第22話 想定外

「どわぁぁぁぁぁ」


 俺、ソフィア、ヒーデリックの3人は叫びながら奈落へと落ちていっている。


 このままじゃまずいな。もしもこのまま落ちていって地面に衝突したら全員お陀仏だ。


「どうにかできるやついるか!?」


「僕の剣技じゃどうにならない! ソフィアさんは!?」


 ヒーデリックじゃどうにも出来ないか。


「私の召喚魔法でなら!」


 ソフィアの召喚魔法か。確かにあの天使なら翼が生えていたはずだ。


「じゃあ頼む!」


「はい! 顕現せよ! ルシフェル!」


 あの天使がルシフェル!? 

 ルシフェルは隠し召喚獣の一体だ。この召喚獣入手するのに相当な手間がかかる、しかも手に入れたとしても労力と時間が釣り合わない事で有名だ。


 俺はそれが嫌でルシフェルには手を出していなかった。


 だから最初見た事もない召喚獣だと思ったのか。


 ……しかし何故ルシフェルを? まあいいか今は助かることが先決だ。


 光が上から現れ白い羽がヒラヒラと舞う。上を見ると俺を殴った天使。もといルシフェルがいた。


 ルシフェルは俺達3人を抱えてゆっくりと降下していった。


「助かったよ、ありがとうソフィアさん」


 地面に降りてすぐにヒーデリックがソフィアにお礼を言った。


 俺の時は少し躊躇ったのにソフィアの時だけすぐに言うのかよ。


「俺も助かった。ありがとな」


「いえいえ、気にしないでください。私達はパーティーですから」


「しかしここはどこだ? 何も見えないぞ?」


 ヒーデリックの言うようにここは暗い辺りを見渡すが、何も見えない。


「そうですね……」


「とりあえず、火の魔法で辺りを照らすか。ファイア」


 手のひらほどの炎を出現させる。


 すると俺の目の前にピエロの顔があった。鼻はでかく目には星と雫のような模様が入っていて、顔は白塗りだ。


「うわぁぁぁ!?!?」


 思わずびっくりしてのけぞってしまう。


「きゃぁぁぁ!?!?」


「どわぁぁぁ!?!?」


 俺の後に続いてソフィアとヒーデリックは腰を抜かしてしまった。


「ドッキリ大成功でございますね⭐︎」


 俺たちの様子を見て満足気にピエロは頷いている。


「な、なんでここにピエロが!?」


 ヒーデリックは指を差しながら震えている。


「ムハッ⭐︎何故と言われましてもそこにダンジョンがあったのでとしか言えませぬな⭐︎」


 ピエロは笑顔で謎のポーズをとっている。お前は登山家か。

 それよりもちょっと待て、なんでこいつがこんな所に……


「それよりも辺りを照らすならワタクシが照らしましょう⭐︎レディースアーンドジェントルメーン! この度は私四天王が1人、クラウンの元へよくぞ来てくれました!」


 そう言うと後ろでカラフルな花火のようなものが炸裂し、照明が辺りを照らした。


「し、四天王だって!?」


 ヒーデリックとソフィアら驚いている。それもそのはずだ。何故なら魔王と四天王は100年前の勇者との戦いで封印されているからだ。


 一応幻想学園のストーリーはある原因で魔王が復活してそれを倒す物語になっている。

 だからこそ俺も驚いている。その原因が起こっていないのに四天王の内の1人が復活しているからだ。


「な、何故お前が復活してるんだよ……」


 俺はなんとか声を振り絞って質問する。


「何故か⭐︎それは……」


「それは?」


 ヒーデリックが聞き返す。


「それは教えませーん!」


 人を小馬鹿にしたような表情をしていて、闘うような雰囲気はないがこの状況はとてもまずい。


 本来四天王と戦うのは2年になってからだ。今から戦うと確実にやられる。


 俺が時間を稼ぐ。出口を探してくれ。


 ソフィアとヒーデリックにアイコンタクトで指示を出す。


 ヒーデリックはわかっていないようだが、ソフィアは頷いた。


「おや、おやおや。僕の方を見ないなんて何かの相談ですか?」


 肩を組まれゾッとする。


 いつのまにか肩を組まれていた。しかも一人称が僕で喋り方が威圧的になってるし。


「おいおい無茶言うなよ、クラウンさん。口を開けてないのに相談なんてできないだろ?」


 俺はなんとか笑いながら会話する。


「……それもそうですね⭐︎」


 そう言って俺から離れると同時にラフな話し方になった。



「ところでここが何処なのかクラウンさんは何か知らないか?」


「ここはダンジョンのボス部屋さ! さっきまで魔人のなり損ないがいたんだけどね⭐︎」


 さっきまで、か。辺りを見渡すが人の影すらない。おそらく目の前のクラウンにやられたのだろう。

 それも姿が残らないくらいめちゃくちゃに。


「へー、ここがボス部屋かー。初めて来たからわからなかったよ」


「うん⭐︎君たちはここに何しにきたの? もしかしてワタクシに会いに来てくれた? なら嬉しいよ⭐︎」


「ハハッ、残念ながら違うな。俺達は学校の試験で来たんだよ」


「そうだのですか⭐︎ですが残念ですね⭐︎」


「なにがだ?」


「ほら、ワタクシを見たからには死んでいただかないと⭐︎」


 ゾクリとした感覚を覚える。それと同時にソフィアが声を上げた。


「あそこに出口が!」


「ならお前らはそこから逃げろ! そんでマーリンを連れて来い!」


 俺は恐怖を殺して前へと出る。


「なにを!?」


 ソフィアは驚いているが、これは無理だ。

 全員で戦っても敵わない。もしも

 唯一勝てる見込みがあるとすればマーリンだけだ。

 ただ俺が残って生き残れるかどうかは……


「自己犠牲ですか⭐︎ピエロよりも道化を演じるなど面白くて、面白くて笑ってしまいそうだ!」


 顔が笑ってない。むしろ憤怒しているようにも見える。何が気に食わないのかブチギレだ。


 お前が見逃してくれればこんな事しなくても済むのにな。


「早く行け!」


「で、ですが……」


 ソフィアの様子が変だ。顔色も悪い。なるほどそう言うことか。


 ……ソフィアルートのストーリーは救国の聖女と呼ばれた1人の女の子が真の意味で聖女になるためのストーリーだ。


 そもそも何故ソフィアは救国の聖女と呼ばれているのか? それは彼女が幼い頃に戦争を止めているからだ。彼女の家族の死をトリガーとして。


 詳しくは省くが、彼女は家族が目の前で死んだ事が今でもトラウマになっている。

 そして彼女の家族が死んだ後、彼女を利用しようとした大人に引き取られた。そのせいで、彼女は猫をかぶり聖女を続け裏では人を馬鹿にすると言う歪んだ性格になっている。


「さよならだ! ダークバレット!!」


 そんな事を考えているとクラウンは闇の魔弾を放ってきた。


「しまっ!?」


 体が動かない。終わったと思ったその時目の前で闇が真っ二つになった。


「僕も残ろう。平民に助けてもらうなど、我がリングライト家の顔に泥を塗ることになる。ソフィアさん早くいってくれ!」


 ヒーデリックが庇ってくれたのか。


「……最高にかっこいいぜ、ヒーデリック!」


 絶対に勝てない状況で残ってくれるなんて想定外だ。まさかこんなにもヒーデリックがカッコ良く見える日がくるなんて。


「ふん! 貴様に褒められても嬉しくなどない!」


「こっちはヒーデリックと俺でなんとかする! だからソフィアはマーリンを一刻も早くここに連れてきてくれ! 俺達が生き残るにはそれしかねぇ!」


「分かりました! リック君もヒーデリック君も絶対に生きていてくださいね! ルシフェルはここに残します! 少しでも役立ててください!!」


 俺達の覚悟が伝わったのか出口へとソフィアは走っていた。


「行かせるか!」


「バインド!!」


 クラウンがソフィアの方へと向くが俺が拘束魔法を全力でかける。


「この程度……グハッ!?」


 一瞬気を取られた瞬間にヒーデリックとルシフェルが攻撃をする。


「……生意気な! この俺をコケにしやがって!!」


 が、後ろにノゲぞっただけでダメージはなさそうだ。



「お前には付き合ってもらうぜ、命がけの時間稼ぎにな!」


 俺とヒーデリック、ルシフェルは構えをとる。


「まさかこんなことになるなんてね」


 ヒーデリックは笑いながらそう言った。


「本当にな。生きて帰れたら一緒に飯でも行かないか?」


 死亡フラグなのは分かっているが、あえてそれを跳ね除ける為に俺は笑って言った。


「冗談だろ? と言いたいところだが今回は賛成だね」


「なら生き残るぞ!」


「ああ!!」


 俺達はクラウンへ攻撃を開始した。


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