星を繋ぐ者〜STAR Connecter〜

冬結 廿

第0章 アークトゥルス

第1話 「いってきます」

…幼馴染。


それは人によっては特別で唯一無二の存在ではないだろうか。男でも、女でも。その関係は近くに住んでいて小さい頃から遊んでいたという奇妙な縁である。でも、いないという人もいるだろう。…理由は様々。遠くに行ってしまうとか、会えなくなったとか。


俺はその場合、遠くに来てしまったというのが当てはまる。


…俺には今、親父しかいない。小学生の頃、離婚したのだ。母親が不倫して。そして、後をつけるように親父の引っ越しを手伝い、お別れをした。


もちろん。幼馴染にも。


もう会うことはないだろうと、思う。あんな母親とも、幼馴染とも。けど今は、幼馴染に会いにいくなんて出来ないだろう。それほど遠いのだ。


「いってきます。」


家の玄関で言う。


「いってらっしゃい。」


と、親父から返ってくる。


いつものやりとりである。親父はなんというか、自由奔放というか、悠々自適というか。何をするにも適当。なのに、しっかりするときはしっかりする。まぁ簡単に言えば器用なのだ。料理だって、ここに引っ越すまで、母親から包丁を持つなと言われたほどなのに、今じゃ俺が食いたいと言った物はなんでも作れるまでになってしまった。まぁ、俺も料理くらいできる。


今だって、新聞を読みながら珈琲でも飲んでいるんだろう。その後はしっかり仕事をするのだが。


と、色々考えていると学校に着いた。家からそこまで遠くはないので歩いて通えるのである。


校門をくぐり、昇降口に入る。

靴箱の“佐野さの 春希はるき”の場所から、内靴を取る。

靴を履き替え、教室へと向かう。

教室は一番奥。なんともそれだけで損をしている気分になる。


まぁ、すみっこというのは悪くないが。


そして、教室に入り、俺の席に座る。教室の席というのは、人によって好きな席は決まるだろう。窓際や、後ろの方。壁側など。


が、俺の席は誰もが嫌だと言う席だろう。それは…。教卓の目の前である。そう。常に目を向けられ、監視をされる席である。


まぁ、教師は前の方はあまり見ていないと聞くが。


そして、もう一人。俺と同じ監視される人がいた。それが隣の…


「よー!佐野君!元気!?」


淀川よどかわ 陽菜ひな”だ。


「君はいつでも元気だねぇ。」

「そうだよー!元気が一番!」

「…うん…そうだねぇ…。」


そして、二つ返事で陽菜との会話を諦めた。この子に着いていく元気はない。彼女は教卓の前でも何も気にしないような気がする。


そして、なんとなく、窓から外を眺める。見える木たちは緑に染まっていた。もう高校に入ってから、二ヶ月が経とうとしていた。


「あ、この前さぁ、って、聞いてるー?」


耳に入る話は、うるさい陽菜の話が大半だが、ほかにも転校生が来ると言う話が周りから聞こえてくる。


「なぁなぁ、今日じゃなかったけ?」

「あぁ、転校生?」

「どんな子なんだろーな?」

「おいおい、男って決まったわけじゃないぜ?」


どんな子なんだろうと後ろの方の人たちが、話しているのが聞こえてくる。


…こんなに器用なのは親父譲りなのかな。


「なぁ、転校生ってどんな奴だと思う?」


そう陽菜に尋ねてみる。


「え?そうだなー…。喋ってて楽しい人なら誰でもいいよ!」


と、俺に向かって‘ぐっ’と親指を立てた手を目の前に出してくる。


「まぁ、そうだろうな…。お前は…。」

「お前とはなんだー!」

「まぁまぁそんな怒んなよ。」

「もー!」


と、ほっぺを膨らます陽菜。


懐かしい。


そんなこんなで。暇潰しの会話をしていると、先生が教室に入ってきた。


「ほら〜みんな座れ〜。…みんなはもう知ってそうだが…。今日この1の4に新しい仲間が増えるぞ!入ってきて〜。」


そうして、転校生が入ってきた。

それを見た途端、俺は目を見開いて驚いた。


だってそこにいたのは…。


かつての幼馴染の“沖田おきた 詩織しおり”だったのだから。

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