第17話 故人の偲び方

 人生百年時代になり身内の不幸と縁遠かったが、先日、叔母が急逝し数十年ぶりに葬儀に出た。

 親戚と葬儀の前の準備をしている時、死化粧された叔母の顔を見た父が、昨日より顔色が悪く見えると涙を流すので、悲しみながらも「…亡くなってるんだから顔色は良くないでしょ」とツッコまざるを得なかった。

 お洒落な叔母だったので、棺にお気に入りの服を一枚入れることにした。従妹が、叔母の部屋から華やかな紫のブラウスを選んで来た。

「着替えやすいから、半袖の花柄のワンピースと迷ったんだけど」

 すかさず葬儀場の方が「死後硬直されているので、お着替えは…」と申し訳なさそうに言った。

「そっか。半袖じゃ寒いしね」

「…言い方あれだけど、逆に熱過ぎるんじゃない?」

 叔母に聞こえていませんようにと祈りつつ、手紙や家族の写真など供えていた時、思い出したように別の従姉が言った。

「やっぱり杖も入れてあげた方が良かったかな」

「杖なんかいらないでしょ。もう羽が生えて今頃好きな所を飛び回ってるわよ」

 従姉達の会話に、不謹慎ながら笑いをこらえらることはできなかった。

 20年ほど前に叔母が亡くなった時、手紙を書くのが好きだったからと便箋や封筒、鉛筆などを棺に入れた。ふたを閉める直前に、息子である従兄が言った。

「切手も入れた方がいいかな」

「いらないわよ」間髪入れずに入ったツッコミは今も忘れられない。

 悲しい場面でのボケとツッコミは、故人を偲ぶゆえの優しさの証だ。

 


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