添え木

 薙は結局、終点に着く前に添え木を用意してくれた。手すりを刀で無理に抉り取った即席のものだったが。背中をもたれさせて一息をつく、窓にこびりついた肉や血が気になったが、文句は言えない。


 「筋繊維が悲鳴をあげている…」

 「調子でてきたじゃないか、冗談を言えるなんて」


 薙が引き攣った表情で言う。先ほどと同じ、2人分の距離感で。


 「その添え木、固定されてないの気づいてないのか?」

 「なるほど」

 「馬鹿だろ、お前」

 「気分だけで生きてるからな」

 「呑気で馬鹿、救い用がない」


 良い会話だ。距離が近づいて来ているのを感じる。出口の上部についているモニターを見ると、終点まで残り一駅だった。


 「もう列車には追ってこないだろうな。終点に着いたらどうするんだ?」

 「私の家まで着いて来てもらう。そこで終わり」

 「家? 追われてるんじゃないのか?」

 「最期くらい家でゆっくりしながら迎えたい」

 「逃げ切るんじゃないのか? そもそもお前は何で『間もなく終点、神崎です。お出口は右側です。….』


 アナウンスで声が遮られる。旧式の列車の癖に、一丁前に機械音声だ。


 「終点だ。神崎に着いたら5、6キロ歩く。足手纏いにはなるなよ」

 「今の状態で死体になってないだけマシだろう」

 「…本当、良く冗談が言えるな」


 列車が停止し、揺れた。内部機械が壊れてるのか、軋む音を立てながらドアが開く。現在時刻は6時半頃だろう、田舎ではないとはいえ、駅は閑散としていた。


 「お嬢さん、お坊ちゃん、人生の終点へようこそ」


 薄く無機質なコンクリートで囲まれたホームに出ると、ラジオの様に掠れた声が反響して聞こえて来た。

 

 「残念ながら、諸行無常、盛者必衰、世の常也。まぐれは続かぬ、単艦で攻め込む? そう簡単にはいかぬ。戦場は今も現在に偏在、ここ正にnow、知ってるかknew!?」


 コンクリートの壁が爆発音と共に崩れ落ち、暗闇の中から1つの影が這い出す。


 「薙さん、鹿谷さん、初めまして。坂槙a.k.a緑旗です。twtterのアカウントもこの名前で作ってるので、フォローよろしくお願いします」


 エメラルドグリーンのキャップを被った、緑髪の少女がそこに居た。

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