奇怪怪談

水定ゆう

第1話 死光虫

 5時前のチャイムが鳴る頃。

 今日も一人、百木ねこは赤い本を片手に、広場のベンチに座っていた。


「あっ、猫のお兄ちゃん!」


 そこにやって来たのは小さな女の子。


「やぁ、今日も来たんだね」

「うん。ねぇねぇ、またお話聞かせてよ!」

「君は本当に奇怪な話が好きなんだね。じゃあ今日は、こんな話はどうかな?これは、ボクの友達?から聞いた話なんだけどね・・・」



 これはとある山奥に調査に来ていた吸血鬼さんの話。まあ彼女は吸血鬼だから今回は彼女が被害者じゃないんだ。

 だから今回は別の話。

 まあ彼女は、好き好んで戦いはしないからね。今回のことは仕方ないよ。


「はぁ、龍宮さん。また私に仕事押し付けて」


 まあそのおかげで、草団子が買えたんですけどね。山菜も安く大量に手に入った。これは銀が喜びそうだ。


 そんな中、彼女は一人山の奥を目指して歩いていました。


「多分この先……」


 深い深い山奥。

 そこには人が立ち入りそうな雰囲気は何処にもありません。それどころか、好んで近づきたい気にはならないような場所でした。


「おっ、見えて来た」


 彼女が山奥に入ると、そこには大きな池がありました。しかし、その色味はかなり薄汚れていて、泥のようです。


「汚い。でも、この匂い。……酷いな」


 顔を顰める少女。

 何故ならこの池の匂いは常人なら、倒れてしまいそうなほど臭くて吐き気を催しそうでした。


「見た限り……死光虫はいないけど」


 彼女は辺りを確認します。

 葉っぱの裏側、水草なんかを見て回ります。


「如何やらいないみたいだけど、死光虫なんて、普通に考えたらいないよね」


 死光虫。

 それは夜に爛々と輝く蛍のような姿だけど、実際のところは何なのかわからない謎の発光物体らしい。

 私自身見たことはないけれど、汚れが酷い汚い水辺に棲んでいるそうだが、如何やらいないみたいだ。


「いると思ったけど、いないんならいいかな。とりあえず薬だけ散布しといてと」


 彼女は持ってきたスプレー缶から、特別な薬を撒きました。

 これを巻くことで死光虫が現れなくなるそうです。


「さてと、帰ろっかな。ん?」


 すると彼女はふと気づいてしまいました。

 来る時は気づきませんでしたが、木の根元にアンカーがされていて、切れた黄色と黒の混ざった紐が落ちていました。


「何この切れ口?ナイフとかじゃないみたいだけど」


 まるで何か強い力で千切れたしまったみたいだった。

 しかしここに来るまで動物の足音も、からすの鳴き声すら聞いていないので、気にしないことにした。


 それで彼女は山を降りることにする。

 彼女が池から離れると、ふと変な音を耳にした。


 プシュー


「えっ?」


 空気が抜けるような音。だけど何かが圧力から解放されたような音だった。

 しかし彼女は一瞬チラリと振り返るだけで、特に戻る気はなかった。

 彼女は気づいていたのだ。

 だから池からすぐに離れた。

 それはなんでかって?そんなの決まっているじゃないか。


「死光虫は、死体に群がるんだからね」

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