Column2 「担当させていただきます」が使える場面

 前回に引き続き、「~させていただきます」について考えます。


     ☆


「させていただく」についてColumn1で大まかな説明をしましたが、ここからは具体的な場面を用いて説明いたします。


 さて、アナウンサーや俳優さん、声優さんなどが、自分がその役を得たときに「この番組を担当させていただきます〇〇です」とか、「〇〇という役をやらせていただいたのですが……」と言うことがあります。


 彼らが聴衆に向かって「させていただきます」と使っているとき、「自分が選ばれました」「私が務めます」ということを聴衆に対して腰を低くして言っていることが伝わってきますが、「させていただく」が本来使われるべき場面を考えると不適切と言わざるを得ません。

 では、何が適切なのか。Column1の例文を用いて考えてみましょう。


<例>

 パーティで参加者がスピーチをすることになっているが、中々勇気が出なくているときに「ぜひ、スピーチをお願いします」と言われた。

 私はその人に対して「それでは、ご挨拶をさせていただきます」と言った。



 ここで注意したいのは、「させていただく」を対象としているのは「ぜひ、スピーチをお願いします」と言ってくれた人に対してであり、会場の人ではないということ。

「させていただく」の一つ目の用法を思い出してほしいのですが、「厚かましくて申し訳ないと思いつつも、私は〇〇します」でした。


 つまり「ぜひスピーチをお願いします(=ぜひ、スピーチをして下さい)」と許可を出した人に対して、「あなたが許可して下さったので厚かましくて申し訳ないと思いつつも、スピーチをします」という意味であるため、会場全体に対してへりくだってはいないのです。


 よってこの用法をご存知の方は、アナウンサーや俳優さんたちが言っている「担当させていただきます」などを聞くと、慇懃無礼だと感じてしまいます。

「私はいつ、あなたがその役をすることを許可したのですか? それなのに勝手に『させていただきます』などと言わないで」と思ってしまうというわけなのです。


 今は広がってしまった使い方ですし、言う方としては「偉そうに聞こえないように」「自慢話に聞こえないように」という考えがあって使っていることが分かるので、言い方を変えるのは難しいとは思います。


 しかし、もし本来の使い方として「担当させていただきます」とか「〇〇という役を務めさせていただきます」を使いたいとお考えであれば、一般聴衆へ向けて使うのではなく、アナウンサーなり俳優さんなりに役を与えた人に言うとベストです。それは「させていただく」には許可をしてくれた人に対する感謝も含まれているから。


 彼らに仕事を与え、その役をすることを許可した人にこそ「あなたが許してくれたので、私は〇〇します」という「させていただく」が発揮される敬語なのです。


 では一般聴衆に向けて言うなら何と言えばいいのかというと、「番組を担当いたします〇〇です」や「〇〇という役を担当しております」とすると良いでしょう。


『明鏡国語辞典 第三版』の「いたす」には「相手(=聞き手・読み手)に対する敬語」でありますし、「おります」には「『いる』『います』の丁重語。相手(=聞き手・読み手)に対する改まった気持ちを表わす」とあります。


 どちらも聞き手や読み手に対する改まった気持ちを伝えるものですから、一般聴衆に向けて使うならこちらを使うと良いように思います。

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