第6話 永遠

 救いたいのは自分の心だ。人を想う心だ。でも、遠い過去に戻って人の動きを変えてはならない。何が起こるかわからないのだ。けれど、自分のことを変えるならば……何も知らないままの自分、あの日、ゲームをしようと圭介のスマホを開けない自分。それならば……いや、ダメだ。もう二回使った。三回目に何が起こっても、もう元に戻せない。


「ふっ……」と、自嘲の笑みが出た。


 そっか。だから購入前に戻ることをお勧めしますってことだったんだ。『戻り時計』がここにあると、もう一回と思い、どこかで使ってしまうかもしれない不安が残る。だからこの存在など知らない時に戻ったほうがいいってことだったんだ。


 こんなもの、ないほうがいい。


 完璧な人などいない。人はどこかしら欠点があるものなのだろう。そう自分を納得させてたところに戻ればいいだけだ。圭介はひたすらに自分の愛を紗月に与えてくれる。


 過去日時 2022年 5月10日 10時


 未来日時 2022年 5月10日 10時30分


 これでいい。10日の10時はちょうどパソコンをつけた頃だ。そこで目覚まし時計の検索などしないで、そうして30分後の未来に戻れば、『戻り時計』など知らずに、何もなかった自分に戻れる。ほんの一週間前だ。そこなら美月も大輝もいて、圭介もいる。消えてしまうのは、紗月の、ほんの30分だけだ。


 紗月は時間をセットし、両端のボタンを同時に押した。


 

うぅ……ん、あれ、明るい……朝か。あれ?目覚まし鳴ったっけ?……


「ハッ」


 そうだ。戻り時計……と、手にしたままの戻り時計に目をやると、10時を指していた。そうだ、10時だ……10日の10時。


 紗月はベットに放ってあったスマホを開けると、間違いなく10日だと確認した。そうだ、ここでパソコンで時計の検索などしないでその時間を過ぎ、そして未来時間に戻ればいい。これから30分後だ。


 紗月はそのまま、ベッドに横たわり目を閉じた。



 ぷぅっ、ぷぷぷっ……


 ああ、眠っちゃってたんだ。


 紗月は音の鳴る方へ意識を向け、手にしたままのスマホを開いた。


『紗月さん、今日のプールの送り迎えのことなんだけど、来週と変わってもらえる?』


 美月と一緒にプール教室に通う芽瑠ちゃんママだった。毎回交代で送り迎えをしている。


『了解です。じゃあ今日はお願いします』


 そう返事を送ると、紗月はふと枕元の時計に目を向けた。


 そうだ。これ、音が途切れてるんだった。新しい目覚まし時計を買わなくちゃ……


 今夜の食材は……ああ、なんとかなるな。頭に浮かべた冷蔵庫の中身を確認し、紗月は手にしていたスマホで時計の検索を始めた。わざわざ買いに出ることもないか、いつものようにネットで買うのもありだなと。


 検索を始めて画面をスクロールしながら次々表示される時計を目で追った。そして一つの時計に目が留まった。


 ん?『戻り時計?』


 戻り時計って、なんだろう?珍しいな、月の形をしている。目覚まし機能ありか……うん、いいかも。


 紗月はポチッと購入ボタンを押した。


 

          ~紗月編 了~

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