第37話 スライムに襲われるグラビアアイドル。


 三匹のスライムは、俺の戦意に興奮したようにぴょんぴょんと跳ねる。


 武春のモンスター図鑑では、スライムは中身の核の部分を切ってしまえば、すぐに倒せる魔物らしい。


 討伐難易度は、F。俺みたいなF級冒険者でも狩ることができるとされている魔物だ。


「......ぐぅ」


 『ざまぁ(笑)』でステータスが上がったとはいえ、成人男性としてはまだまだ非力な俺は、親父の大振りの剣を必死こいて振り上げる。


 俺が長年の剣術訓練にて会得した、たったひとつの戦い方。

 俺のような非力な男が自分の力のみで剣を振り回すことはできない。なので、剣の重さを利用しなくてはいけない、というなっさけないものだ。


 俺は剣の重心を意識し、スライムめがけて振り下ろす、のではなく、スライムに落とすと言う感覚で、肩を使いながら剣を傾けた。


 結果、剣は、地面に深々と突き刺さった。スライムはというと、ぴょんと後ろに飛んで、俺の剣戟を軽々と避けたのだった。


「っ、くそっ」


 剣を引き抜こうとしたが、なかなか抜けない。

 隙だらけの格好を晒しているうちに、左のスライムはグググと身体を凹ませた。


 丸っこい状態のスライムの攻撃手段は、そう多くはない。大方、俺に突撃を食らわせるつもりだろう。


 プレセアのおっぱいと同じくらい柔らかそうなその身体で、果たしてどの程度のダメージが食らわせられるだろうか。


「グフッ!?!?!?」


 衝撃。息が勝手に吐き出され、吸うことができない。体に力が一切入らなくなり、俺は膝をついた。


 横腹に、突撃を食らったんだ。柔らかいなんてとんでもない。ドワーフの雄っぱいほどの硬さ、と言っても過言じゃなかった。


 すると、次は反対から衝撃に、耳鳴りがして、尻餅をつく。右からのスライムが、俺の顔を強打したんだ。血の味が口に広がる。


 ま、まずい、このままじゃ袋叩きにされる!


 グラグラと逃げ出そうとしたが、脚が重い。見ると、二匹のスライムが、俺の脚にまとわりついていた。ぐいっと脚が開かれ、俺はかなり無防備な体制にさせられてしまった。


 正面のスライムが、ギュルギュルと音を立てて縮む。嫌な予感にダラダラ脂汗が垂れた。


「や、やめ」


 懇願も虚しく、スライムの突撃は、俺の股間に直撃した。


「グフッッッッッ!?!?!?!?!?」


 指の先から心臓まで、激痛が走る。

 玉が奥の方に行ってしまった感覚に、何とかおしもどそうと暴れているうちに、スライムの拘束を抜け出し、ゴロゴロのたうちまわる。


 呼吸が、できない。しまいには、視界が真っ暗になるくらいの激痛だった。


「......だっさ」


 すると、真上からプレセアの声が聞こえてくる。暗がりの先にぼんやりと浮かび上がって来たのは、フリルがあしらわれた純白のパンティだった。


 どうやら視界が暗くなったのは、のたうちまわっているうちにプレセアのスカートの中に顔を突っ込んでしまったからみたいだ。


 尻尾って腰の付け根から生えてるんだ、なんていう無駄な知識まで手に入れてしまった。


「......俺は、別に冒険者とかなるつもりはないんだ。あんたが戦ってくれよ」


 スカートから転がり出て、うずくまりしばらくの間声にならない悲鳴をあげてから、立ち上がった俺はそう言った。

 あまりに無様な姿を晒してしまったせいで、どうも言い方がつっけんどんとしてしまう。


「えぇ......わかったぁ、私がやってみるねぇ」


 プレセアは、一瞬ドン引きこそしたが、なんとか顔に笑みを貼り付けて前に出た。


 そして、鋭い爪をぎらりと輝かる。スライムたちが、びくりと身体を震わせた。


 プレセアはそんなスライムたちをニヤリと見下し、両手を大きく振り上げた。


「ウワアアアオオオオ!!!!」


 そして、雄叫びとともに、両腕をブンブンと振り回し始めたのだった。

 

 いわゆる、グルグルパンチのひっかき版。一切技術力を感じさせない、クッソダサい攻撃だった。


 もちろん、俺の膝くらいまでの体長のスライム相手には、全て空振りだ。スライムも、心なしか引いているようにも見えた。


「......だっさ」


 思わず呟いてしまった言葉に、ぴくりと頭の上の猫耳が動く。プレセアは白い肌を真っ赤にして、こちらを振り返った。


「し、仕方ないじゃん! 私、戦ったこととかないんだし!」


「......はぁ!? D級冒険者だろ!?」


「D級だけど、そういうのは他の人に任せてたの! 当然でしょ、こんなに可愛いんだから!」


「......あっ!」


 そうか、その手があったか......! 

 

 『姫冒険者』。武春でも、一時期話題になっていたように思う。女であることを生かし、強い男冒険者に取り入る冒険者のことを指す。


 姫冒険者は、クエストに同行するはするが、魔物の相手は全て男たちに任せるる。そして、報酬やクエストポイントだけ、ちゃっかりいただくのだ。

 クエストポイントなんかは、クエストを受けたものに自動的に等分されるので、全然活躍していなくてもランクをあげることができる。

 結果、実力は大したことないのに、ランクの高い冒険者が爆誕、というわけだ。


 冷静に考えれば、いかにも姫っぽい格好をしたこいつが姫冒険者なのは、想像に容易いはずだ。こいつが、歴史上奴隷として前線で戦わされることの多かった獣人だから思い当たらなかったのかもしれない。


 ......まあまあピンチじゃないか、これ?


 魔物がうじゃうじゃいる森の中に、まともな戦闘経験のない二人。

 武春に載っていた、馬鹿な冒険者の全滅パターンそのものだ。


「きゃぁっ!」


 その時、スライムがグニョグニョと変え、その丸っこい胴体から一本の触手を伸ばし始めた。可愛らしいフォルムから一転、鳥肌が立つような、プレセアが悲鳴をあげる。


 計三本の触手は、ニョキニョキとプレセアのところに伸びていく。プレセアはブンブン腕を振り回すが、やはりそれも、ものの見事に外れる。


「あっ!?」


 結果、二本の触手は、プレセアの太ももにくるくると絡みつき、もう一本はプレセアのか細いクエストに巻きつくと、そこを拠点におっぱいの間に侵略を開始する。

 

「うわ、ベタだな」


 思わずそういってしまうくらいベタだった。もしやこれも美人局の一環なのかもしれないと疑ったが、プレセアの「えっ、ちょっ、まっ、気持ち悪いっ」と、ガチで焦った様子を見ていると、どうやらマジらしい。


「離せっ、離せよっ!」

 

 プレセアはジタバタ暴れるが、むしろ触手は複雑にプレセアに絡まっていく。

 どうやら筋金入りの不器用女みたいだ。姫とかじゃなく、単純に邪魔だから戦闘に参加させてもらえなかったんじゃないか。


 スライムはというと、触手を器用に使って、胸元のリボンを解く。そして、露わになった胸の谷間に、つるんと入っていった。


「あっ、こらっ、ダメっ、やめてっ」


 途端、プレセアの声に色気が灯る。先ほどまでの演技くさいものとは違う、色気のある声だった。


 やばい、こんなものを見てしまったら、またトラウマが刺激されて......あ、あれ?


 違和感に、下を見る。確かに、エクスカリバーがいきり勃っていた。 

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