第6話 定番コース

 こんな夜中で信号を律儀に守る必要なんてないだろなんて思ったけど、たまに車が通るので油断できない。結局信号無視をすることなく公園までやってきた。この公園大きいから周りを一周して帰ってくればそれなりの距離になるはず。ランニングコース0キロ地点という看板が明かりにぼやっと照らされているのを横目で見ながら僕は加速していった。この公園一周何キロだっけ。まあいっか。どうせいつもよりペースはやいからそんなに時間はかかんないはずだし。


 1キロ地点という文字が見えた。なんか急に頭が現実に引き戻された感じだ。一人で走っていた空間に現実が侵入してきた感じ。それと同時に大学であった人たちの顔が思い浮かんで来た。入学式のときにあったりんたろうくん、それと今日話した原さん。背が小さくて黒髪のりんたろうくんと背が高くて茶髪の原さんが横に並んで仲良く歩いているところを想像するとなんか微笑ましかった。いわゆるでこぼこコンビという感じになるんだと思う。それと同時に社交的でみんなとよくしゃべるみたいな原さんとおとなしめのりんたろうくんがどうやって知り合ったのかも気になった。

 2キロ地点。公園の真ん中にある池の端が見えてきた。暗くてほぼ何も見えないけれどたまに街灯の光が水面にキラキラと反射する。原さんは授業前に僕にしてきたみたいに何気なくりんたろうくんに話しかけたのだろうか。それともりんたろうくんが原さんに話しかけたのだろうか。たしかに原さんは人当たりのよさそうな見た目だし。ていうか、そういえばりんたろうくんの体調は大丈夫なんだろうか。でも昨日の夜に体調崩したんだったらまだ治らないか。今日の授業は出れないだろうなあ。必修が二コマだっけ。何の授業だったか思い出そうとしていると空に浮かぶ星が見えた。ぽつぽつとではあるけれど、たしかに光かがやいているのが見える。

 視線を進行方向に戻すと3キロ地点の看板が見えた。時計を見ると二十分弱は走ったみたいだ。呼吸も苦しくないし足も痛くない。別に横腹も大丈夫だしペースもそんなに悪くない。もしかしたら調子がいいのかも。これだったら十キロは走れそうだけど時間も遅いから残念ながらそれは止めといた方が良さげ。

 あ。誰かいる。こんな時間に? よく見るとリードを持っているのが見える。ああ、犬の散歩か何かかな。こっちに向かって歩いているみたいでだんだんと距離が近くなる。ん、あれもしかしてりんたろうくん? ちょっと猫背なところも似てる気がする。だけどあっちは下を向きながら歩いてるし僕も暗くて自信が無いし声かけなくていっか。

 そう思ってるうちにすれ違った。


ワンッ ワンワンッ

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