第15話「さすが、エメラルドが残した子ね」



 身だしなみを一応整えて、アレクに案内されて、小屋の隣に立てられた建物に入る。


「エメ、あんた大丈夫?」


 扉を開けると、ルビィ様があたしに声をかけてくれた。


「はい」

「インターバルは120時間ってなっていたから、あと4日はゆっくりしてと、言いたいんだけど」


 うん、あたしがゆっくりできるのは、ダンジョンで死んだ時ってことですね。わかってます。


「動画を見たわ。アダマントが更に防壁からの警戒態勢レベルを引き上げて、一般の攻略者達を締めだしてるけれど、それでも、きっとアンデットは出てくるとは思う」


 ああ、アンデットの場面を見てくれたのか。恥ずかしいなー。自分の動画ってなんか、カッコ悪そう。


「でも、さすが、エメラルドが残した子ね。初めてのダンジョンだったのによく頑張った」


 そう言って、あたしをぎゅっとしてくれた。

 以前、エメラルドがしてくれたみたいに。

 偉い人。深紅の魔女なんて言われてる人だから、もっととっつきにくい人かと思ったけれど、違うんだな。アレクが懐くんだから、情は厚い人なんだろう。

 アレクとルビィ様が案内してくれた部屋へ入ると、攻略者達が数人いる。

 何よ、何がはじまるの?


「エメラルド、よく戻ってきた。座って」


 アダマント様は笑顔を浮かべる。


「さっきまで、キミのダンジョン攻略の映像を見てたんだよ」


 げ、ヤメテください! こんな複数人でド素人の初めてのダンジョン攻略鑑賞とか、なんなのよ!? しかもダンジョンの最深層を攻略している代表の方々でしょ!?

 そんなあたしの内心を知らずに、アダマント様は謝罪する。


「すまなかった……私の管理が届かず、まさか12人も鍵付きに潜るとは」


 そっちか……。

 二パーティーの人数分の侵入を防げなかったのは、別にアダマント様のせいじゃないのに。

 彼等が勝手にやったことだ。しかも、殺したのはあたし。

 あたし……人を殺したんだ……。

 今までのお気楽な護符屋の店長という立場には戻れない。多分。


「50年前のスタンピードなんて覚えてる者なんてほとんどおらんからな。アダマント様とルビィ様を除けば知っているのはワシぐらいだろう。こいつらも知らないはずだ」


 一番高齢と思われる男性が口を開く。


「紹介しよう、他の地域で深層ダンジョンを攻略してるトップランカー達だ。ブルヘルム氏は、現役は引退しているけれど、今はトップのクランで顧問をしている」

「よくやった、お嬢さん。いや、新たなる深緑の魔女様」


 高齢の男性――ブルヘルム氏があたしに手を差し出すので、とりあえず握手する。

 その様子を見て何人かいる男性の一人が口を開く。


「付与魔法しか使えないと聞いていたが、他の攻撃魔法も使えるようになったのか? 映像ではメイスに火がついていたが」

「いえ……わかりません。戻ってからダンジョンカードは確認してないので」


 見栄張ってもしょうがないよね、もう、ド素人なのまるわかりだもん。

 ここでしっかりやってますよって雰囲気だしたって、誰がどう見ても「お前、次の二階層で死ぬだろ」とか思われてる。

 それできっとこの人達の出番になる。スタンピード対策の為の戦力なんだろうな。

 つまり……あたしが死ぬ前提で集められた人達なわけですね。


「必死でした」


 そう呟くと、頭を抱える人もいれば、考え込んだり、明らかに不憫な子を見るような視線を向けたられたりした。

 アダマント様が言うように、彼等も思ってるんだろう。

 レベルアップの伸びしろがあるか怪しいって。

 だから魔女の後継はアレクみたいに幼い子に決められる。

 魔女はダンジョンの攻略を後継に教えるのだ。

 つい最近で言えば、アクアマリン・ダンジョンはそういった子が攻略した。

 魔女の教え子でダンジョン探索を幼い頃からやってきて、所属パーティーでは斥候役で、敏捷特化で階層を進んだという。

 あたしみたいな頼りない娘がダンジョンをソロ攻略ってこと自体……。


「アダマント様、これからもこの子がソロで攻略を? 前回のアクアマリンダンジョンは、結局30階層でしたが旧エメラルド・ダンジョンは100層近くの深層ダンジョンですよね」


 そうなんだよね、潜る前にルビィ様とアダマント様からもレクチャー受けた時に聞いた。

 旧エメラルド・ダンジョンは、超深層ダンジョンだったって。

 エメラルドはその最深部まで踏破して、一般開放は50層までとしていた。

 50層ダンジョンだって、深層の部類にはいる。

 そして、新たなエメラルド・ダンジョンも深層ダンジョンだろうと、アダマント様もルビィ様も予想している。

 マジで逃げたかった……逃げとけばよかった……本当に後悔している。


「エメが気の毒だと思って、ここに来た代表がダンジョンに入ったら、一発でゾンビ化だからやめてくれ。さっきも言ったように、4日間の間、エメの支援、ダンジョンの攻略についてのレクチャー全般を頼む。二階層を突破してもらいたい。ルビィも私も所用で外さなければならないのでね」


 アダマント様もルビィ様も偉い人なんだから、スタンピード待ったなしだろうがやることは山積ですよね。わかります。


「この状況でここを離れるんですか?」

「連絡はいつでもとれるようにしておく。エメラルド・ダンジョン対策の一環だ。この新たな深緑の魔女には、たとえ50階が中層だろうが100階が中層だろうが、そこまで行ってもらわなければならない。その為にはどんな手段も使うと私もルビィも決めている」


 アダマント様の言葉にその場にいる人達が口々に言う。


「お二人の代わりに、ダンジョンについてのあれこれをこの子に教えると」


 いたたまれない。もう、この場から逃げ出したい気持ちになる。

 スタンピードを起こさない為に、無駄なお金と時間があたしに投資されてる。

 それだけ50年前のラピスラズリ・ダンジョンのスタンピードがひどかったんだな。だからダンジョン史に残ってるんだろうけど。


「魔女が到達した中層階以降の攻略は、俺達も入れるということか?」

「魔女の許可が下りればね」


 アダマント様の一言で、その場にいる人達の視線があたしに集中する。

 ああ、そういうことか。

 トップクランの利権も絡んでいるのね。

 深層になるほどに、ダンジョンの生み出す財宝やアイテムは、高価なものだから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る