第13話 切断者の決意
「何!?何なのよ!!なんでどこもかしこも電気がつかないの!!」
夜でも明るいジークタウンが、突然現れた光の柱とその影響で発生したまばゆい閃光の後、まるでそのまま命の輝きを吸われて死んだかのように暗闇に包まれていた。”処刑祭り”会場にいる観客たちは、これもまた祭りのパフォーマンスの一種だと思っていたようだが、動転したクジナの様子とあわただしく動き出した都市警備隊の姿を見て、期待感はだんだんと焦燥と困惑に変わっていく。
「一体どうしたというのだ!!この停電の原因は何だ!!」
「わ、分かりません!!中央納電管理局に何度も連絡しているのですが、いまだ応答がありません!」
「・・・ま、まさか・・・切断者は、あの男だけじゃなかったのか・・・!!」
「納電管理局に向かった班からの映像、出ます!・・・なっ・・・なんだこれは・・・!!」
都市警備隊は、偵察班が送ってきた映像を見て驚愕した。この都市の中心たる荘厳なジークタウン中央納電管理局は全て灰と消え、その跡地には大きなクレーターがぽっかりと口を開けているだけであった。このような状況を、かつて都市警備隊は2回ほど経験している。こうなることは予測できたはずだった。だが、この小さな暴君の向こう見ずな「誤算」によって、ジークタウンは3回も”切断者”の侵攻を許してしまったのだ。
「う・・・そ・・・なんで・・・?なんでよ!?切断者はそこにいるじゃん!!あたしが捕まえたじゃん!!」
「クジナ様、念のためここはいったん退散いたしましょう!切断者があの男以外にも複数いるとわかった以上、どこに潜んでいるか分かりません!ジークタウンから撤退するのです!」
「ダメ!!・・・もしこのまま撤退したら、お兄様たちにまた”末っ子クジナ”と馬鹿にされる・・・どうせ撤退するならせめて、あいつを・・・!!」
「いけませんクジナ様!!お戻りください、危険です!!」
「うるさい!!どのみち私は笑われ者よ、だったらせめてあいつだけでも倒しておかなければ・・・このまま逃げかえれば、”リアス”の名が泣くわ!!」
クジナは無理やり指揮官から高熱度振動剣を取り去って、首切り台の方へ駆けて行く。
今、クジナはただ自分の面目を守るためだけに動いていた。自分の失態で発電ネットワークにおいて重要な位置を占める太陽光都市の一つが陥落したのだ。散々兄に頼み込んでどうにか手にした都市の君主の地位はもう諦める、だが、仮にも私は三陸王リアスの血を分けた末妹だ。その名を汚さないようにする為には、切断者を自らの手で打ち取るしかない。それしかない・・・と。
「ねぇ、いったいどうなったんだい!?あたいは死んだのかい?死んでないのかい?」
「・・・俺たちは、助かったらしい・・・」
「へ・・・?」
「・・・納電管理局はたった今、破壊された」
てっきり死んだと思っていた女首領だが、すぐ後ろから聞こえてくるギロチンの声で、自分はまだかろうじて生きているらしいと分かったようだ。
「・・・おそらく、俺の仲間がやったんだ・・・」
「なんだか知らないけど、とにかく一旦ここから離しておくれよ!せっかく拾った命、もしまた動き出して取りこぼすなんてのは御免だからね!!」
「・・・待ってろ」
ゴキゴキゴキゴキ・・・
後ろ手に拘束されていたので、彼は肩の関節を外して両腕を前に回した。そして、その手で首切り台に掛けられていた女首領を引っ張り出して立たせる。そして関節をまたゴキゴキと音を鳴らして正常な位置に戻した。
「あんた・・・いったいどうなってんだいその腕・・・?」
「・・・この機能は久しぶりに使った、慣れれば便利だ・・・」
「機能って・・・あんたまさか
「・・・言わなかったか・・・?」
キュイイイイ・・・
「・・・!・・・下がれ!!」
「えっ、何だい、どうしたんだい・・・って、うわぁ!!」
ギロチンは女首領を後ろに突き飛ばし、かばうようにしてエネルギー充填音のした方向へ急いで向き直る。その先には、赤く光る得物をもって今まさに襲い掛からんとしている小さな影・・・クジナがいた。
「切断者ぁぁぁ!!覚悟ぉぉぉ!!」
クジナは首切り台を大股で駆け上がったと思うと、その勢いでビュンと大きく飛び上がり、振動剣を振りかぶってギロチンに切りかかった。
「・・・!」
ビュン!
ギリギリギリギリギリ!!
ブツン!!
だが、そこはギロチンの方が一枚も二枚も上手である。エネルギー波が発射される寸前に、彼はクジナと同じ高さまで飛び上がり、その刃を自分の腕を繋ぎとめる鎖で受け止め、自らの縛めをぶった切らせた。クジナはまたも、切断者に逆転の切り札を与えてしまったのだ。
そして、次の瞬間処刑祭り会場には、鈍い音が響く。
ボゴォッ!!
「ぐ・・・が・・・はっ・・・」
例え、年端もいかない子供だろうと彼は悪人には決して容赦はしない。
彼が空中で放った怒りの鉄拳はクジナのみぞおちに深く、深く食い込んだ。思わず、クジナはその手から得物を落としてしまう。
「・・・」
ギロチンはほぼ一日ぶりに、自分の得物を取り戻した。心なしか、いつもよりも手になじむ気がする。主人の手に戻れてよほど嬉しいのだろう。振動剣は歓喜の声を上げるかのように自らの刀身を赤く燃え上がらせる。
キュイイイイ・・・
「い・・・や・・・!」
”切断者”はここに復活した。その右手に握る得物で狙うは、雨なんて降るはずもないのに何故か下半身をずぶぬれにしながらみじめにも命乞いをする小さな暴君だ。
「待って・・・待って、待って!!・・・そうだ、貴方、私の部下にならない?・・・裁判抜きの極刑にしたことは謝るわ、何なら、この都市の警備隊の指揮官にしてあげてもいいわよ!?いや、この都市の君主にしてやってもいいわ!!私がお兄様に頼み込んで何とかしてあげるから・・・!!」
「・・・この星は、滅びなければならない・・・。滅びゆく星の、飾りだけの地位など必要ない・・・」
「いや・・・いや・・・殺さないで・・・!!」
じりじりとクジナに迫る切断者。彼女は逃げようにも恐怖で足がすくんで動けない。いよいよ高熱度振動剣を振り下ろすだけ、という所まで迫った、その時。
「おいっ、切断者!!クジナ様から離れろ!!」
声の主はジークタウン都市警備隊指揮官だ。振り向いてみると、彼はいつの間にか女首領を拘束し、その首筋に鋭利なサーベルを突き付けていた。
「クジナ様から離れないと、この女の命はないぞ・・・!!」
「・・・!」
~~「・・・誰?」~~
~~「お・・・お兄・・・さん・・・」~~
ギロチンの記憶回路は、再び過去の記憶を呼び覚ました。この暴君を自分は切らなければならない。しかし、もう自分の目の前で人が死ぬのはごめんだ。だが・・・
「あたいに構わずやっておくれ!!」
「・・・!」
再びトラウマに襲われたギロチンは、女首領の一声で我に返った。
「そいつはこの処刑祭りで、何人もの罪なき人々の命を奪ってきたんだ!そいつを今やらなければ、また多くの犠牲が・・・」
「ええい黙れっ!!」
「どうせ一度は死んだ身なんだ、いつだって覚悟はできてる!!・・・さっき、あたしが言った言葉を思い出しておくれ・・・!!」
~~「(殺してしまった数だけ、人を救えばいい。)」~~
女首領から聞いた言葉を思い出すと同時に・・・彼女に背を向けた。ギロチンにもう迷いは、ない。
「・・・すまん。お前の死は無駄にはしない。」
キュイイイイイ・・・
「いや!!やめて!!その女の命が惜しくないの!?私を生かせればその女の命も救えるのよ!?」
「・・・お前を生かしたら、また多くの犠牲が出る・・・たとえ彼女を救えなくても・・・俺はお前を切らなければならない・・・何故なら・・・俺は・・・」
ブウゥン!!
「・・・”切断者”だからだ!!」
ジークタウンの大衆が固唾を飲んで見守る中、記念すべき60回目の処刑祭りで処刑されたのは、その祭りの発案者である、クジナ・N・リアスその人であった。
「く、クジナ様がやられた・・・!!」
「クジナ様が!!」
「俺たちも切られるかも!!早く逃げないと!!」
ワァァァァ!!・・・・
キャアアア!!・・・・
会場の雰囲気は、祭りの開始の時と正反対の、心の底からの恐怖から飛び出た悲鳴で満たされた。観客は我先にと会場から雪崩のように逃げていく。
「よ・・・よくもクジナ様を・・・!!ならばこの女を殺すまで!!」
指揮官は、ギロチンが振り返るよりも早く、女首領を前にはっ倒してその首筋めがけてサーベルを突き刺そうとした。だが・・・
グサァッ!!
「ぐっ!!・・・お・・・お・・・・・。」
女首領は今回だけで二回も死ぬ覚悟をしたのだが、幸運にも全て空振りに終わってしまった。またも彼女は命拾いをしたのだ。
「な・・・なんだい!?・・・いったい何だってんだよ!?」
振り向くと、指揮官はそれはもう長くて太い「針」で胸を貫かれ、血の海の中で息絶えていた。針の飛んできた方向に目線をやると、黒の長髪の女と金の短髪の青年が見える・・・メイデンとファラリスだ。
「この祭りを訪問してよかった、私たちは何回あなたを助ければいいのかしら?」
「・・・メイデン」
「ギロチン・・・僕たち、すべて見ていたよ・・・やっと、立ち直れたんだね・・・よかった・・・!!」
「・・・ファラリス」
・・・
全ては終わった。いつしか朝日が昇り、「本丸」を失ったジークタウンは段々と太陽の光に照らされていく。もうこの都市に用はない。再び合流したギロチンは、メイデンに自らの非を謝罪した。
「・・・処分を取り消し・・・すまない、班長・・・なんて礼を言えばいいか・・・」
「はぁ、もういいわよ。謝礼ならファラリスに言いなさい。・・・まあでも、貴方が本当の自分を取り戻せて、私も嬉しいわ」
「本当、ギロチンのすることっていっつも結果オーライになっちゃうから凄いよね、でも、一体ジークタウンで何があったの?」
「・・・それは・・・」
ギロチンは、後ろで自分たちを見ていた女首領の方へ向き直る。
「・・・待っててくれ」
彼は二人を待たせて、女首領の方へ駆け寄った。
「・・・」
「正直、生き残れるとは思わなかったよ。全部あんたのおかげさ。」
「・・・行く当てはあるのか・・・?」
「それはまた、この街を出てから考えるさ。・・・一度は捨てたこの命、もう一回燃やしてみることにするよ」
「・・・よかったら、俺たちと共に・・・」
女首領は、ギロチンの言葉を遮るように首を横に振る。彼の頬を片手で名残惜しそう撫でた。
「あんたは、この星を滅ぼす重要な任務を担ってんだろ・・・?あたいなら大丈夫、だからお行き。仲間の所へ・・・」
「・・・すまない。」
「謝ることなんてないよ。お互い、生きてりゃまたどこかで会えるさ。・・・じゃあ。」
そういうと、女首領はギロチンと分かれ、朝日の方向へ歩き出していった・・・
「あ、そうだ!」
と思いきや、何かを思い出したようにギロチンのもとに駆け寄る。そして・・・
「・・・悪いね、これくらいしか今は”恩返し”ができないんだ。滅びゆくこの星で出会えた思い出に・・・」
チュッ・・・
「・・・!!」
「あら・・・」
「えっ!?・・・」
「じゃあ、達者でね、ギロチン」
ギロチンの思考回路は今の女首領の行動の意味を何度も何度も反芻していた。そして無意識に、女首領の唇が触れた時の感覚が残る自分の唇に触れていた・・・。
・・・
「・・・ファラリス」
「ふん!」
「あらあら、すっかりむくれちゃってるわね。」
「別に?人が夜通し心配して?自分の立場も捨てる覚悟で処分取り消しを求めたのに?当の本人はのんきなことにこの星の人と?”ねんごろ”になってたくらいでむくれてませんけど?」
「別にそこまで聞いていないわよ・・・」
「・・・ねんごろ、ってなんだ・・・?」
「知らない!自分で調べたら?」
「ふふっ、ファラリスはギロチンの唇を奪ったあの女首領に嫉妬してるだけよ。」
ファラリスの顔はまるで火を噴いたように真っ赤になる。
「な、ち、違うもん!!」
「・・・じゃあ、ファラリスも同じことをやればいい・・・」
「えっ!?・・・いや、あの、その・・・ほら、いくらサイボーグとはいえ男同士だし・・・そういうことはちょっとやっぱり・・・」
「・・・俺はファラリスなら構わない」
「・・・もうっ!!ギロチンのバカ!!」
「全く、仲のいいこと・・・ふふっ」
銀河連邦の密使たちはここに再び3人集い、次なる目的地へとむけて浮上二輪を飛ばし、荒野を駆ける。
惑星安楽死任務は、まだまだ始まったばかりだ・・・
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