お家に帰って

「っしゃーーーーー!!! カナちゃん勝ちましたわぁぁ!!!」


 律儀に家まで送ってくれた幼なじみ君を見送り、隣室の者共に怒られないように雄叫びを上げる。


 いや、今日勝利宣言せずに何時するというのだ。


 アイツが昔選んでくれた白いパーカーの紐をびゅんびゅんしながら勝利の余韻に浸る。


「いやぁ、昨日の私ナイスすぎん? お母さんもナイスタイミングでした……」


 胸の前で手を組み合わせ、偉大な聖母に祈りを捧げる。

 今頃聖母の発信によって、地元では山菱さんちのヨータ君と境野さんちのカナちゃんの婚約発表で大盛り上がりのはずだ。


 多少強引だった気はするけど仕方ない。

 きっとこれは25年踏み出せなかった私に、神様がくれた最後のチャンスだろうから。


 ――――――私、境野カナはずっとただ1人に恋している。


 しかし彼が幼なじみ、いや双子の姉弟のように接してくることからずっと思いを告げられずにいた。


 そのせいでアイツには何人か彼女とかもできちゃって。

 しかもヨータの野郎はバカだから、双子である私に自分の女を見せに来やがる。


 何度嫉妬の炎を燃やし、何度別れる度にほっとしていたことか。


 それが、その悪しき循環が今日終わった。


 まだアイツには私への恋心なんて芽生えていないかもしれない。

 でもそれでもいい。

 何かが変われば、きっと全てが変わるから。


「でもなぁ、アイツの返事早かったよなぁ……」


 結婚してください! なんて普段なら笑い飛ばされるようなアレだったのに、今日はやけに素直だった。


「これは微かに脈アリとか思ってもいいんですかね? にょほほっ!! ……って、な訳ないかぁ」


 喜ぶ私を、冷静な私が横から熱を冷ます。


 多分昨日の会話で結婚という存在が身近になっていたからこその危機感、それによる反射だったんんだろう。


 でも、OKは貰えた。

 そして……


「同棲ですよ|世界〈ワールド〉…… 今、私が世界で1番幸せな女ですわぁぁぁ!」


 今後の展開にとても有利な地位を手に入れた。


 地元では同じ町内ではあったものの、創作幼なじみのように家が隣だった訳でもなく。こっちに出てきてからも家と家の距離は1キロを超える。


 それが、それが……


「っし、頑張ろ!」


 まずはアイツに意識してもらうことが大切だ。

 これまでは奥手だった私だけど、地位を手に入れた以上活用せねばならぬ。


 男女がひとつ屋根の下。何も起こらぬハズはなく!!


「ふふっ、カナちゃんドキドキ大作戦の始まりですよ~…… 『あれ? こいつこんな可愛かったっけ?』ってさせてやるわ!」


 これから始まる明るい未来を思い描きニヨニヨしながら、私は週末の不動産調べ会に向けてワクワクスマホをいじり始めた。


「いやー、どうする? 家賃的な話から寝室を一緒にしちゃったりして?? ふふっ、30になった共働き我々の給料ならばまぁまぁ良い家を借りる事も可能……」


 夢が広がる。それから私は40件もの不動産サイトを巡りに巡り、良さげな物件に内覧の予約をした。


 ……今はまだ、最悪な週末になるとは知らずに。

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