二十一夜 図書室の本の虫


 ガラガラガラと音を立てながら図書室の引き戸を動かす。先程まで賑やかだった廊下が図書室を前にすればそれは全てかき消された。


 やっぱり、図書室ここは静かだなぁ。


 本が住む空間にとって、静寂は付き物。タッグを組んでいるみたいだ。ならば、図書室の扉を開けた時の音は少なからず目立っていたに違いない。


 『すみません』 少し申し訳ない気持ちが浮かび心の中で謝罪の念を押す。そして、図書室にいる者達の邪魔にならないよう慎重に図書室の中へ入った。


「うーん‥、失踪事件‥何か手掛かりになるもの」


 自分だけに聞こえるような小さな声で呟く。出来るだけ、静かにしていたいがやっぱり怪異や人ならざる者の噂には敏感。


 落ち着いてられるか否や、とにかく俺は興奮状態に陥っているのだ。


 だから、こうして調べたい事を口ずさんで自分を落ち着かせようとしている。


「えーっと‥、まずは何処から探そうかなぁ」


 カガミ様。

 

 その存在は初めて知るもので、一体何者なのだろう。とても未知だ。


 妖の一種なのは分かるが、どう言ったジャンルの本に載ってるのだろうか。


 やっぱり、妖怪百科事典?


 それとも、都市伝説系? 


 いや、この学校の資料集とかを見れば早いのかなぁ。


 あぁぁぁぁぁぁ!! こんなにワクワクするのは久しぶりな気がする!!!


 皆の怪談話を聞くのも、色々な妖怪と話すのも俺にとって幸せだがやはり、怪異調査は格別だ。


「腕が鳴るぞぉぉぉ」


「ねぇ、何か探してるの?」


「! うわっ」


 びっくりした‥。つい、自分の世界に浸っていたせいで後ろの声に気が付かなかった!


 きっと俺が本棚をうろうろしていたから気になって声をかけてきたのだろう。


『す、すみません‥。煩かったですよね‥』そう言いながらくるりと声の主を見る。

 しかし、その人の顔を見た瞬間思わず動かしていた口が止まってしまった。


 その人は、濃い青がかかった深海色の短髪。寝癖や後毛おくれげ一つも見当たらない綺麗な髪をした男子生徒だった。

 

 前髪は所謂いわゆるセンター分けでとても彼に似合っていた。深海色の髪束から見える睫毛の長い紅い瞳は妖艶が漂っていた。


 綺麗な人‥‥。


「こんにちは」


 その人はとても長身で俺を見下ろしもう一声上げた。


「あ、貴方は‥(((


「ちょっとぉぉぉお!!!」


 『貴方は誰ですか?』そう言いかけようとした時、今度は騒がしい声で遮られてしまった。


 俺達がその方向を見つめると、設置された木製のテーブルに積み上げられた大量の本がボンっと置かれていた。

 側にはそれを見て今にもキレそうな顔で本を指摘する癖っ毛頭の背の高い男性が出てきた。


「もぉ、神野しんのくん! また、こんなに本を散らかして‥‥。少しは片付ける僕の身にもなって下さいよ〜」


 "神野しんの" 恐らく、隣にいる綺麗な男子生徒のことだろう。彼は少し間を置いてニッコリ微笑んだ。

 

「ふふふ、はじめはいつも真面目だね。後で片付けるからそのままで良いよ」



「片付けるって貴方すぐにどっかに行っちゃうでしょう〜散らかった本を放ったらかしにして‥‥! あと、ここは基本静かにしてくださいね! 他の生徒も使用するんですから私語は慎むように!」


 "はじめ"そう呼ばれた癖っ毛髪の背の高い男性は『しーっ』と人差し指で見せる。


 ‥貴方が一番うるさいのでは?


「多分だけど今この場の雰囲気を害してるのは君だと思うよ」


 隣にいる男子生徒-神野さんが俺の思ったことを読み取ったかのように目の前の人に伝えた。すると、その人は『はて?』とでも言いたげな表情を浮かべる。


「も、もしかして分かってない‥?」


「ふふ、本は鈍臭いからね」


「あー!! また人のことをけなしましたね?!」



♫♫♫



「初めまして、俺は一年の春夏冬あきなし もみじです!」


 斜め45度のお辞儀(源先生の真似てみた)をすると彼は柔らかな笑い声を上げて、


「俺は三年の神野しんの、よろしくね椛くん」


 三年生‥ってことは先輩か‥。

 本当だ、先輩の制服ボタン黄色だ。


 俺は神野先輩の胸元あたりを見て思う。


「そして、そこの丸眼鏡を掛けた男ははじめ。本名は、本居もとおり はじめだよ」


「初めまして、僕は本居もとおり はじめと申します。一応この図書室の司書教諭を務めています。以後お見知り置きを」


 へぇ〜! 図書室の先生かぁ!


 ‥‥ん、あれ?

 

「"先生"と言うことは神野先輩の方が年下‥でもあれ? さっきはじめって呼び捨てで‥」


「ふふふ、本はヘタレだから下の名前呼んでも怒らないんだ」


「ヘタレってそれ本人がいる前で言います? 僕だって皆さんが此処を使用しやすいよう親身になっているだけなのに!!」


「気さくで話しかけやすいって意味だよ」


「今絶対付け足したやつでしょ! フォローしたって意味ないですから!」


 『むきー!』 と癇癪を起こす本居先生に、構わず微笑みながら俺を見る神野先輩。


 何だかんだ言ってこの二人は仲が良いんだなぁ。


「そう言えば、椛くんは何か探してたんじゃなかったっけ?」


「あっそうだ、俺調べたいことがあって来たんだった」


「何かお探しなら、一応この部屋の本ので言って貰えば取ってきますよ〜!」


「全て‥?」


 眼鏡のレンズを光らせて自信満々げに話す本居先生に俺は戸惑う。

 すると、神野先輩が教えてくれた。


「彼は読書家で、いつも一日百冊以上の本を読んでるんだ。速読が得意で本の読むペースも早い。彼は俗に言う本の虫という妖怪なんだ」


「皆さんが居る時は、人型で接そうと心がけています。‥‥なにせ、怖がられたら嫌ですし‥」


「えぇ?! そんな訳ないですよ、俺妖怪大好きですもんー! 本居先生の真の姿が見たいですーーー!!」


「‥?! (な、何ですかこの子供)」


「良かったね、本。君に興味を持ってくれる子が居て」


「いやいやいや‥彼は妖怪自体に興味があるように思えるのですが‥。てか、妖怪なら神野くんも同じでしょう?」


「?! 神野先輩も?!」


「ふふふ、どうだろうね。‥‥まぁ、それはさて置き椛くん。一体何を探してるの?」


「あ‥えっと、実は‥」


 俺は今日の帰りのSHLで先生が話していた失踪事件、そしてカガミ様の存在を全て洗いざらい話した。本居先生は手で口元を隠し唸り込んだ。


「‥‥ふぅむ。それって‥」


「ねぇ、椛くんはこの学校の七不思議を知っている?」


「え?! 七不思議ですか?!」


 なななななな、何と?!


 やっぱり期待してたけど、この学校にもやっぱり七不思議や都市伝説があるのか!!


「ふふ、もし良ければ俺が全て教えてあげようか?」


「是非是非! 七不思議とか都市伝説とか物凄く興味惹かれます!! 今直ぐ聞きたいです!!!」


「‥‥椛くんは反応がコロコロ変わって面白いね。そう思わない? 本」


「いやいや、僕に共感求められても困るんですが」


 何やら二人で話しているがそんな事気にしない。


 何てったって、七不思議!!!

 そんなお宝みたいな情報聞き逃したくないもの!


「じゃあ、何処から話そうか‥。七不思議だから順番に話していくのが妥当だよね。少し俺の話に付き合ってね、椛くん」



「はい! 夜まで語っても大丈夫ですから存分に話して下さい!!!!」







〈新キャラ〉


図書館の先生 本居もとおり はじめ/♂


三年生 神野(シンノ)/♂



※"本の虫"と言う妖怪はオリジナルです!

そういう妖怪居そうだな〜って思って検索したらなかったのでびっくりしました笑


 

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