第39話 久々のエクスカリバー砲。


「何よあんた!! 早くどいて......え、何この固い感触......はっ!?!?」


 耳元で、甲高い悲鳴が上がる。


「ちょ、ちょっとあんた!! 何脱いでんのよ!? 殺す! 殺してやる!!」


「......スライムが、脱がせたんだよ。俺たちを、消化しやすい、ように!」


「はぁ!? 何それ、困るんですけど!?!? どきなさいよ!!」


「お゙ほっ!!」


 プレセアが激しく暴れるたびに、プレセアのおっぱいが俺の胸の中で形を変え、太ももの中に摩擦が生まれエクスカリバーが研ぎ澄まされていく。


 なんだこれ、もはや美人局だろ。いや、この場合、俺から襲ったことになるのか!?


 せめて退こうとしても、痛みと快感で力が抜け、スライムはすっかり俺たちをまとめて消化するつもり満々だ。


「ほら早く! 早くどけ!」


「スライムやらなんやらでどけねぇんだよ!! ちょっと頼むから股開いてくれ!!」


 せめて、この快感さえなくなれば、抵抗できる。

 そういう意味で言ったのだが、よく考えなくても、まずい発言だった。


「あ、あんた、こんな状況で股開けって......完全に挿入するつもりじゃない!! このレイプ魔!!」


「お゙あ゙っ!?!」


 プレセアは叫ぶと、逆に太ももを強く締め付けてきた。っ、こいつ......。


「や、やめろ!! 締め付けるな!! 」


「やだ!! あんたみたいなのに初めて奪われるくらいだったらこのまま死んでやる!!!」


「......はぁ!? 初めて!?」


 初めてって、処女ってことか!? こんな絶体絶命の状況で嘘つく余裕もないだろうし、それじゃあこいつ、美人局とかしてなかったってことか!?


「そ、それじゃあお前、今まで男を堕としたこととか、ないわけか!?」


 思わず聞いてしまうと、これが煽りに聞こえてしまったようだ。


「はぁ!? あるに決まってんでしょ!! ちょっとおっぱい押し付けただけでみんな惚れてくから結果エッチしてないだけ! 舐めんな!」


「......なるほど」


 ひとまず安心......なのか? 


「本番はもちろん、ローションプレイだってしたことないんだから!! もうっ、なんでこんなことになるのよぉ!」


「え、ローションプレイ?」


「こうやってぬるぬるになって身体をこすりあうプレイよ! ぬるぬるでエッチなとここすったりしたら気持ちいいでしょ! って何言わせてんの変態!!」


「......そうだった、のか」


 てっきり俺だけの発明だと思っていたのに......今はそんなこと言ってる場合じゃない。このままじゃイきながら逝く、最悪の死に様を遂げてしまうんだ......。


 その時、思い浮かんだのは、幼いマリーの天真爛漫な笑顔だった。


 二度と見たくないとその笑顔を捲ると、パラパラと移り変わり出した走馬灯には、どこにも笑顔のマリーがいた。


「......ふざけんな」


 そんなの、許せない。俺は死ぬとき、絶望し泣き叫ぶマリーを思い浮かべながら死ぬんだ。


「ふざけてんのはあんたよ! さっさとどきなさいよ!」


「あいつにざまぁするまで、死んでたまるかよ!!」


 怒り任せに勢いよく身体を捻ると、スライムの触手がプツンと切れて、俺はなんとかプレセアの上から抜け出した。

 

 そして、ぬるぬるに何度も足を取られ、生まれたての子鹿のようになりながら立ち上がった頃には、プレセアからぴょんと飛び降りたスライムが、先ほどのように身体をグググと縮めていた。


 ......こいつ、また、俺の股間に体当たりするつもりか?


「やめろ! 今はまずいんだ! お前にとってもだぞ!」


 俺は懇願したが、スライムが耳を貸すわけない。

 逃げ出そうとしたときには、他のスライム二匹が俺の足にまとわり付いていた。


「やめろ、やめてくれぇ!!!!!」


 スライムは、勢いよく俺の股間へと突っ込んできた。


「......ゔっ」


 ドクンドクンと身体が打ち震え、頭からてっぺんまで強烈な快感が俺を襲った。

 立っていられず、うつ伏せに倒れた後も、びくんびくんと、陸に打ち上げられた魚のように身体がはねる。


 はっきり言って、初発射の時よりも、よほど気持ちが良かった。


「......嘘、でしょ?」

 

 プレセアの声に恐る恐る顔を上げると、先ほどまで緑色だったスライムが、濁った白になっていた。


 ここ数ヶ月溜まりに溜まっていたからか、ものの見事に染まりきっていて、ブヨブヨの形も相まって、もう完全にエクスカリバー砲そのものだった。


 その白いスライムはと言うと、自分の身体を隅々まで確認するように満遍なく動かすと、ふるふると小刻みに震え始めた。


 スライムに感情なんてものがあるのかしらないが、泣いているようにも見える。


 残り二匹の緑スライムはというと、しばらくの間呆然とした様子で固まってかから、ゆっくりと白スライムに近くと、触手を伸ばして、白スライムの肩? を抱いた。


 そして、目はないものの、確実にこちらをじっと睨みつけてくる。悪いことをした覚えなんて一つもないが、思わず謝りたくなってしまった。


 そして、白スライムは泣きながら? 残り二匹のスライムに支えられたまま、草むらへと消えて行った。


 その後ろ姿を見送ってから、ちらりと、プレセアの方を伺う。


「......うわぁ」


 プレセアは、自分で自分を抱きしめ、完全にドン引きした様子で俺を見ていた。

 俺はサッと視線を逸らし、全身にまとわりつくベタベタを手で振り払う。


 そして、ぬるぬるのパンツを振りに振ってから、履いた。にゅるりとした感触が、なんとも虚しかった。


 魔物でエクスカリバー砲を発射する。一生いじめられても仕方ないくらいの、とんでもない恥だ。


「......そ、そのぉ、ありがとお、ね?」


 非常に気まずい沈黙の後、プレセアが、ポツリとこう言った。


 どこか気を使ったようなその声色に、こんな女に気を使われるほど俺は情けない存在なのかと、さらに死にたくなった。


「......何が」


「だ、だって、その、結果、スライムを追い払ってくれたから! そ、その、かっこ、よく......かっこよくはなかったけど、まぁ、うん、助かったのは助かったし!」


 流石に嘘をつくのも馬鹿らしくなったようだ。まぁ、スライムに発射させられた男をかっこいいと思える女は、世界広しといえど一人もいないだろう。


「だから、その、えっと......」


 エメラルドの瞳を右往左往させてから、何か諦めたようにふっと笑った。

 そして、おざなりな上目遣いを俺に向けた。


「好きに、なっちゃったにゃぁ......」


 本人も無茶だとわかっているんだろう。ため息混じりの告白だった。


「......俺も、ちょうどそう思ってたところだよ」


 俺はズボンのヌルヌルを振り払うのを諦めて、ぬるぬる履きながら答えた。


 たとえ嘘でも、もう二度と人に好きと言えるとは思ってもいなかったのだが、案外さらりと言えた。ここまで情けない状況下におかれたら、もうなんでも良くなってしまうのかもしれない。

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