第48話 「お待ちしておりました。エメラルド様」





 ダンジョンに潜ると、相も変わらず洞窟の風景だ。


 吸血蝙蝠が天井にひしめていて、あたしはさっそく付与三倍の火炎を天井に放つ。


 ダンジョンの造りなのかな、どんだけ火炎をぶっ放しても、酸素が足りなくなることはない。


 燃やし尽くして、あたしとアンディの周囲を炎で守らせる感じで進める。




「アンディ、平気?」


「心配し過ぎです、エメラルド様」




 そういうけど、アンディは子供だから。お姉さんは心配なのよ。




「僕が強いのはご存知ですよね?」




 まあね。でも前回最後の方が不調だったからね。


 そして前回のゴーストは実体がないから、アンディの物理的な攻撃が全然効かなかった。


 それがまたストレスMAXだったみたいだったけれど。




「エメラルド様は、魔法が凄くなりましたね」


「そう? でも付与をつけてぶっ放してるだけよ?」




 そうは言いつつも、あたしは多分、自分の魔力と魔法の力が……成長してるっていう感覚がわかっている。


 護符屋の店長の時と今は全然違う。


 ダンジョンに潜る度に、魔力は増幅するし、セドリックさんの基礎レクチャーで魔法の種類も増えてきた。


 ダンジョンはその力を更に増幅させてくれる……。


 これが魔女を選ぶダンジョンの効果の一つなんだろう。深層の奥深くまで、魔女を誘う為に。


 普通の冒険者はダンジョンでのレベル上げをしたとして、こんな即席で強くなんかならない。異常ともいえる。


 でも先代エメラルドはあたしの為に、あたしを守る為に、あたしに魔女の名前を譲ったのだから……。




 ロングブーツで焦げ付いた吸血蝙蝠を踏み潰すと、魔石に当たる感触。


 あたしはそれをブーツのヒールで踏み潰す。


 土の地面のはずなのに、ヒールに当たり砕け散る。


 その音の反響で、この洞窟の先にいるモンスターの気配を察知できた。


 暗視の効果をあげると、ゾンビの団体が見える。




「アンディ、一発撃ち込むから、この先にいるゾンビ、倒して頂戴」


「お任せください」




 あたしはそう言って、魔弾に速度も飛距離も爆発力も二倍の付与をかけて一発打ち込む。


 その銃声を合図にアンディは走り出す。


 あたしの放つ銃弾がゾンビの頭をヒットし、脳漿を飛び散らせた。


 その様子はかなり距離があってもあたしの視界には鮮明に見える。


 まるで、ダンジョンに意思があって、その視点があたしの目に映るみたいに。


 あたしの銃弾がゾンビを倒した瞬間に、走り込んだアンディが剣を振るう。


 あたしは光学迷彩のマントで身を隠して、走り込んでメイスを振るう。


 ダンジョンに入り始めた時とは違う。


 メイスの先端が炎に包まれる。




「エメラルド様はお待ちください」




 左側で十数体のゾンビを一掃したアンディがあたしの前に走り込む。




「ぼくにここにいるすべてのゾンビをお任せ下さるのでは?」




 アンディの武器が剣からバトルアックスに変わってる。


 そう言いながら、あたしの前に塞がっていたゾンビの頭を跳ね飛ばしていく。




収集コレクション




 あたしがそう唱えると、死んだゾンビが残す冒険者カードは宙に浮いてあたしの手にを収まっていくので、アイテムボックスに入れる。


 その間に、アンディは目の前のゾンビの団体をバトルアックスで屠る。


 うん……心配無用ってことね。


 アンディの動きに問題はない。




 ボス部屋に入ると、ケルベロスが待っていた。




「……」




 進み出るケロべロスの右側の頭をメイスで殴りつける。攻撃力も三倍に付与して、口を開けてあたしに吠え掛かる真ん中の頭――吠えたその口の中に、火炎をぶち込んでやると、アンディが左側の首をいつもの不思議な形の剣で斬り落とした。


 切り口を炎であぶるようにしてやる。ケルベロスの尾は蛇の頭――……アンディはそれも切り落とした。




 真ん中に、食らわした炎にあたしが「爆ぜろ」と命じると、真ん中の首が爆散する。




 残りの右側の首――その目に、炎をぶつけ、そこもアンディが切り落とすと、ケルベロスの身体は燃えて魔石を残した。




『46階層のクリアーーおめでとうございます。エメラルド・ベリル様のリザルトのご案内を――』




 ボス部屋に響くダンジョンアナウンスを無視して、あたしは47階層の扉をあけると、夜の草原になっていた。




「……草原……しかも夜」




 うん……アンデッドしかいないだろうな……この階層。


 さっきの46階層は、吸血蝙蝠とかいたけど。


 夜の景色とか、アンデッドの力を強化している気がする。




 夜の草原をアンディと肩を並べて歩いていくと、闇夜にぼんやりと白い物体が浮かび上がる。




「サム」




 サムを先頭にスケルトン軍団がいた。


 サムは軍団から離れ、あたしの前に恭しく跪いている。




「お待ちしておりました。エメラルド様」




 サム……お前……今、結構、魔女に仕えしアンデットの王っぽくなってるところ、悪いんだけど、また勝手に階層を進んだわね。


 わかるわよ。


 骸骨のくせに、どや顔だもの。




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