ファミレスデート1

 三軒目は再び近場の1LDKマンションだった。

 四軒目はお高くて広めのマンションだった。


「カナさんは俺の給料いくらだと思って設定してるの?」


 そうこうしてるうちにお昼になったので、島原さんといったん分かれて立ち寄ったファミレスでカナに問い質す。


「いやあ大体のところはわかってるよ?」


「じゃあなんで……」


「ヨータ君。実はね…… ここらのお宅はお高い!!」


 カナが言った言葉は、至極当たり前のことだった。

 確かにいまの住居はなかなかに狭いし年期も経っている。

 だからこそ仕送りや給料で賄えていた訳で。


 この一言で気づかされた。


「……ごめん」


 俺はあんまり現実が見えていなかったのかもしれない。

 カナにリサーチを任せっぱなしにし、自分で考えることを怠った。

 テーブルの対面に座るカナに向かってがばっと頭を下げる。


「許そう。だがしかし……」


 そんな俺に対し、厳かな表情と声で反応したカナは一拍息を吸い込み‘望み‘を発した。


「お主は此処でのご飯代を奢るのじゃ……」


「え、最初からそうしようと思ってたのにそれで本当にいいの?」


「ひえっ!? いつもは割り勘じゃん。どうして急に?」


「……今日はデートなんだろ? じゃあ奢るでしょ」


「デート…… デートだもんね……  えへへっ……  でもヨータそれちょっと前時代的じゃない?」


「前時代的結構!  さぁ改めて願いを述べよ!」


 顔を赤らめ弄ってくるカナに選ぶワード間違ったかな?  なんて思うも、元はと言えばヤツが言い始めた単語。俺はもう攻めるしかないのだ。


 幼馴染とのお出かけではなく、これは両者合意の上でのデートなのだから!!

 元々奢るつもりだった俺は無敵モード。

 下げていた頭を上げて、俺はバッと手を前に広げる。


 ふふっ、攻守交代だぜ……

 自分が搾り取られるにも関わらず、気分は強気だ。眼前でモジモジするカナを見やる。


「……じゃあ後で言う」


「うぃ」


 30秒後。

 可愛い顔を見つめた先に出された答えは先延ばしだった。

 願いを先延ばしにされることほど怖いものなどないが、今の俺は絶対服従モード。惚れた弱みに縛られて動けない。


「じゃあ注文してくか」


「ふふっ、私にタダ飯の権利を寄こしたことを後悔するがよい」


「ふんっ!  いくら頼んでも安いのがこの店の売りだからな!  ……通称初デートがこんな店で良かったのか?」


 胸を張ったところで唐突に不安になる。こんななんて言ったらお店に失礼だけど、価格帯も安いよくあるファミレスだ。


 俺だって初デートの経験は何回か。

 女子っていうのはこういう所にこだわりがあったりなんだりするものだ。


 絶対に嫌われたくない俺は一応カナに聞いてみる。


 するとカナは怒った顔をして……


「当たり前じゃん。ヨータと来れるならどこでも楽しいし、そもそもうちらはこの店ヘビーユーザーじゃん。いまさらそんな…… でも聞いてくれて、心配してくれてありがと」


「いや、ほんとごめんな」 


 俺はまたカナを見誤ってしまった。

 強い語気で発せられた言葉にドキッとする。


 と同時にそういう所が本当に好きなんだなぁって再び惚れを実感する。


「よかろう。じゃあ島原さんとの待ち時間まで一時間切ったし、選んでくよ!」


「うぃ!」


 一冊のメニューを開き、顔を寄せ合い一緒に見る。

 過去何十回も見たことのあるはずなのに。

 料理を想像してニヤける顔がとても新鮮に、かわいく映った。


「じゃあ私は…… マルゲリータとサラダと……」


 チラッとこちらを見るカナに微笑みで応じる。


「ピリ辛チキンで」


「いっつも頼んでるのに今日だけ遠慮するとかいらないからな。ほらほらドリンクバーもどうぞ」


「……ありがと!」


 俺はパスタを選んだ。


「ほんっとヨータってカルボナーラ好きだねぇ」


「大好き」


「うおっ……  ごめんもう一回言って貰ってもいい?」


「カルボナーラ大好き。愛していると言っても過言じゃない」


「うぉううぉう……」


 何故か胸を抑え、呼吸を荒くするカナを一瞥。置き去りにして、俺は手元のボタンを押す。


「あっ……」


 ボタン押したがりなカナさんは再び胸を抑えるが今度も放置。


「はーい!」


 復帰したカナと俺はやってきた店員さんに注文を伝えていく。


「あとドリンクバー2つで」


「以上でよろしかったでしょうか?」


「「はい」」


 注文を終えた俺たちの目と目が合う。


 ――――これは!


 同時に立ち上がった俺たちは、顔を見合わせて笑った。


「ははっ、やっぱ初手ドリンクバー行くよな?」


「もち!」


 カナがバックを小脇に抱えたのを見図って、俺たちはドリンクバーゾーンに突入した。

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