最悪な1日の終わり

「さ…………」


「…………さい……」


「………………………………………………さいあくだぁ」


 きおくがない。


 どうやって帰ったのか覚えていない。


 今日はデートでした。

 大好きな彼とのデートでした。


 朝から最高の1日でした。

 早めに行って、ずっと使いたかった合鍵使ってみたりして。

 朝ごはん一緒に作って、気持ち悪いかもだけど『あぁあの日憧れてた生活だ』なんて思ったりして。


 手とか繋いじゃって。

 手とか繋いじゃって!!!


 うっそ、30年もかかったのに案外簡単じゃん。なんて。


 謝られて、謝られて。

 ヨータもデートと思ってくれてて。

 初デートだって言ってくれた。


 久々に1日一緒に居れたし、幸せだった。


 多分私の人生で最高の時間のひとつだった。


 でも……


「うぅぅ……」


 雅との遭遇。

 なにか狙ってるのは分かってたけど、絶対勝ってやるんだって。

 幼稚に考えて。


 今の私はもう彼の隣に立てるんだって言いたくって。


「死ぞ……」


 そして、そして……


 死んだ。大胆な告白。羨ましい。


 でもそんなことどうでも良くって。

 どうでも良くはないけど良くって……


「……最悪だよ本当に。なんだったの『初デートだろ?』って。『おうともさ! 死なねぇならしてやんよ!!』って。期待させること言うなよ馬鹿! 私をときめかせるなよ!!」


 流れ弾喰らった。


「『俺、好きな人がいるんだ……』グハッ」


 自分で言って自分で傷つく。


 雅を躱すための嘘かなぁなんて思ったりしても、ヨータの目はとっても真剣で。


 まだ見ぬ誰かへの恋心を秘めていた 。


 私かも? なんて思うお気楽フェーズは10年も前に卒業している。


 好きな子がいるなら私に期待させないでくれ。


 好きな子がいるならチャンスなんかいらなかった。


 幼なじみに幸せになって欲しい。

 ようやくできたチャンス。

 彼の幸せを私が作りたい。


 そんな甘い考えは死んだ。やっぱり今まで通りだった。


「ばっかじゃん。さいあく」


 何か変わったかもなんて思って、勝手に期待して爆死した。25年の今まで通り。


「……あああ!! ばか!!」


 それでも熱は冷めなくて。

 まだ好きだと思う自分に苦笑が止まらない。


「……ねよ。さいあく。マジで……」


 今日だけは夢にでないでくれ。


 電気を消して目を瞑る。


「…………………………好きだ」


 それでも流れるのは今日の楽しい景色と淡い夢。

 もう懲り懲りだ。

 でもどうしようもない。


「……馬鹿野郎ヨータ、馬鹿野郎わたし」


 最悪な週末。

 明日は日曜、ちょっと早い離婚話にはちょうど良い日だろう。

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