第二話 私は・・・

私は寺崎唯、地方の商工会議所に勤める平凡な職員だ。

主に会員様の経営相談が仕事の中心なんだけど・・・


なぜか私のトコロに来る方は愚痴を聴いて欲しい方ばかりの様な気がする。

ココ最近の不景気の影響で会員様の中には廃業を考えている方もかなりいる。

そんな相談を受けている時は上司の『引き止めろ』と云う無言の圧力が伝わってくる。


私は「協力してくださいよ! 」と応援を求めるがそんな火中の栗を拾う様な事を上司がするはずも無く仕事の責任を押し付けられる毎日だ。


昼休み時間にオフィスビルの屋上に私は毎日やって来る。

そして下を行き来する人々をボ〜ッと眺めるのが好きだ。

蟻の様な人々がビルの隙間を忙しなく行き交う。


そういえば、蟻は集団で活動していて・・・

集団の数%は働かずにブラブラしている輩がいるそうだ。

まるで人間と一緒だ。


ある研究でこの怠け者蟻ばかりを集めて怠け者蟻集団を作った人が居た。

怠け者の集団なんだから普通だったらグダグダな集団に成りそうだが・・・

怠け者蟻集団は時間と共に普通に役割分担された普通の蟻集団になってしまった。

そしてその蟻集団の中にはちゃんと怠け者蟻が存在したそうだ。 


・・・あ〜  私も怠け者蟻になりたい。

どうすれば成れるのだろう?

そうか、もっと出世すれば怠け者蟻に昇格できるかもしれない・・・?

でももし怠け者蟻に成った私が人間の物好き研究者に捕まって、怠け者集団に入れられてしまったら・・・

きっと私はまた愚痴を聴く係に成ってしまうんだろうな・・・


アリとキリギリスという物語りは有名でよく読まれているけど・・・

キリギリスと怠け者蟻は決して一緒じゃないと思う。

きっと怠け者のフリをしているだけで他の蟻たちの心の支えなんだ。

励ましたり、・・・

あれ?


なんだ蟻も大変なんだな・・・

私はクスッと笑ってしまった。


蟻といえば・・・

私は小学校にあがったばかりの頃、パパと一緒にお風呂に入った時の事を思い出す。

私と一緒に身体をを洗っている時に、パパは茫々に成ってる脛を円を描く様に手の平で擦りだした。

「何やってるの、パパ? 」

って聞いたらパパは

「まぁ見てなさい。」

って擦ったスネを見せてくれた。

そこには黒いダマに成った毛玉が8つ位並んでいた。

「こんな所に蟻が居たぞ!」

確かに蟻が居るみたいだった。

くだらなかったけど、なんだか私は笑ってしまった。



笑ってる私は周りの人に変に思われないかと現実に引き戻された。

そして屋上から見えてる蟻たちがなんだか愛おしく感じられてきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る