真夜中に積み重ねる罪

三枝 優

未成年は入店できません

 夕刻のその店の扉が開いた。


 入って来た客を見て、店中がシン・・・と静まり返った。


 ここは異世界。

 町で人気の居酒屋。

 今日も大勢の常連客でにぎわっていた。


 だが、その客が扉を開けて入ってくると、全員が言葉を失った。



 コツ・・コツ・・コツ・・とその客は歩を進め、空いている席に座る。

 そしてメニューを開き、食い入るように眺め始めた。



 常連客である小道具屋が隣の鍛冶屋に小さな声で囁いた。


「あれ・・・って・・」

「あ・・・あぁ・・・間違いない」


 すると、壁際のカウンター席を占領していた騎士団長のシルビアが、ガタっと大きな音を立てて立ち上がった。

 そして、入って来た客の背後に立つと・・・その客を抱え上げた。


「姫様!!こんなところで何をやっているんですか!!」






 町娘の服装をまねて偽装していたが、全員が王女であるアリシア姫が入ってきたことに気づいていたのだ。

 

「何するの・・・・あ・・あなたはシルビア!?」

「なんで、そんな恰好をしてるのですか?護衛はどうなさいましたか!?」


 王女アリシア姫。

 深窓の令嬢として育てられ、平民にとっては手の届かない存在。

 それが、シルビアに抱えられながらも手足をばたつかせている。


「いいじゃない! シュンの料理が食べたかったんだから!」

「いけません!」

「なんでよ~!あなたこそここで何しているの!?ずるいじゃない!」

「ここは酒場です!未成年である姫様が入ってよい場所ではありません!」

「そんなの、不公平よ!!」


 はしたなくも暴れる少女を抱えて、シルビアは店の出口に向かった。


「シュン~~!!また来るから!料理食べさせて!絶対よ!」


 厨房に向かって叫ぶ少女。

 シルビアは、少女を抱えたまま外に出て行った。



「ふぅ・・」


 厨房では、シュンがため息をついていた。

 今夜のことを思うと・・・それも仕方が無いのかもしれない。

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