第21話 生徒会長

 あるお昼休憩時間のこと。

 校内放送にて、生徒会室からお呼び出しがあった。


(きてしまったか……)


 どこの学校に行っても、にじみ出る優秀さとは隠しきれないものだ。さっさと昼食を済ませ、調理実習室を後にする。小枝から事前に聞いた生徒会室の順路にて、俺の考えることは一つ。


「さて、いかにして断るか」


 生徒会直々じきじきの呼び出し……おそらく役員への勧誘と見て間違いないだろう。苦い思い出を引きずっているのもあるが、なんせ今は勉強以外のことに時間をかれたくない。


「しかし待てよ、もし生徒会長への推薦だったら……」


 生徒会室のドアをノックする前にある考えが脳裏に浮かんだ。生徒会長を務めた実績があれば内申に大きくプラスになる。こんなド田舎の高校だし、少しでも点数を稼いでいた方がいいのでは……。


(はっ! 俺は何を考えている!)


 安藤作仁、貴様はいつからそんな逃げ道を作るようになった。小細工などをろうせず、正面から堂々と勝ち上がるのが俺の信念だ。一流大学は学力で勝ち取る。うむ、なんら問題などない。

 俺は決意を新たに、生徒会室のドアをノックした。


♢♢♢


「あなたが安藤君ね」


 生徒会室に入るなり、ある人物がすぐさま来客用テーブルへと案内する。


「紅茶は何がお好み?」


「アールグレイがあれば、それを」


「承知したわ」


 その人物は華麗な手つきで動作をこなし、紅茶をティーカップへとそそぐ。サラサラのロングヘアーで整いすぎなくらい整った顔立ち、いかにもお嬢様という感じだ。ビシッと着こなした制服もなかなかのもの。言っちゃ悪いが、この学校にこんなまともそうな人物がいるとは少し驚きである。


館林たてばやし千早ちはや、この学校の生徒会長を務めているわ」


 アールグレイを差し出しながらその人は答えた。


「よろしくお願いします。早速ですが、ご用件を伺いましょう」


 心遣いを無下にせぬよう、アールグレイを一口飲む。


「御覧の通り、この生徒会には役員が私しかいないわ。そこで、新たな役員としてお迎えしたい人物がいるのよ」


 やはりきたか。「申し訳ないですが、今は勉強に集中したいんです」と俺は準備していた言葉を発しようとする。


「あなたのクラスの南田君、どうにか彼に副会長になってくれるよう説得をお願いできないかしら?」


「申し訳ないのですが……え、南田?」


 聞き違いだろうか? 今、南田と聞こえた気がしたのだが。


「南田を副会長にしたいんですか?」


「ええ、何か問題でも?」


「いや、そこでなぜ俺が出てくるのかと」


「彼って結構ガードが堅くてね、何度勧誘しても一筋縄じゃいかないの」


「で、俺から頼み込めと?」


「ええ♪ あのクラスだとあなたは比較的まともそうだし、それで交渉役を、ね♪」


「失礼します」


 そーいや、昼食の片付け当番が残ってたなぁ。俺は現実逃避気味に退室を試みた。

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