転生したら奴隷だったので人生絶望的かと思ったけれど豪運スキルをきっかけになんだかんだうまくやれてます

小龍ろん

第一部 黒狼騒動

パンドラギフトで大当たり

「非道なことだとは理解している。だけど、娘のためなんだ。頼む」


 悲痛な顔でそういったのは僕のご主人様だ。ご主人様と言っても、ほんの数時間前になったばかりだけどね。僕は奴隷で、目の前のおじさんが僕を買ったというわけだ。


 正直言って、僕は奴隷としてもほとんど価値がない。まだ子供だから力はないし、ちょっと前に色々あって片目は潰れている。右足もうまく動かない。労働用の奴隷としては全くの役立たずだ。


 そんな僕がなぜ買われたのか。理由は箱開け要員として使うためらしい。箱といっても普通の箱ではない。パンドラギフトというダンジョン産のアイテムだ。


 パンドラギフトは実にギャンブル性の高いアイテムで、運が良ければ貴重なアイテムやレアスキルが手に入るらしい。逆に運が悪いと、酷いマイナススキルを獲得したり、呪いをかけられたり、最悪即死することもある。


 宝箱の罠なら盗賊技能で解除できるんだけど、パンドラギフトの悪い結果はあくまでアイテム効果なので回避できないみたいだ。


 そこで編み出されたのが、奴隷にパンドラギフトを開封させる方法。本来ならば奴隷といえど、命の危険がある行為を本人の同意なしに強要することはできないんだけど、僕みたいな違法奴隷ならば問題にならない。というより、正式な奴隷じゃないから何かあってもひっそりと闇に葬られて露見しないといった方が正しいかな。


 僕の前には6つのパンドラギフトが並べてある。これを全て開封するのが僕の役目だ。さすがに6つもあればどれかで悪い効果を引くだろう。元々、悪い効果の方が出やすいらしいし。


 なかなか詰んでる状況だ。転生してもチート能力が貰えなかったらこんなもんだよね。


 そもそも僕が記憶を取り戻したのはつい最近。ちょうど口減らしのために奴隷として売られた直後だった。もう少し早く記憶が戻っていれば内政チートとかで奴隷回避できてたかもしれないけどね。奴隷スタートだと手の打ちようがない。


 しかも、売られた先が違法な奴隷商だったから、本当に最悪だ。僕を最初に買ったのはガラの悪い冒険者だった。表向きはダンジョン探索のときの荷物持ちとして雇ったように見せかけていたみたいだ。だけど、実際はいざというときの囮だった。すぐに負傷して、結局、奴隷商のところに出戻ることになったわけだ。


 働けない違法奴隷が買われる先なんて、もれなくろくでもないんだけど、僕はほんの少しだけ運がいいみたいだ。


 このパンドラギフトを全て開封して、それでも僕が生き残っていたら、僕の首元に着けられた隷属の首輪を外して解放してくれるとご主人様は約束してくれた。罪悪感を和らげるためかもしれないけど、僕にメリットがあるならどんな理由でも構わない。ともかく、わずかとはいえ僕にはまだ希望がある。


「開けます……」


 宣言して一つ目のパンドラギフトを開封する。開けた瞬間に箱はキラキラと光の粒になって消え、代わりに巻物のようなものが宙空に出現し、僕の足元に落ちた。


「スキルスクロールみたいだな」


 ご主人様が巻物を拾いあげて、ルーペのようなもので調べている。アイテム鑑定用のマジックアイテムなのかもしれない。


「【運命神の微笑み】か。聞いたことがないスキルだ。名前からすると、運勢が上がりそうだ。君が使うといい」


 手渡された巻物を受け取る。


 ルーペでは具体的な効果までわからなかったみたいだ。だけど、ご主人様も聞いたことのないようなレアスキルらしい。そんなスキルスクロールを奴隷に使わせるなんて普通ではありえないと思う。


 だけど、ご主人様はこの運試しに賭けているんだろうな。僕の運が上がれば、当たりを引く可能性も上がるというわけだ。僕が生き残る可能性も上がるんだから、ありがたいことだけど。


 スキルスクロールの使い方はなんとなくだけど知っている。確か、スクロールを広げて『使う』と念じればいいはずだ。


 試してみると、スクロールは一瞬で灰になった。代わりに僕の中に不思議な力が宿るのを感じる。たぶん、スキルを取得できたのだろう。残念ながら効果はわからないままだけど。


 ともかく、運が良くなったと信じて次のパンドラギフトを開封する。先ほどと同じように箱が消えて、今度は液体の入った小瓶が出現した。ポーションの類だと思うんだけど、瓶には精緻な装飾が施されている。見た感じ、並の品ではなさそうだ。


 ご主人様は何も言わずに瓶を拾い上げた。その手はなぜか震えている。


 スクロールのときとは明らかに違う反応だ。もしかしたら目的のアイテムなのかもしれない。そう思いながらもご主人様の鑑定を見守る。


 ルーペで小瓶を覗いたご主人様は少しの間動きを止め――天を仰ぎ、叫んだ。


「これだ! 霊薬ソーマだ! やったぞ、これで娘の治療ができる!」


 どうやらご主人様は目的のアイテムを引き当てることができたようだ。実際に引き当てたのは僕だけど。


 それにしても霊薬ソーマといえば伝説級のアイテムなんじゃないかな? まあ、僕が知ってるのは前世の知識だけどね。それでも名前に『霊薬』とつく位だから貴重なアイテムだと思うんだよね。パンドラギフトって、そんなレアアイテムまで出るんだ。そりゃあ、無謀にも開封して身を滅ぼす人が絶えないはずだよ。


「ありがとう! 君のおかげだ! ありがとう!」


 ご主人様が僕の両手を掴んでブンブンと上下に揺らす。感情が昂っているせいか、力加減がおかしい。こっちはまだ子供の体なんだからちょっと勘弁して欲しいよね。


「首輪を……」


 腕が千切れる前に僕からの要求を伝えておこう。そう思ったんだけど、声が掠れて途中で途切れてしまった。でも、問題なく意図は伝わったようだ。


「ああ、そうだったね。すまない」


 ご主人様はそう言うと、なにか呪文のようなものを唱えた。おそらくは首輪を解除するキーワードだったのだろう。カチリと音を立てて隷属の首輪が外れた。


「さあ、これで君は自由だ。本当にありがとう!」


 そう言って元ご主人様は去っていった。霊薬ソーマだけを持って。残った4つのパンドラギフトはそのまま置き去りにされている。


 正直、隻眼で片足が不自由な僕が、この世界で生きていくのは相当に厳しい。チートアイテムの一つ二つ欲しいところだ。


 これ、残りのパンドラギフト、開封してみるしかないんじゃない?


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