 そんなことあるのか?


 そんな疑問を素直にぶつける。


「そんなことあるの? 目的を達成してポイントを獲得しないと勝てないのに?」

「滅多に見かけないことではあるがな……プレイヤー視点では目的を達成してポイントを獲得したいという気持ちがあるが、キャラクター視点に立った時、果たしてそれが本当に正しい選択なのか、疑問が生じる場合がたまにあるのだ」


 実際にそんな場面になったことがあるのか、それとも見たことがあるだけのか。


 教えてはくれなかったが、それは確かに過去にあったことのようだった。


「ふーん」


 そんな状況になるプレイヤー心理があまり理解できず、空の返事をしてしまう。


 そんな俺の困惑を理解すると言うように、少し補足を入れながらバビは自分の好きを語る。


「まぁ、こればっかりは実際にその場面になってみなければわからないだろうが……プレイヤー視点としてあくまで目的を達成することに重きを置いて行動するのか、それともキャラクター視点に立って目的に反する行動を執るのか。それはプレイヤーの自由だが、我はキャラクター視点に立った行動をする方が好きだな!!」


 バビ君は、そう言い切った。


 それを聞いて俺はその時『そんなこともあるのかもな』とひとまず納得したのだった。



◆◆◆



 ……。


 ミッション①……自分が犯人として投票されない。真犯人が自分以外にいた場合、その人に投票する。


 このミッションの前半部分と後半部分は『どちらも満たした場合に』得点が入る。


 この前半の『自分が犯人として投票されない』というフレーズは『過半数の票──つまり2票以上を獲得して犯人として挙げられない』という意味。それはアキトが犯人だったとしてもそうでなかったとしても、だ。


 さっきの議論フェーズの流れ的にはアキトを犯人として考えているのはトーカ1人。


 スバルはアキトではなくカズトが犯人だと推理していたからスバルからの票は入らない。そして、その推理を聞いてトーカが投票先をアキトから変える可能性だってある。


 つまり、アキトが2票獲得することがほぼほぼないから、前半部分はクリアなはずだ。


 そして、後半の『真犯人が自分以外にいた場合、その人に投票する』というフレーズは『自分が犯人でなかった場合、真犯人に投票する』という意味だ。


 アキトは父親の背中を包丁で突き刺しはしたが、浴室で溺死させた人物ではないため犯人ではない。


 つまり、真犯人は他にいて、その人物に投票しなければミッション達成にはならないわけだ。


 現在、一番犯人としての疑いが濃いのは皆の推理を聞く限り、アキトの弟であるカズトだ。


 だが、本当にカズトに投票することがアキトとして正しい行動なのだろうか?


 これがきっと、バビ君の言っていたことなんだろう。


 俺がカズトに投票すれば、少なくともスバルの票と合わせて2票入るから、カズトが最多得票者となり犯人として結論付けられるだろう。


 そうなれば、晴れて俺はミッション①を達成できたことになり、5点獲得することができる。


 ……だがこれは結局、プレイヤー視点の行動だ。


 ……。


 もう一度、アキトという人物像を整理する。


 アキトは家族想いの少年だ。


 それも、母を傷つけた父親を殺害してしまおうと思うほどに、その気持ちは極端で危うい。


 それなら、家族を守ろうとするアキトは真犯人が家族だった場合、その人物に投票できないのではないか?


 なら──いや。


 アキトならどこに投票する?





◇◇◇


投票フェーズ→エンディング


◇◇◇




 5分が経過した。


 終わりを告げるタイマー音を止め、GMは朗々と語り始める。



「皆様の投票の結果──」


「──アキト様1票、カズト様2票、という結果となりました」


「したがいまして、今回の殺人事件の犯人はカズト様であるというのが、皆様の結論となりました」


「それでは、エンディングを描写いたします」


「エンディング、ルートB」


「『かすむ瞳は夢を見た』」


「それでは、エンディングフェーズへと移行します」







ーーー


エンディングルートA……『くすむ瞳はみ渡る』

エンディングルートB……『かすむ瞳は夢を見た』

エンディングルートC……『あわい瞳は色をかくす』

エンディングルートD……『いろづく瞳は晒されて』

エンディングルートE……『くもる瞳は真実が見えない』





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