復讐者

sho-ta

第一章 復讐代行

第1話 ターゲット『真中稔』

「……うっ」


 今は使われていないビルの一室、そこには男が椅子に括り付けられた状態で目を覚ました。頭に鈍い痛みを感じながらも、男は周りを見渡し自分が置かれている状況を理解しようとした。


 部屋には物が一切置かれてはおらず、明かりは電球一つだけなので薄暗い。周りは静寂に包まれていて、聞こえるのは男の息遣いのみ。男は考えを巡らせた。今までの自分の行動を思い出しながら……。


* * * *


――真中稔まなかみのるは夜の道を一人で歩いていた。今は二十三時四十分。大学のサークルで飲み会が開かれることになり、今まで参加していた。


 真中の頬を生ぬるい風が掠める。少しばかり酔っているのか、足が覚束おぼつかない。家路を急ぐ彼の背後に黒い影が……。


 次の瞬間後頭部を抑えながら、真中はコンクリートの上にうつ伏せに倒れ込んだ。真中の気絶している顔を眺めている一人の男が……。


 その男の顔には、ドクロの仮面が着けられていた。


              * * * *


――真中は思い出した。だが、それでも自分が何故このような状況に陥っているのかまでは分からないでいる。すると、真中の息遣い以外に音が聞こえてきた。……人の足音だ。


 その足音ははだんだんと近づいてくる。不意に扉の前で止まり、ゆっくりと扉が開かれる。そこに立っていたのはドクロの仮面を着けた男だった。


「気分はどうかな?」


「お前は誰だ!……何の為に俺をこんな場所に連れてきた。答えろ!」


 真中は正面に立つ男に対して捲くし立てた。男は「やれやれ」と言いながら首を横に振ると、名乗り始めた。


「私は死神だ。真中稔君、君は今日この場所で死ぬことになる」


 口を開けた状態で、動かない真中。更に死神は言葉を続ける。


「状況が分からないって顔をしているな。なら、教えてあげるよ」


 そう言うと死神は懐から写真を取り出し、真中の足の上に置いた。その写真を見た真中は、目を見開き死神の顔を見上げた。


「な、何だよ……この写真。こんなの何処で手に入れた!」


 彼が見た写真には複数の人間が映っていた。その中の一人には、真中の姿もある。


「その写真は、君達が一人の生徒をいじめている場面を映したものだ。いじめを受けた子がサイトの掲示板に書き込んでくれてね。だから、君のことを少しばかり調べさせてもらったよ」


 死神は携帯を取り出し、調べたことの全てを真中に話し始めた。


「まず、君は学校では優等生のようだね。成績が良く、先生の評判も悪くない。両親にも期待されている。そのストレスなのかな……。自分では一切手を出さずに、君の仲間が集団で一人の生徒をいじめる。良く考えたものだよ……いじめがばれたとしても君は手を出していないから、おおとがめを食らう心配はないのだから」


 話しを黙って聞いていた真中は、痺れを切らし怒鳴り散らした。


「赤城の野郎!覚えておけよ!必ず今まで以上の苦痛を味わせてやる」


「反省することはないんだな……」


 死神はそう言うと男の背後へと移動する。それでも真中の怒りは収まらず、更に声を張り上げている。


「おい、この拘束解けよ!あいつには必ず報復してやるんだ。だからすぐに開放しろ!」


 死神は真中の背後に立つと、指を握り「うるさいな」と呟くと勢い良く反対方向へと曲げる。静寂な室内に指の折れた鈍い音と真中の叫び声が響き渡った。


「君は生きては帰れないよ……さっきも言ったじゃないか。人の話しはちゃんと聞かないとね」


 そう言う死神は、次々と指を折っていく。その度に鈍い音と男の叫び声が室内に反響する。真中の片手の指は全て折られており、赤紫色に腫れあがっていた。


 真中の額には大量の冷や汗が浮かび上がっている。


「もう……やめてくれ、頼むから」


 あまりの痛みに顔を歪めながら、真中はそれだけ言った。最初の威勢は全く感じられないほどに、真中は弱り切っていた。


「これでいじめられる人の気持ちが少しは理解したかな?」


 死神の問いに真中は、ゆっくりと頷く。


 「そうか……」と言うと、真中の口に手を突っ込み舌を引っ張り出した。真中が死神の方に視線を向けると、手にハサミが握られていた。その光景を見た真中は目を見開き必死に抵抗するが、椅子に拘束されているのでうまく動けない。


 「君はいじめを行った時点で死ぬ運命にあるんだよ」


 死神はそれだけ言うと、真中の舌をハサミで切り落とした。口からは大量の血が流れ落ち、真中は絶命した。

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