円仁

「いいか唯?平安の頃の大善寺はこの地域の中心地でいろいろな役割りを果たしていた。円仁様はその大善寺で修行し実を結ばれた僧だ。」


「そうなんだ? 具体的には何をした人なの?」


「唯、西遊記って物語りを知ってるか?」


「知ってるわよ! 三蔵法師が経典を求めて天竺へ向けて旅をする話しだよね?」


「そう、円仁様もまた日本の仏教発展の為に遣唐使として中国へ渡り、仏教の経典の抜けていた部分を持ち帰った人なんだ。2度渡航に失敗し3度目でようやく唐にたどり着く事が出来たそうだ。」


「中国に行くのも昔は命がけだったんだね。」


「円仁様は命を賭けて日本の仏教の発展につとめたんだ。そして円仁様の『入唐求法巡礼行記』は『東方見聞録』と並び称される旅行記なんだぞ! 何で歴史の教科書では扱いが小さいのか不思議に思うんだが・・・」

父は首を傾けながら眉を寄せた。


「それで・・・? 」

私は父の話しがあとどの位続くか不安に成ったので話しを遮る様に言った。


「・・・ 何の話しだったかな?」

父はすっかり最初の話しを忘れているみたいだった。


「彼岸花の話しよ。なんで彼岸花がこんな所に咲き誇るのか? という話し。」


父は「あぁそれか思い出した!」という顔をして話しだした。

「平安の頃は大善寺が地域の中心地だった話しはしたよな? 当時は学校として病院として村の議会としての中心地だったんだ。当然、薬草なんかも植えられていた。その薬草としての名残りが彼岸花の群生なんだよ! そしてそれは円仁様みたいな遣唐使が持ち帰ったんだ。」


「えッ、それじゃ円仁って人は僧であり医者でもあるって事?」


「お坊さんが医者を兼ねている事は昔は珍しくは無かったはずだよ。それに薬草の知識もってれば医者じゃなくても役に立つしね。」


円仁って人、凄い。

どれだけの人格者なんだろう?

「そんな立派な人が其処のお寺で学んで延暦寺そして中国へと進んだんだね? ん? ところで、その円仁様と小野小町って恋人同士だったの?」


父は不思議そうな顔で私を見た。

「なんで小野小町と円仁様が恋人同士になるんだ?」


「なんでって・・・ 小野小町の日記に円仁様の名前が書いてあったからだけど・・・」


「ハハハ、そんな凄い事が書いてあったんだ? 」

父は暫くその場で笑い続けた。

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