第10話

「私は知っていた。人ではないあれの存在を」


 そう言って、蓮宮は話を続けた。


 蓮宮は九条の部屋を見るために、向かいの雑居ビルの屋上へ上がった。双眼鏡で九条の部屋を見ると、そのベランダに銀髪の少女がいた。風になびく髪は、月明かりにキラキラと光って見えた。その顔が急にこちらを向いた。目の色が赤い。一瞬、恐怖を覚え、身を隠した。しかし、最近ではアニメのコスプレなどで、こんな変装はよくある事だと気持ちを落ち着かせ、もう一度、双眼鏡を覗くと、そこには少女は居なかった。ほっとしたその時、後ろから視線を感じ振り返った。

「ひゃっ!」

 蓮宮は驚いて、尻もちをついた。そこには、あの銀髪の少女が立っていたのだ。冷たい無表情で蓮宮を見下ろす少女。


「だめだ!」

 向かいのマンションから男の声が響いた。蓮宮はその声に振り向くと、九条がこちらを向いていた。すぐに少女へ振り返ると、もうそこにはいなかった。



「あれは、私を認知している。でも、それで狙われているとは思わないわ。あれはきっと、九条を探しているのよ」

 蓮宮は語りを終えてそう言った。

「そうかもしれないな」

 五十嵐はそれを受け流し、何やら考えている。

「九条の警備は大丈夫か?」

「ええ。岡崎さんたちがついています。何の連絡もないので大丈夫だと思います」

「今から行くぞ」

 榊原の報告を聞くと、五十嵐は怪訝な表情で言った。


 九条が入院している市立病院では、五人の刑事が見張りをしていたが、全員、首から血を流し倒れていた。

 五十嵐は榊原、須藤、その他三人の刑事とアイコンタクトで状況を確認し、一斉に九条の病室に突入し、銃を構えた。その時、ちょうど、銀髪の少女が九条を肩に担ぎ、窓から飛び降りようとしていた。

「動くな!」

 銀髪の少女は、五十嵐の声に振り返ったが、止まることはなかった。

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