第12話 クリスマスの攻防

 子供の頃、飾りつけや食卓も華やいで、プレゼントまで届くクリスマスは一番の楽しみだったのだが、親になった途端、クリスマスを楽しめなくなった。

 まず、サンタクロースという存在が親を苦しめる。聖なるおじいさんの代わりを務めるが故、サンタ宛に書かれた手紙は無下にはできない上、子どものプレゼントの要求は容赦ない。流行りの物を書かれては、おもちゃ確保にに奔走しなければならなくなる。大人気のたまごっちを頼まれた時、どうしても手に入らず、やむなくたまごっちのボードゲームにした。プレゼントを開けた子どもがあんなに露骨にがっかりしたのは、後にも先にもあの時だけだ。サンタの面子を潰さないためにもサンタ宛の手紙は、操作と添削が必要だ。

 長女が2歳の時、サンタ役の義弟がプレゼントを持ってきた。無言で抱き上げられた長女は怖がって大泣きし、それ以来、サンタは家には入らずベランダにプレゼントを落としていくという設定にしてしまった。おかげで毎年、子どもたちが寝静まった夜中に凍えるベランダに出てプレゼントを置くはめになった。キックボードを頼まれた時には、音を立てずに運ぶのも置くのも一苦労だった。

 あの時、サンタは二度と来ないことにすれば良かった。クリスマスを楽しんでほしいなんて親心で、自らの首を絞めた。社会人になってもなお「今年もベランダにサンタさん来るかな」とラインをしてきた長女。それはもはや不審者でしかないから、と返信した。

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