第32話「どのみち、全部、討伐すればいい話ってことよね」



 ダンジョン四階層に入ると、視界に広がる平原に、一瞬、息が止まった。

 平原? ダンジョンに平原?

 太陽は見えないけれど、明るい。青空だって見える。

 どういうこと?

 前回アンディさんが、ハイスピードで一気に五階層まで到達した時は洞窟だったよ?


「ダンジョンの一層ごとに空間は別です。エメラルド様。ダンジョンによっては、二階層でこんな感じの風景とかあります。中層攻略したら、下層は好きに作り変える特典とかもでてきます。」


 アンディさんがそう言う。

 なんかいろいろ情報出てきた。

 中層攻略の特典って、スタンピード阻止以外にもあるのか。

 あたしそれ以外はあんまり気にしてなかったわ……。

 他にもいろいろあるのかな。


「他にもあるの? 中層攻略時の特典」

「スタンピード阻止っていうのが最大ですけれど。ダンジョンの作り変えもそうだし、人も住める階層を作れたりもします」

「……何それ、アダマント・ラビリンスみたい」


 あたしがそう言うと、アンディさんはにっこりと笑う。

 アダマント・ラビリンス――アダマント様が自ら攻略の指揮をとっているダンジョンだ。

 一つの街……否、もう一つの――……ダンジョンの国。

 なるほどね。サンドラもマクラウドさんも契約書偽造して、乗り込んでくるのも納得だ。


「でも、四階層で、ダンジョン空間の変化とかは聞いたことないです」

「そう……」


 この空間の変化とかは、やっぱり、あたしの後にサンドラがすぐさまダンジョンに潜ったから?

 そういう可能性が高いな。


 それにしても……いままで洞窟っぽい作りだっただけに、こういうところにゾンビ出るとか、雰囲気がないような気がする。


「この空間だと、動物系のモンスターも出そうですね。エメラルド様」

「アンディさん、エメラルド様はやめてよ」

「えー」


 なによ「えー」って、可愛いな。


「先代を思い出すから」


 あたしがそう言うと、アンディさんが考え込む。


「エメラルド様が僕をさん付けで呼ぶのもおかしいですよ」


 さん付けは敬意を表してのつもりだったのよ。

 だって強いから。ダンジョンって強さが全てって感じだし。


「わかった、アンディ。『エメラルド様』はやめてね」

「エメ様」

「それも小さい頃、あたしが先代に呼び掛けてたから勘弁して」

「え~」


 そうしてると、普通の男の子なんだけどな。

 言葉遣いは正しいし、行儀もいいし、強いし、この子まじで将来有望。


「でもエメ様って呼ばせてください。あと、他の誰かがいる時は「エメラルド様」ってお呼びします。周りの反応が違うので」


 なるほど。そういうのを考慮して「エメラルド様」だったのか。

 アンディだけじゃなくて、アレクも最初エメラルド様だったものね。

 箔が必要なのか。

 ……やっぱりダンジョン攻略踏破って、この東側辺境伯領では最上ステータスなのね。

 あたしはそこに到達できるかわからないけれど。

 だって今、このダンジョン内にいるゾンビって前回の倍とサンドラと、そのお付きを含めて、多分100体近くはいるんじゃない?

 特にサンドラ、あの子は絶対おつきをゾロゾロ引き連れて、ダンジョンに潜りそう。前回の倍とか言われて、こっちは心臓バクバクしてるっていうのに。

 ああ、深層部攻略中のサファイア・ダンジョンの魔女にそういう経験談を聞いてみたい。

 アクアマリン・ダンジョンの魔女でもいい。

 中層階攻略の成功談とか聞いてみたい。

 っていっても、その二人の魔女は、深層階目指して攻略中だから、当分は無理か……。


 それにしても、この階層。出口とか、ボス部屋とかどうなってるのかな?

 歩いて行けば、そういうボス部屋に繋がる道とかに辿り着きそうではあるけれど。

 その証拠に、あたしはなんとなく歩き出していても、そっちが出口って感じがする。

 ふと視線を感じて、そっちに視線を向けると、いた。

 普通に魔獣?

 ネコ科の肉食獣っぽい感じだけど。

 向こうもあたし達に気が付いたみたい。

 銃を取り出して撃鉄を上げた瞬間、こちらの方へ走り込んできた。

 速い!

 ゾンビの動きが記憶にあるから、こういった四足獣の動きに、戸惑う。

 とびかかってくる瞬間に二発その魔獣に銃弾を撃ち込むと、ゾンビに変化した!?

 なんで?

 三発目は頭部に打ち込むと、草原に倒れる。

 そしてダンジョンカードを残して消えた。

 やっぱり、ダンジョンに入った人間だったということよね、これ。


「今のは、同じアンデッドではなくてグールですね」


 アンディの目が、グリーンから赤に変わっている。


「グール?」

「ハイエナに変化するアンデッド」

「ハイエナって……さっきのネコみたいな魔獣のこと?」

「他国にはダンジョン以外でも生息してます。グールって、皮膚の色とか変化させることができるって言われてるので、人間のフリもします」

「……あたし、人間のフリされたら、騙されるわ」

「そうやって襲撃するから、要注意です。人間に見えても、討伐してください。初手をエメ様だけで片付けたので、このエリアもアンデッドのみになるでしょう」


 前回の攻略で、アダマント様をはじめとする、協力してくれてる攻略者の方の意見が、そういう話だった。

 その話を聞いた時に思ったけれど……。


「どのみち、全部、討伐すればいい話ってことよね」



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