ゆもみちゃん質問

「それじゃあお父さんとお母さんは買い物に行くが、二人はどうするんだ?」

 こういうときの遊紅絹は特に命令することなく俺の答えを待つ。この命令するのとしないのとの場面の差はなんなんだろうか。

「今日は~……遊紅絹と留守番しとくかな」

「わかったわ。じゃあゆもちゃん、桃ちゃんをよろしくね」

「任せろ!」

 俺は動物かいっ。


 父さんと母さんが車に乗って出かけていった。

 洗い物が済み、ダイニングテーブルで二人ココアを飲む。遊紅絹は猫の絵のマグカップ、俺はイルカの絵のマグカップ。

 朝ごはんを食べた後はさっきみたいに家族と一緒に出かけるか、俺たち二人で遊ぶかっていう流れのどっちかがほとんど。遊ぶ場合は外に出ることが多いが、俺が留守番っていう単語を使っ(てしまっ)たため、こうして二人でココアタイムとなっている。

(……まあね? さっきの指先の感覚を思い出してしまいますわな?)

 もうぬれてない遊紅絹の手。

「なぁ遊紅絹」

「なんだ?」

 今はココアで落ち着きモードなのか、朝ごはん時のテンションではないようだ。にしてももし朝ごはんが喫茶店だったとしてもあのテンションで返事する気なのだろうか?

「この前あった文化祭、美少女コンテストで優勝してしまったな」

「それがどうした?」

 なんつー返しだ。

「い、いやぁ、俺が出てみればっつったから遊紅絹目立って、男子から~……まぁなんだ、付き合えって言われまくって大変な目にあわせちまったかなー、なんてな」

「気にすんな」

「はい」

(たった……たった五文字で終了させたぞこいつ!)

 一年のときは出なかったんだが、二年のときにクラス中のやつらから出てほしい要望が続出して、それをどうするか俺に聞いてきたから『たまにはやってみたらどうだ? 俺クラスのみんなから期待されるような経験したことないからな』みたいなことを言うと、渋々ながらも出ることに。

 クラスの女子のチョイスにより、猫耳のアイドル衣装(そんな私物を持ってるやつがクラスメイトにいるとはっ)でステージに立ち、猫耳のアイドル衣装で『お前ら! 世界を平和にするぞ!!』と叫ぶというぶっ飛んだことを成し遂げた冴城遊紅絹。猫耳のアイドル衣装で。体育館中超大ウケ。

 あまりのインパクトだったのか、全校生徒による投票の結果、優勝してしまった遊紅絹なのであった。

 もともと遊紅絹はその身長の低さから学年を越えて存在が知られていたが、文化祭翌日からはめっちゃ声かけられることに。

 ……で。その声をかけてくる連中らの中の一部の男子は、まぁそのなんだ、つ、付き合おうぜ的な話を持ちかけるやつもいて。

 が、遊紅絹は恋愛にまったく興味ないのか、(現場見てないけどたぶん)いつものノリで『断る!』とか言ってるっぽくて。たまにたそがれてる男子を見かけるようになったのは気のせいとも言い切れない感じだ。

 ポエマーな男子がこの状況を『拡散されし恋の種は、実ることなく枯れてゆく。ああなんと無情な冴城遊紅絹』とかなんとかごちゃごちゃ言っていた。しかも普通なら「何言ってんだこいつ?」ってなりそうなところ結構うなずくやつらが多かったのがまた印象的だった。

(さっきのあれからしても、やっぱそういうことに興味ないんだろうか)

 自分で言うのもあれだが……他の同級生と朝ごはん一緒に食べてるなんて情報は聞いたことがないから、俺が最も遊紅絹と仲いい男子なんじゃないかな~……と思うわけだ。

 てことはさ。恋愛対象としても、まったく接点ないやつらよりかは対象に含まれる率が多少なりとも高いはずなんだ。

 俺は遊紅絹と一緒にいるとただ単純に楽しいけど、やっぱりこれからも一緒に過ごせる時間があればいいなとも思っている。

(……ぬぁー。なんか考えれば考えるほど頭ん中遊紅絹だらけになっちまうなっ)

「遊紅絹はさー。そういうだれかと付き合うのとかー、興味ない系?」

 あくまで軽ぅ~くね?

「ない。よくわからないな」

「ほぅ」

 こんな話題になっても口調は相変わらずである。

「雪はあるのか?」

「ぉ俺!?」

 そしてその口調でカウンター攻撃!

「……んまぁ~? 俺は一般男子中学生だし? ないことも~……ないかな?」

 俺は両手を後頭部に回しながらちょっと斜め上を見る。

「そういうことしたい女の子がいるのか?」

 この遊紅絹口調の中でも、女子とかやつとか言わず女の子って言うところが、やっぱ遊紅絹女子なんだなと思うことがふとある。

「ん、んぅ~。い、いないことも~…………ないかな?」

 待て。俺が攻められてんじゃねーかっ。

「そうか」

 で、そのまっすぐな視線よ。ずびずび突き刺さる。

(………………ぁ、会話が切れた)

 数秒俺をずびずび突き刺した遊紅絹は、再びココアを飲み始めた。俺も飲も。

「雪は女の子と付き合って、どんなことしたいんだ?」

 またずびずび始まった。

「どんなことって……お、俺も別に今までにだれかと付き合ったことがあるわけでもないからな。そうだなー……」

 イメージ的にはどっか遊びに行く感じだよな。

「一緒に遊んだり、困ったときに相談しあったり、なんか一緒に作ったり? とにかくなんていうかな、ひたすら一緒にいたいって感じだろうか。俺も相手をなんか助けてやりたい。楽しませたい。て感じ?」

 白状します。遊紅絹を想像しながらしゃべりました。

「なんだそれは」

 ずがしゃーん。ココアはずがしゃんさせてないが。

「私が普段雪に対して思ってることじゃないか」

「そっか。そっか? そ、そっかあ?!」

 えっ。あいや。口調はいつものあっさりだが。

「ゆ、遊紅絹。そんなこと思ってんの?」

「当たり前だろう。料理を覚えたのも早起きしてるのもだれのためだと思ってるんだ」

(ふぉ~……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る