第4話 リリーシャと少女 side:エミリテスラ

「すまん、リリーシャ嬢に客人が来ている。入るぞ。」


 私の部屋でリーシャとゆっくりしていると、お父様がノックをして声をかけた。


「えっ!お父様?」

「ああ、客人といっても10歳のお嬢さんだ。リリーシャ嬢をどうこうする事はないよ。それに、彼女はリリーシャ嬢とほぼ同じ境遇だ。」


 私たちは顔を見合わせた。こんな時に来るのは遺産目当ての親戚かと思ったのだけど、”同じ境遇の少女”というのは想定外だった。


「ああ、同じ境遇というのはだな、リクラウドの災害で親族を全て亡くしたそうだ。痛っ、ああすまない。謝罪する。で、入っても良いかい?」


 確かにリーシャは災害で親族を亡くしている。だけど、その少女が本物なのか……って、お父様が調べたのだもの、問題ないとは思う。

 それをリーシャに伝えてみたら、会ってみようと言う話になった。


「お父様、良いですわよ。入っても。」

「入るぞ。」


 部屋の扉が開いてお父様の厳つい顔が見えた。お父様の後ろから少女が顔を覗かせる。銀色の長い髪に青い目をした少女だ。その少女が目を見開いて驚いた顔で声を出した。


「リー姉ちゃん?」

「えっ!?フィーちゃん?」


 その声に反応したリーシャ。えっ?知り合いだったの。


「フィーちゃんは毎年避暑に来ていたよね。じゃああの時……。」

「うん、私だけ夏風邪ひいて行ってなかったの。でも、私以外はみんな……。」


 リーシャはフィーちゃんに近づき、抱きしめた。


「大丈夫だった?みんないなくなったんでしょ。」


 フィーちゃんもリーシャにしがみつき。


「私は知ってる人が周りにいたから平気。でもリー姉ちゃんは……。」

「私も、リタがそばにいてくれたから。それに、フィリップス伯爵家の人たちも親切にしてくれたし。」


 抱き合っている二人を私たち親子はほっこりとした雰囲気で見ていた。



 存分に抱き合った二人を連れて中庭の東屋でお茶をすることになった。


「フィーちゃんが無事でよかった。」

「私もリリーシャと言う名前とリー姉ちゃんが結び付かなくて、ビックリしちゃった。あ、そうだ。フィリップス卿、いい?」


 フィーちゃんがお父様に何か確認をし、お父様は頷いた。なんだろう?


「リー姉ちゃん……、いえ、リリーシャ嬢。あなたをアイランド男爵の後継者と認め、先代の殉職に報い、子爵へ陞爵し、リクラウド周辺を領地として下賜します。」

「「えっ?」」

「リクラウドの離宮があった場所は皇帝家の墓所とし、皇帝家の庇護下でアイランド子爵が守護するとします。アイランド子爵が成人するまで、後見人としてフィリップス伯爵を任命します。――――――――――リー姉ちゃんが嫌なら断っても良いよ。」


 呆然とする私とリーシャ。と言うか、なにがなんだかさっぱりわからないんですけど。

 そうしていると、お父様が苦笑いしながら説明してくれた。


「この方は、フリージア・アメジスト・フォン・フィリア=ベジリアス陛下だ。簡単に言うと、現皇帝陛下だ。」


 ふんわりとした笑顔で私たちを見ている10歳の少女が皇帝陛下?嘘でしょ!?


「ええ、リー姉ちゃんに説明した通り私だけが夏風邪ひいて帝都にいたので、私以外の帝位継承者がいなくなっちゃって、私が皇帝になっちゃったの。」

「・・・」


 てへっといった感じで舌を出した少女が皇帝で、うちでお茶を飲んでるってワケわかんない。

 硬直していると、お父様がパンッと手を叩いた。


「さあ、皇帝陛下のお言葉を賜ったことだし、お茶会の続きを――――。」

「「無理です(だよ)」」


 私たちの声が重なった。そりゃ、この帝国で一番やんごとない人とお茶会なんて無理でしょ。


「リー姉ちゃんも……、えーとご令嬢の名前なんとおっしゃりますか?」


 そうだよ私、皇帝陛下に名前を名乗ってない!!


「皇帝陛下。私はフィリップス伯爵家長女で、名前はエミリテスラと言いまう!」


 うわー噛んじゃった!でも皇帝陛下は微笑んでる!


「エミリテスラさんですね。この場は無礼講……と言うか、エミリテスラさん、私とお友だちになってくれませんか?」

「わ、私なんて、皇帝陛下に友達って、畏れ多い――――。」

「そんなこと言ったら、私、一生友達できないじゃないですか。」


 パニックになりながら返事をしたら、皇帝陛下がプクッと頬を膨らませてそう言った。か、可愛い。


「良いんですか?」

「良いんです!そうじゃないと私、歳の近い友達すらいないことになっちゃいます。皇帝としてじゃなくフリージアとして、お友だちになってください。」


 頭を下げて手を差し出してくる皇帝――――――、いや、フィーちゃん。私はその手を取って


「うん、友達になりましょう。リーシャと同じようにフィーちゃんて呼んで良いかな?」

「もちろん。私も、エミリ姉さんと呼んでも?」


 コテッと首をかしげるフィーちゃん。なにこの可愛いの!思わず抱きしめちゃった!


「もちろん!」


 フィーちゃんが私の腕の中であわあわ言っているのを感じながら思わず。


「お父様!こんな妹が欲しい!つくれませんか!」


 と、おねだりしてしまった。いいじゃない、私には上にお兄さまが二人いるだけなんだから。


「そうなのよ、フィーちゃんはホント可愛いのよ!」


 そう言ってリーシャも抱きついてきた。そうしたら、フィーちゃんがきゅうっとなったので、離してあげる。


「はぁ、はぁ、これで、お姉ちゃんが、二人です。」


 また二人でフィーちゃんをギュッと抱きしめた。

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