三校合同会議

第8話 開幕早々、乱雑な挨拶

「紅輝、忘れ物はない?」


「うん、大丈夫!それじゃあ行ってくるよ!」


 紅輝は夏用のシャツに緩めに締めてから玄関で靴に履き替えると母である果歩に一言告げると、蒼依が待っているであろう場所……宙船駅へと走った。



「えーっと……確か蒼依はこの辺にいるはず……」


『いないな……約束には厳しいと噂の彼女が遅刻か?』


「お前、それ本人いないから言っただろ……頼むから絶対口滑らすんじゃないぞ!」


「何の話かしら、一ノ瀬君?」


 紅輝とアキレスが蒼依の噂について話していたそのすぐ後ろから本人が登場した為、二人はかなり慌てた様子で彼女の方を見た。


「や、やぁ……二葉さん……ご機嫌麗しゅうございますなぁ、はははっ」


「何で冷や汗なんてかいてるのかしら?さ、電車に乗りましょう……私達は今日から数日は空中1年の代表として、向こうの同級生と交流するんですから」


「やけに張り切ってるな……ま、いっか」


 紅輝は少しだけ疑問を感じつつも何気なく彼女の荷物を横から取るとそのまま電車に乗った。


「荷物くらい自分で持つわ……変に気を使わないで下さい」


「いや……こっから海ヶ丘ってかなりあるだろ?こんな大荷物をか弱いレディーに持たせっ放しってのは何か気が引けるんだよ」


「なっ……お、お嬢様扱いしないで下さい!全くもう……一ノ瀬君の……ばか」


(えっ、何で今俺さり気なく怒られたんだ……?気に障るような事は何一つとしてした覚えはない……はず……)


『紅輝……お前って本当に乙女の扱いもその心も何一つ理解してないのか……』


「んな事言われたってさぁ……」


『やれやれ……今度一緒に考える時間を作ろうか……』


「そんな時間いらねぇわ!」



―同じ頃、先頭車両では


「ックク……俺の中にあるウィルスを分けてやったんだ。せいぜい上手くやれよ……」


『了解……予定通り、ファーストフェイズを開始する。ハッキング、開始』


 黒いパーカー姿の少年……ヴェクターは左手に付けたリアライザーらしき機器から紫の光を発してそれを黒い装甲に鈍重な佇まいの巨人のような物を生み出した。


『ハッキング……完了……』


「さぁて……どう動くかな、人間ザコのナイト様……ックク」



「自分でかなり遠いとは言っておきながら……流石にここまで遠いなんて思わなかった……」


「仕方ないわよ……いくら色々と開発が進んでるからって、空船はまだまだ小さい町ですから」


「けど、後30分は長いって……」


『紅輝……現在、この列車にてウィルス体の反応をキャッチした。それも2つ……気を付けろ!』


「マ、マジか……じゃない、すぐに追わなきゃ!悪いなアキレス……ナビ頼む!」


『そう言うと思って大体の座標はマークしておいた……急ぐぞ、紅輝!』


「あぁ……事がデカくなる前にこっちから抑えにかかろうか!」


 紅輝は荷物をその場に置きつつ、小刻みに揺れる電車の中をなるべく素早く動いてアキレスが立ち上げた特製のナビゲーションに従いながら先頭車両へと急いだ。



―その頃、海ヶ丘駅 オートトレイン管制室


「たっ、大変です……!」


「どうした!?」


「現在海ヶ丘総合駅へ向かって進行中の列車の自動運転システムが何者かのハッキングを受けた模様……!しかし、速度は依然として変わってません……」


「ふむ……ハッキング対象の動きに警戒しつつ、当該列車の自動運転システムの復旧作業に取りかかれ!」


「了解!」



―空船発海ヶ丘行き列車 先頭車両内


『反応を感知したのはここだ……!?お前は……ヴェクター!』


『フッ……やはり嗅ぎつけてきたか……だが、遅かったな』


「まだ間に合うぜ……だって俺達はお前らがここをハッキングした事くらいは既に把握してるからな!そしてこれから被害を抑える為に……お前らを止める!」


『やれるものならやってみろよ……お前には無理だと思うけどな』


 そう言うと騎士の姿へ戻ったヴェクターは紅輝達を嘲笑しながら姿を消した。するとそれと入れ替わるように鈍重な見た目の巨人が姿を現した。


「な、何だコイツ……何も分からんけど、ヤバそうなのは伝わってくる……!」


『反応の強さからして、怪しいのはコイツだ……さぁ、やるぞ紅輝!』


「行くぜ……アクセスアップ、レッドアキレス!」

『オペレーション、スタート!』


 紅輝はいつもの勢いでリアライザーにカードを通すとカード型のゲートを潜って変身を完了させつつ、相手に切りかかった。しかし、相手への攻撃は弾かれた上に勢いもそのまま跳ね返った為、紅輝自身が転倒してしまった。


「コイツ……何て硬さだ……こっちの攻撃が効いてないどころか、寧ろ跳ね返されてないか!?」


『確かに……あの堅牢な装甲には気をつけた方が良さそうだ……!?』


『攻撃を確認……これより、エマージェンシーフェイズに移行します』


「あぁ?エマージェンシーフェイズ?何だそれ?」


 戸惑う紅輝を他所に黒い巨人は展開していたケーブルを一斉に収納すると、中央のモノアイを怪しく光らせながら素早く彼に向かってタックルを繰り出した。


「がっ……うっ!な、何だよ……一撃でこんな痛め付けられるなんて聞いてないぞ?」


『とうとう本気で殺しに来たと言うわけか……紅輝、すまないが少し時間を稼いでくれ』


「無茶言うな……って言いたいとこだけど、初見相手に対して分析もせずにジリ貧バトルを仕掛けるのはあまり得策とは言えない。しかも時間も限られてそうだし……分かった!」


 紅輝は何とか起き上がると一端双剣を鞘に収めて真正面から飛び蹴りを命中させたが、やはり先程と同じように完全に防がれた上、片手でその足を掴まれて投げ飛ばされてしまった。


「くっ……そぉっ……!俺の攻撃すらもこのザマかよ……!」


『排除開始……!』


「お前みたいなゴリラに殴られるような俺じゃねぇ!」


『アタック』


 巨人の剛拳による重い一撃は防御の姿勢を取った紅輝の体を簡単に吹き飛ばし、壁に叩き付けてしまった。


『紅輝、マズイぞ……このまま奴の攻撃を受け続ければ数発食らううちにアクセスが強制的に解除されてしまう……弱点分析を急いではいるが……目立つ弱点が見つからないんだ……!』


「何だって!?それじゃあ……どうにかして倒す手段を見つけろって事か……」


『デリートモード移行、対象……X-05A』


 紅輝が痛さを堪えつつも立ち上がったが、相手はそんな彼の事情など知る由もないと言わんばかりに右の拳にエネルギーを収束させ始めた。


「ちょ、まっ……これもしかしなくても相当ヤバいシチュじゃないか!?」


『もう少しだ……もう少しで何かが見えてくるんだ……』


「こうなりゃヤケクソでも相殺してやるさ!うおおおおおおおお……!」


『デリートコマンド01·クラッシュエンド……実行』


「さっせるかぁぁぁぁあ!」


 紅輝はエネルギーを溜めた相手の攻撃を相殺する為に腰から勢いよく双剣を抜刀すると同時にそれを相手に向かって投げ付けつつ自身も前へと出た。その瞬間に大爆発が起き、お互いに大きく吹き飛んでしまった。


『くっ……紅輝……っ!』


「……」


 爆発の衝撃の影響か、紅輝は変身が解除されてないものの気を失ってぐったりとしてしまうのだった。

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