第9話「行ってらっしゃーい」



 見た目だけは、ダンジョン攻略者でいうところの後方支援型の装いで、先日発生した鍵付きと言われるダンジョン前に立つ。


「多分何もなければ、一階はスライムぐらいしか出てこないけど、もしも、人型のアンデット系モンスターが出たら……」

「出たら?」

「そいつら、アンタのダンジョンのお宝を目指して入り込んだ慣れの果てだから遠慮なくぶっ殺せ、頭を狙え、あと脚ね」


 深紅の魔女様がいい笑顔で親指を立てる。

 そして人型って何!?


「ゾンビとか、グールとか、スケルトンとかです」


 アレクが注釈を入れた。

 マジで⁉

 ちょっとおうちにかえりたい……。


「エメラルドの遺産を掠め取ろうとし連中に容赦はしなくていい。お前にすべてを託したエメラルドの気持ちを汲んでやれ、ダンジョン攻略の邪魔だ。元が人間だったとか考えるな」


 それを言われちゃうとな。


「オレが取り決めたダンジョンのルールを破った奴等だ、この迷宮都市にいる資格なし、殺せ」


 辺境伯様……一人称が「私」じゃなくて「オレ」になってる……。

 素はそういう感じで話す人なんですね。


「あと、エメさん、鑑定は常時展開させた方がいいです」

「え? アンタ、鑑定スキルも持ってんの⁉」

「一応、商人ですから、付与魔法掛ける時、武器がパチモンかどうかは調べないとダメだからエメラルドに頼んで習得したんです」


 破損の武器に付与とか付けたら、お前の付与が悪かったって、言われそうだったから……。だから、武器に鑑定は必ずかけていた。

 修理が必要な武器には武器屋に相談した方がいいと断ることもできるし……。


「なんだ、やっぱりエメラルドに愛されてたんじゃん」

「あと、これ、お弁当です!」


 アレクが小さなランチボックスをアタシに渡す。


「小さいけど、このランチボックス、綺麗に食べると、また同じメニューですが、でてきます。お残し厳禁が条件です。ポットも!」


 ふぁ!? なにそれ!?


「おなかすいてると、力出ません」


 アレクがむんと両手拳を握る。なんだ、可愛いなこの子。

 深紅の魔女が後継にしたい気持ちもわかる。


「ありがとう、アレク、そして深紅の魔女様、辺境伯様」

「ルビィでいいわエメ」

「頑張れば半日作業で一階層クリアできるからな、気負うことはない」


 アレクが無邪気に手を振って声をかけてくれた。


「行ってらっしゃーい」


 三人に送り出され、入り口を張っている護衛の方々に会釈をしてダンジョンに潜り込んだ。




 奥へ行くほど薄暗い、ダンジョンカードの光源……あ、勝手に明るくなった。すごいなー最新技術。

 まあ普通の洞窟ですよね。

 岩なのかな……黒っぽい緑色……エメラルド・ダンジョンだから名前のごとし? 壁の状態を見つめて、ぎょっとした。

 やばい、これ、エメラルドの原石!?

 手に触れて、鑑定でみると、やっぱり!


 ―――ダンジョンは巨万の富を生む……。


 これ採掘したら、普通に一財産じゃないの!?

 それともこれがエメラルド・ダンジョンだからなの!?

 いきなり金持ちひゃっほーいなんて喜べないわよ! あたしは脇目もふらず、この目の前のお宝を通り過ぎて中層階までいかなきゃいけないのよ!?

 金と命なら命でしょ!?

 壁に手を付けていたら、手首にべちゃっと、何かがあたる。


「ひっ!」


 スライムだ。

 粘膜を取り払い、距離をとる。

 手首にのこるぞわぞわした感触。

 距離をとっても、のそのそと近づいてくるので、メイスで叩き潰す。

 先端が粘膜を破り、硬い何かに当たった感じがした。多分、核と言われるものだろう。そのまま何度も、メイスを振り下ろすとスライムは霧散した。


「……気持ちわるっ……」


 もうやだ、家に帰りたいー!

 けどさ、あたしがここを中層階まで行かないと、ダメなんだよね。スタンピードが起きるから。

 はー、一人なんて心細いよ。

 そんなことを思ってるとまた進行方向に粘膜状の物体が現れた。

 やはりスライムだ。

 さっきの直接触れた感触を思い出すと、背中からぞわぞわしてくる。

 なんていうか、家でくつろいでるところで、黒光りしてて触角が長くて、やけに動きが早くて、しかも羽で飛ぶアレを見た気持ちに近い。

 救いはスライムの見た目が透明で粘ってて、動きが緩慢なところだろう。


 だから、仕留めやすい。


 メイスを振り下ろすと、核に当たり、スライムは霧散した。

 これ、半日繰り返すのか……。

 倒せばその場から消えるからいいんだけど。

 やっぱ力仕事。

 体力ないとダメなんじゃないの? やるだけやるしかないけどさ。



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