第35話 レクの提案 その1

「なぁ……お前ん家、そんなにひっぱくしてんのか?」


 途中まで高江洲と共に家路いえじにつくこととなった俺。

 先ほど耳にした気になりすぎる事案……いささか聞きづらい事ではあるのだが、このまま帰ったんじゃあ、気になって夜しか寝れそうにない。俺は単刀直入に疑問をぶつけてみたのであった。


「ん? いやまぁ、そういう訳じゃないんだがな」


「だったら、なんでバイトなんか……」


 高母たかははによると、高江洲は平日の夜、港で荷下におろしのバイトをしているらしい。時給は良いようだが、けっこう体力が必要とのこと。翌日も学校だというのに、本当に大丈夫なのだろうか。


「ひっ迫してないのなら深夜の活動はつつしめよ。遠足……じゃなかった、フィールドワークも控えてるし、補導でもされたらシャレにならんぞ」


「あいたたた、三科みしなちゃんみたいなこと言うのな」


「レクの準備もそうだが、みんなの楽しみを中止にしたくないんだ」


「お・お・お! もしかして今のデレってやつ? あのアンドレさんが?」


「馬鹿を言うな! 鬱陶うっとうしい奴だな!」


「ははは」


 ったく、学生の身分でバイトだなんて不真面目もはなはだしい。本来なら有無を言わさず糾弾きゅうだんしたいところだが……きっと、こいつに限ってはそんないい加減な気持ちではないのだろう。なんとなくわかってはいるのだが。


「心配しなくても2~3時間で終わるよ。そしたらまっすぐ帰る。それで勘弁してくれないか?」


「バイトの件は聞かなかったことにする。ただ、不謹慎ふきんしんな真似だけはするな」


「はいはい、了解」


「『はい』は一回だ」


「は~い」


 こうして途中で別れ、高江洲はバイトへ、俺は自宅へと帰るのであった。


♢♢♢


 翌日。週末に遠足……じゃなかった、フィールドワークを控えているせいか、学校生活もどことなくせわしい気がする。ちなみに生徒数の少ない高校のため、1~3年の合同である。目的地も一緒だ。

 放課後、その件で生徒会長の舘林たてばやしさんが打ち合わせがあるとのこと。なぜか会計の俺まで参加することになり、一緒に職員室へ連れていかれる始末。


「じゃあ、これで準備を進めていきます」


 1時間ほどかけて大まかのことが決まり、舘林さんが切り上げの言葉を発する。予算的にも特に問題はなさそうだし、これでようやく解散か。やっと帰れる……とはいっても、これから高江洲の家でレクのギター練習があるのだが。


「ところで、安藤君」


「はい?」


 職員室を退室後、ふと舘林さんに呼び止められる。


「現地でのレクリエーションはどうなっているのかしら?」


「は?」


「あなたレク係なんでしょ?」


「いやいやいや! 俺の担当はバスでのことであって……なぜ現地のことまで考えなきゃならんのですか!?」


「そう目くじらを立てないの。無茶ぶりをするつもりなんてないわ」


 舘林さんは不敵な笑みを浮かべつつ、こちらを見やる。


「私に一つ提案があるの。これから少しいいかしら?」


 その笑みに、なんとなく嫌な予感のする俺であった。

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