第25話「今回はすごく頑張ったので、お疲れでしょう」
アンディさんが攻略を進めた時はそんなゾンビなんていなかったのに、あたしが攻略の主軸になるとゾンビが現れる。
鍵付きダンジョンの仕様なのか。
それはいい。
そういうもんだと思えばわかる気がする。
けれどそのゾンビが階層ボスを捕食ってなんなの!?
あたしと対戦どころか階層ボスは、ゾンビと対戦してる。
アンディさんは剣ではなくて、なんかすごい武器を両手に装備してる。早っ。装備の切り替えの時間が早いっ。
「エメラルド様、片付けても?」
「……」
ゾンビはマミーを捕食する度に、身体の腐食が止まっていくような気がする。
つまり階層ボスを捕食したゾンビは力を増すってこと?
ゾンビの手がマミーの包帯を引きちぎるようにして魔石を掴む。
その瞬間、マミーの包帯は霧散して、ゾンビだけが残る。
その瞬間、アンディさんが動いた。
トップスピードからの跳躍で、ゾンビの頭上からその両手の武器を交差して切り裂く。
動きが緩慢なはずのゾンビが、その攻撃を避けた。
ゾンビがアンディさんに注目している間に、あたしは光学迷彩マントで姿を隠す。破壊力二倍の付与を施した魔弾を装填する。
「ナンデ、オマエハ、ゾンビニ、ナラナイ」
ゾンビが喋った!!
コイツ、モンスター化したのを自分でわかってる!?
「マジョハ、ドコダ」
アンディさんの攻撃を避け、視線を彷徨わせる。
充分な距離からゾンビの頭部をめがけて、トリガーを引いた。
こめかみに当たったのに、そこで止まってる。
普通なら爆散してもおかしくない。ヒットしたら、だいたいのゾンビは爆ぜたはずなのに。
そしてあろうことか、銃弾がどこから飛んできたのかわかってるのか、ゾンビは――こっちを見た。
やめて、なんでわかるの、なんでこっちに歩いてくるの。
「コウガクメイサイ……カ……」
こっちが光学迷彩マント使用してるのもバレてるし!!
アンディさん、また武器を変えてる。
ゾンビの後ろから、バトルアックスでゾンビの頭部と身体を瞬時に切り離そうと振り上げる。ゾンビのクビにバトルアックスの刃が届きそうになるその瞬間、ゾンビはバトルアックスを手で受け止めようとする。
そこにいたるまでの反応の速さに、驚く。
これまでダンジョンに出現したゾンビは、もっと動きが緩慢だし鈍かった。一階層で戦った時も今回も。
だからド素人のあたしでも対応できたし、倒せたと思ってる。
元は攻略者、人間の時の動きと変わらないと言われればそうだけど、なのにコイツは違う。
「マジョノ、ソバニイルノハ、オレダ、オレガマジョヲクウ」
え? 魔女を食うって言った?
やめてよ!
「オマエモ、クウ」
ふざけるな!
あたしはメイスを振りかざして、ゾンビの頭部を殴りつけた。
燃えろ、爆ぜろ、全部を消し炭にしろ。
ゾンビはこっちにクビを向ける。
身体はアンディさんの方に向いているのに、顔だけこっちに向くとか、首を180度回転とか気持ち悪っ!!
アンディさんはまた武器を瞬時に装備して剣でゾンビの首をきり落とし、あたしは下に転がったゾンビの頭に銃で撃つ。
至近距離で何発か連射して打ち込むと、ゾンビの頭は爆散し、その身体も霧散していく。
その場に、ゾンビが生前持っていたダンジョンカードが転がった。
「こ、怖かった……何……今の……」
ようやくそんな言葉を呟けるまでに、あたしも落ち着つくことができた。
アンディさんは、ダンジョンカードを拾ってあたしに渡す。
――イレギュラーのボス戦、終了しました。ダンジョン三階層クリアおめでとうございます。エメラルド・ベリル様、三階層クリアのボーナス。魔力のレベル、三段階上昇。体力、攻撃力、二段階上昇……――
ダンジョン・アナウンスが始まる。
アンディさんは、あたしを立ち上がらせて、扉へと向かう。
――インターバルは120時間。次回の攻略階層が選べます。
……いや、それはいいんだけど、ダンジョン……アンディさんのレベル上昇のアナウンスがないんですけれど……。
「帰りましょう」
そう言って、アンディさんはあたしに手を差し伸べる。
小さな可愛い相棒の手をあたしはつかむ。
「今回はすごく頑張ったので、お疲れでしょう」
「アンディさんもお疲れ様です」
「僕は全然」
全然……お疲れではないと……。
もしかして、ダンジョン・アナウンスがアンディさんのレベルアップを通知しなかったのは、アンディさんは強すぎて、もう上がりようがないってことなのか。上がるとしたらもっと強い敵を倒さないとダメなのか。
「アンディさんはレベル上がらなかったね」
「魔女のダンジョンだからだと言われてますけど。中層階をクリアしたら、深層階への開放条件で他の攻略者のダンジョン侵攻が可能になって、魔女以外の攻略者も普通にレベルが上がります」
魔女に力を付ける為の低層階ってことか……。
「ゾンビが階層ボスを捕食とかは、あるの?」
「ありますね」
あるんだ!
「その場合階層ボスが、そのゾンビになります」
「ゾンビ……」
「モンスターを捕食したゾンビは力を付けて、攻略を進めようとしますが、階層ボスを倒すと、階層ボスになる、ボス部屋から動くことはできない」
さすが腐ってもダンジョン攻略者ってことなのか。
「アダマント様の意図は、単一モンスターのダンジョンにしてしまえば、攻略がしやすいってことじゃないかと思ったこともあるんだけど……」
「はい、だから攻略者を入れていきます」
他にもいろいろ聞きたいことがあったけど、疲れ切って言葉が出てこなくなった。
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