第13話 下働き―――千年・中

「えっ、マジか?できんのか?」

 驚いた様子のロレアルさんに

「科学王国ルベリアか魔法王国フィーウに属してたんなら無理なんですけど、独立惑星なんですよね?」

「お、おぅ。そうだよ。ここにきてルベリアやフィーウの話を他の患者から聞いてな。思ったよ、人間はどんだけ偉くなっても人間だってな。」

「フィーウでは、強大な悪魔の召喚失敗で、ルベリア、フィーウ問わず、すさまじい数の人が疫病で死んだんだそうです」

「最悪だな」

「それで院長先生が忙しいそうで………院長先生でないと手に負えないらしいです」

「それで危ないから、そっちには行けないってことなのか?」

「いえ、私もまだ心の病気を抱えてる身でして………それ故の制限なんです」

「おいおい、大丈夫か?」

「許可が出てるので大丈夫です!星の名前と国は?」

「お、おう。星の名前はラクシアだ、国はイーザス王国」

「詳しい場所が知りたいので地図を借りて来ます。ここにいて下さいね!」

 わたしは、寮に向かって走り出した。寮の最上階は図書館なのだ。

 魔法の勉強のために、よくここには通っている。

 もう上級魔法も半分ぐらいは使うことができる。MPが厳しいけど………。

 それはおいといて、地図、地図っと。………あった。

 目的の星ラクシアのファイルを手に入れる。イーザス王国のページを開き、コピー機で拡大コピーする。

 一度部屋に帰り、筆記用具を持って、ロレアルさんの所に走る。

「お待たせしました!」

「なんかさっきからずっと走ってんな。大丈夫か?」

「体は頑丈ですから!」

「そうかい、ならいいんだけどよ」

「これ、地図です」

「どれどれ………あー地図がちょい古いが、ここだと思う。国境防衛部隊だったからな。このへんだろう」

「部隊名とか、あります?」

「部隊名入りのワッペンがある。病棟の俺の部屋に行こう」

「運びます」

「はぁ?」

 両眼を?にしているロレアルさんを軽々と背負う。

「私、科学王国ルベリアの強化人間ですから」

 今回は役に立っているので、胸を張って言う。

「うっそーん」

 ロレアルさんが呆れかえっていますが、気にしてはいけません。


 人間棟に到着です。

 私は人間ですが、天使棟にずっといるので、人間棟の方が物珍しいですね。

 当たり前ですが、誰も飛んではいません。

 天使棟では下手しなくても患者さんも飛ぶので、むしろ新鮮です。

 ロレアルさんの病室まではすぐでした。

 今は患者さんが多いらしく(例の疫病のせいで)ロレアルさんも3人部屋です。

 ベッドを指定してもらって、そこにとすん、とロレアルさんを置きます。

「なかなかできねぇ経験をさせて貰ったぜ………美少女におんぶされるデカい男」

 なぜか、ロレアルさんが黄昏ていますが。

「部隊名はどうしたんです?」

 と、問うと

「あー、そうだったこれだこれ部隊名」

 悪そうなハリネズミを模した、黄色のワッペンのイラストに『ヘッジホッグ』と刺繍してあります。ヨレヨレで汚れていましたが、激戦の証なのでしょう。

 うらやましいです。そもそも使い捨てのわたしたち機械兵は、部隊すらなく、ナンバーで呼ばれてましたから。

「これを手掛かりに、地元の人に聞いたらいいでしょうか」

「あー、地元民はみんな避難したからなぁ………戻ってきてればわかるだろう」

「わかりました、あと、服装って………?私の顔立ちを考慮に入れて、ロレアルさんの国の女性に見せるとどうなります………?」

「まぁ、顔立ちはOK―――肌の色さえ白くすれば大丈夫だ。服はどこにでもある感じのなら、女ならこんな感じ」

 と、ロレアルさんが地図の余白に、意外と上手な落書きを入れました。

「これで被服科に作ってもらいます。」

 お借りします、と私はワッペンと地図を手に、被服科へ直行するのでした。


「こういうの、作れますか?ここの服なんですけど」

 応対してくれたのは、禿頭の大男。ここの店長さんで、縦にも横にも長い人です。

「あんらぁ~、また難しいわねぇ。正確なものになるか分からないから………ちょっと院長先生の分身に聞いてみるから待ってなさい」

「えっ?院長先生が?」

「あくまで分身よ分身。電話でしか話せない、自我のない分身ですって。質疑応答用に作ったんですってよ。看護師長と、主だった購買の店主は皆知ってるわよ~」

 そう言って店員さんは、奥に引っ込んでいった。

「へぇ………」

 としか言えない。便利そうではあるけど。そう言って店員さんは、奥に引っ込んでいった。

 院長先生、質問の多さに耐え切れなくなったのかな?

「聞いてきたわよ~。ちょっとした手直しで調節すればいけるそうだけど………」

「どうしたんですか?」

「まだ紛争地帯だから、危ないそうよ。それでも行くのぉ?」

「大丈夫です、こんな時のために、改造された体を残しているんですから」

「ふぅ………わかったわ、じゃあ、お洋服を作っちゃうわよ」

 いつものごとく、高速で仕上がる洋服。凝視してしまう。

 30分ほどで、衣装は仕上がった。

 シンプルなもので、ワンピースにエプロンドレスです。

 エプロンドレスは独特な染物で、ロレアルさんの国の特色なのでしょうか。

 店長さんにお礼を言って、化粧品店に入ります。定員さんに、

「肌を白くするマジックアイテムってありませんか」

 以前、そういうものがあると、同僚に聞いた事があります。

「あるわよ~。変装?」

「はい、そうです」

 普通に魔法で肌を染めると、魔法を許可してない星(制限空間と呼ばれる)に入ると、魔法が解けてしまうので、制限空間でも大丈夫なマジックアイテムを使います。

これで、準備は大丈夫なはず。

ロレアルさんに、これで良いか確認したら、「故郷の娘を思い出す」といって涙ぐませてしまいました。

ロレアルさんは、ここを退院したら即故郷に帰って―――人間看護師長の術で、軍病院に入っていたことにして―――家族に会いに行くんだと言っています。

ここでの治療は一部―――内臓や背骨の怪我―――で終わらせて、足と手は故郷にて療養するそうです。なので、ここで過ごすのはあと少しだとか。

後悔をなくしてあげるためにも、今回のミッションは成功させないと!

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