元カノVS今妻(仮)

「うわー、やっぱ回転寿司はワクワクしますね!」


「……そうだよね。みやっちゃんにも合いそうで良かった」


「お寿司大好きです! っと、そういえばここどっちから行こうって言ったんです?」


「カナからだけど」


「……まぁそうですよね。カナちゃん先輩が幼稚さを出して、いっつも振り回されるのが陽太先輩の役割ですもん」


 所変わってお寿司屋。

 私たちはボックス席に座って湯呑みを取る。

 軽くジャブを受けつつ、微笑みながら私と雅は抹茶の蓋を同時に掴んだ。


「私が配りますよぉ~」


「大丈夫よ。来たいって言ったのは私なんだからこんぐらいやるって」


 視線がバリバリぶつかり合う。


 雅と私は大学の吹奏楽部の先輩後輩だった。

 それで、雅とヨータはバイト先の先輩後輩だった。


 気付いた時には付き合い始めてて、気付いた時にはいつものように紹介されてた。

 いっつも本当にヤだったけど、それが仲のいい後輩で。

 いつもより大きく抉られた。


 最低だってわかってるけど、終われ終われって強く念じて。

 しかして彼らは長続きした。


「じゃあお言葉に甘えて」


「あっ、カナお茶ありがとな。雅もありがと」


 ピリついた心が、ボーッと宙を見ていたヨータからのありがとうでちょっと軽くなる。

 だけどまだヤバいことは続く。


「……カナはサーモン、雅はイカだろ?」


 注文用タブレットを手にしたヨータが、分かりきったように私たちの最初のひと皿を言い当てた。


「やっぱ先輩わかってますねぇ」


「……まぁな」


 やり取りをする彼らに悋気が起きる。

 そのヨータに分かられてる席は、私だけの物だったのに。

 そう考える自分がまた情けない。


「ってかやっぱまだ仲良しなんですねぇ先輩たち」


「……まぁな」


「そうね。最近でもたまに会ってるけれど」


 ヨータが近くにいるのに、よそ行きの口調が出る。

 でも雅のこの刺すような視線を前にしては仕方ない。

 でも、この視線も仕方がないものだ。


 ――――2年ほど続いた彼らの関係が終わったのは、私が原因だったから。


「でも前より仲良くなってますよねぇ…… お手手なんか繋いじゃって」


「まぁその場のノリよ。みやっちゃんなら分かるんじゃない?」


「ノリ、ねぇ。30になってまで仲良さげで結構です」


 棘が刺さる。


「まぁ御二方は"ただの"幼なじみですし。そういうこともあるとは思いますけど」


「……雅」


 トゲが刺さる。

 彼女がヨータと別れた理由はただ1つ。


 私の存在に耐えられなかったから。


 仲の良い幼なじみ。

 女友達の存在に耐えられなかったから。


「なので陽太先輩」


 攻めてくる。

 元カノが、攻めてくる。


「……ヨリ、戻しませんか? 私あなたのことが好きなので」

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