第10話 下働き・1

 神よ あなたの慈しみのうちに始めるこの仕事を

あなたの祝福によって、終わる事が出来ますように


 少し実感できる、仕事前の祈りなのだった。

 朝早く(06:00ごろ)、下働きは中央の女神像(宗派は分からない)に集まる。

 集まった下働きの人数は10人(種々種族を取り混ぜて)ぐらいだ。

 魔法の「クリーン」は、全てのものを清潔にしてくれる。だが、入院者を癒すのは昔ながらの箒の音だ。まず、朝は清掃が行われる。

 それから「クリーン」が使われる。

 それぞれの種族の「棟」に掃除で入る。

 種族に当てはまる棟に行くのだが、当てはまらない人は、特殊棟に行く。

 さっと終わらせて―――あ、悪魔棟の人が、起こしたことを怒られて、火魔法を受けている。彼は医務室に行こうとしているようだが………。それぐらいは。

 わたしは彼をすぐに癒す。

 周りから驚いた顔で見られた。そりゃあ、2か月強でそこまで使いこなせるようになっていたらねぇ。キントリヒさんは、スパルタでしたが、わたしの勉強速度はちょっとおかしいと言われています。

 故郷に戻って、コンピューターを学ぶよりも、私、魔法が好きになっています。

 上級魔法の魔法書を、購買で貰ってきたぐらいですから。


 さて、次は、巡回です。

 Coll Meの腕章。やっと手に入れた腕章です。

 まだ、つきそいにエアリーさんがいますが。

 彼女もColl Meの腕章をつけています。

 まず、吹き抜けを『魔法・浮遊』で、上がります。

 そう、ゆっくり上に上がっていくには『魔法・飛行』でなくても『魔法・浮遊』で大丈夫だったのだ。

 先日の件はエアリーさんのあせりすぎである。

 エアリーさんは恥ずかしそうにしているが、とうっと翼をはためかせて飛んできた。

「成長ぅ、したのねぇ」

 感慨深く言う。


 そこで、患者さんから声がかかった。

「ごめんよメイドさん、お茶を一杯貰えるかな、熱いやつで」

 リュミエールさんでした。振り返った顔にあ、となってしまいます。

「研修生から、Coll Meになったんだね。仕事の第一号かな?」

「はい………」

「じゃあ、教えよう。これが私のマグカップ。念動で取ってね」

 言われた通りに私は、指さされているマグカップを「魔法・念動」で取ります。

「お、これができるようになったんだ。短期間で進歩したねー」

 と、リュミエールさんがカラカラと笑います。

「後は準備室に「お茶・熱め」っていうポットがあるから、そこのを入れて持ってきてー。」

「きょろきょろ見回さないのぉ、準備室はあっちよぉ」

 エアリーさんに怒られて、準備室に行きます。

 準備室には、患者さんが要求しそうなものが、大体揃っていました。

 大体、嗜好品の類です。

 私は「無くなったら作っておくこと!」と書かれたポットに相対しました。

 開けてみると、まだ十分な量があります。これなら変えなくていいでしょう。

 ポットの後ろには、作り方の書かれたポスター?が貼ってあります。

 これなら、後日作る事になっても安心ですね。


 リュミエールさんにお茶を届けることができました!

 初めての仕事みたいで―――実際そうですが―――嬉しかったのです。

 そのあと、何回も別室の人から、「お茶」コールにあうことを私は知りませんでした。何回か作り直しも経験しました。

 それをリュミエールさんはベッドの陰から見ていて、

「お嬢ちゃん、お礼」

 と飴玉をくれました。

 エアリーさん、これいいんですか?

「そういう、ちっちゃい物なら見逃しねぇ」

 わたしは、おもいっきり、リュミエールさんに礼をしました。

「あとで、お話を聞かせてくださいませんか」

 というと、彼は

「いつでもおいで」

 と言ってくれました。天使棟の人は、本当に優しいです。

天使棟で様々な雑用をこなし―――おむつ替えとかは、エアリーさんのを見学させてもらいました。出来るようにならないと。それ以上は、看護師の管轄です。

 夜、女神の間に下働きの面子が集まります。

「お疲れさまでした!」

 散会。


わたしは


恵みの源である神よ

感謝と賛美のうちにこの仕事を終わります

今 わたしたちを祝福し 平和と喜びで満たして下さい


と、唱えます。

仕事の充実感もあって、少し実感がわきました。 


ここで、わたしは、大きく躓きました。

 いったいどんな服を着てリュミエールさんに会いに行けばいいんでしょう。

 あいにく、修道女服―――仕事着、と寝間着―――思いっきり寝間着、しか持ってないのです。わたしは迷わず購買の被服科に飛び込みました。

「落ち着きな、お嬢ちゃん、すぐに仕立ててやるから」

 そう言われて、ほっとする私。24時間営業だそうです。

 余裕のある、でも詰襟の服がいい。ワンピースで―――濃紺。生地はベルベット。

 そう伝えると「ボタンで装飾する?」と聞かれたので、お願いしますと言った。

 30分も経たずに、人の部屋を訪問するに足る服ができた。注文通り。


 部屋で着替え、リュミエールさんに会いに行く。特に咎められることはなかった。

「リュミエールさんに会いに来ましたよ」

「おお、その服かわいらしいねえ。それと聖印!嬉しいねえ。私たちの使徒なのかい?」

「まだ、なりたてもなりたてで………聖印はルカさんにいただきました」

「なるほどなるほど。それでも嬉しいもんだねぇで、聞きたいことって何かな。予想はつくけど」

「はい、不躾なのは分かっているんですが、リュミエールさんのここに来た経緯と、現在の病状を………」

「看護師のファイルをちょちょっと盗み見ればいいのに」

「………っ。そんなことできません!私はここで助けられて、院長先生には魂まで癒してもらって………働くところまで、与えて貰ったんだから!」

「OK、ちょっと声が大きいよ。君の思いは伝わったから!」

「あ………すみません」

「ここの看護師さんは、敏感だからね、ほら」

すぃ―――。ドアが開いた。まだ知らない天使課の看護師さん。

彼(珍しい)は、特に込み入ってそうではない部屋の様子を見ると「夜中に大声は控えてくださいね」といって扉を閉めた。

「天使課だから、これで済むんだよGirl?」

と、苦笑気味に言う。

「すみません………」

「では、君の問いかけに答えよう。私は今代天魔帝の起こした「天魔戦争」に出陣し、悪魔の攻撃を受けた―――それは、「回復不能」の呪いがかけられた恐ろしいものだった。このまま死ぬと思ったよ。でも、天魔を分ける境目に来た時、周りに誰も居なくなった。絶望したね、このまま一人で死ぬのかと」

お茶を飲んで一息入れて

「そこに、この異空間に続く扉が現れて、救急隊が来て………訳が分からなかったよ。『入院生活』を読んで、なんとなく納得したけれども」

ヴァンパイアがスポンサーなんて信じられないよね、と笑う。

「一応、献血はするつもりだよ、こんなにお世話になってるんだから」

で、と彼は言う

「私の傷の話だったよね。右手と右足に「切り取り」攻撃を受けてね。回復不能の呪いがかかってるんだけど、ここでは治るそうなんだ。実際少しづつ、まずは骨から再生しているのが自覚できるよ。ギプスの中はカラだけど、少しづつ、骨と組織が再生している。一生不具になるのが普通なのに嬉しいよねぇ。毎日ルカさんの治療を受けてるおかげだよ。」

「………ルカさんってお医者様だったのですか?」

「他の所は知らないけれど、多分同じだね。看護師長、それと看護副師長2名は医師資格を持っているとみて間違いないよ」

体感した自分が言うのだから間違いない!

とリュミエールさんはカラカラと笑います。

「そうなんですね………」

わたしは、下働きの仕事でも右往左往しているのに、すごい。

もちろん年季が違うのでしょうが………。


今日は、聖書から抜粋して『病人のための祈り』を唱えました


病に苦しむ兄弟姉妹を祝福してください。

不安と苦しみの中にあって、

孤独に打ちひしがれることがありませんように。

心と体をいやしてくださる主に結ばれて

苦しむ人々に約束されている

あなたの慰めと励ましを得ることができますように。

わたしたちの主によって。


結構、心がこもったのではないでしょうか

毎日、唱えようと思います。

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