第17話 ペット

 なんだ、やけに息がしづらいぞ……

 そう言えば何してたんだっけ? そうだ俺は聖女の秘密に見つけてしまって!


「むーむーっ!!」


 目を開けるがあたりは真っ暗だ。何かを被らされているようだ。そして口にはテープのようなものを貼られているのだろう。声が出ない。体を動かそうとするも、縛られていてうまく動けない。


「ようやく起きたんですね?」


 聖女の声だ。

 次にガバッと頭の被りモノを外された。


 ここは聖女の部屋らしい。生活感があるし、ベッドやカバン、制服も置かれていた。……あといい匂いがする。


「むー!!」


 ここから出せと言うが口を塞がれているためうまく喋れない。


「まずは最初に約束をしてください。大きな声は出さないでください」


 俺は首を縦に振る。


「物分かりが良くて助かります」


 聖女はテープを剥がした。


「馬鹿め! 俺が今ここで助けを求めればお前の罪は明かされるんだ! 助け……」


 俺が叫ぼうとすると聖女が沢山の布を辺りにばら撒いた。

 よく見ると下着だ。いくつか際どい下着もある。

 ……もっと見ていたい気持ちもあるが今は聖女だ。


「なにをしているんだ?」


「男が女子寮の部屋の中でこんなに沢山の下着に囲まれていたらきた人はどう思うんでしょうねぇ〜」


 可愛らしく首を傾げるが顔はSっ気満載だ。とても楽しそうだ。


「でも俺は拘束されてるんだぜ?」


「その拘束は私の魔法です。すぐに解除できますよ?」


「………」


 人が来た瞬間に解除されたら……


「ようやく立場が分かってくれて嬉しいです。まずは自己紹介から私の名前はソフィア・フィールと申します。一応皆様からは救国の聖女と、呼ばれています。よろしくお願いしますね」


 笑顔で自己紹介された俺が拘束されていなければドキドキしていただろう。まあ今は違う意味でドキドキしてるけどな。


「……俺の名前はリック・ゲインバース。ただの平民だ」


「謙遜しないでください。王族を倒せる力を持っているのです。ただの平民ではないでしょう」


「……で、なんでここまで拘束したんだ? 最初の被せ物とか必要なかっただろ?」


 気になった事を質問しておく。


「悪の親玉って感じで面白そうだったのでやってみたかったんですよね」


「で感想は?」


「なかなかです。……さっ、お喋りはここら辺でいいでしょう」


「ああ、俺もそう思うぜ。なんならこのまま解放してくれもいいくらいだ」


 俺はニヤリと笑う。


「まだ軽口が叩ける余裕があるんですね。では焦らしても仕方ないですし、本題です。私のペットになってください」


 は?


「あれ聞こえてませんでした? 私のペットになってください」

 

 いや聞こえてはいる。聞こえてはいるが意味がわからん。


「何言ってんだよお前、なるわけないだろ! ふざけているなら俺を解放しろ!」


「私もそうしてあげたいのは山々なのですが、貴方のことが信用できないんですよね」


 なるほど。言いたい事はわかる。俺がバラすかもしれないからペットにしようとしているのか。


 これは余談だが、主人公がソフィアの秘密を知った時にはある程度の関係があった。だから選択肢さえ間違わなければ今まで通りに生活できる。


 だが、もしも間違えれば仲が良くても監禁される。そこでも選択肢を迫られる。そこで正解したら解放される。まあここは違った選択肢を選んでもリトライできるんだけどな。


「でも、お前は信じられんのかよ? 俺がここでペットになって、ご主人様の命令は絶対ワン! とか言いつつも裏で聖女様は猫被りだって言いふらすかもしれないぜ」


「ええ、分かっています。ですからこれを」


 ソフィアは机の引き出しから首輪を取り出した。


「……おい、それって」


 ソフィアが持っていたのは奴隷の首輪だ。

 確か南の方にある国には奴隷制度があったはず、そこでは奴隷がその首輪をはめていたはずだ。


「知っているのですか? この首輪をつけられた人は主人の命令から逆らえなくなります。そしてこれを今からつけてもらいます」


「誰がつけるか一生お前の奴隷とかやだぞ!」


「……それはそれで面白そうですが、流石にそこまではしませんよ。長くてもこの学園にいる間の3年間。短ければ私が貴方が信用できると思えば外してあげます」


 その条件でも嫌だ。むしろ俺の余命は今のところ3年間だ。つまり死ぬまで奴隷って事になるじゃないか!


「いや、やめて! やめてください!」


 少しずつ近づいてくるソフィアに恐怖しつつお願いする。


「ダメでーす♪」


 しかし無常にも首に指輪を回されかちゃりと音が聞こえてきた。

 それと同時に拘束が解かれる。首を触ると首輪がついてる。

 力ずくで引き剥がそうにも剥がれない。


 ……こうなったら。


「死ねー! ソフィア!」


 俺は魔力で拳を纏って殴りかかる。首輪の主人が居なくなれば勝手に首輪は外れたはず!


「とまれ」


「うっ!?」


 その瞬間体が動かなくなる。


 ……なんて首輪だ。


「最初っからご主人様に逆らうなんて悪いペットですね。では罰を与えます。これを握って今からこう叫んでくださいね。ソフィアたんのパンツくんくん! いい匂いだよぉ〜!!」


 そしてソフィアに何か布を握らされた。俺はそれを話そうとするが手から離せない。

 次に口が動き始めた。


「ソフィアたんのパンツくんくん!!! いい匂いだよぉ〜!!!」


 クソがぁぁぁ!! 

 そんな事を思うが口は止まらない。


「ふふっ、これで沢山の人が来ると思うので頑張って逃げてくださいね。あとこの寮から出るまではそれを捨ててはダメですよ。じゃっ、頑張ってください」


 ドンドンドンっとドアを叩く音が聞こえる。


「ソフィアさん大丈夫!?」


 どうやらもう来たようだ。


 俺は窓から逃げようとして窓の外を見るがとても高い10階とかだろうか。ここから飛び降りたら即お陀仏だろう。


「へ、変な男の人がいてっ!」


 ソフィアさん迫真の演技だ。顔はニヤついてるいるが、声が怯えている人のそれだ。


「今助けるわ!」


 どんっと扉が開いた。

 俺は顔を隠すために近くに捨ててあった被り物を被る。そしてすぐに目の部分を開ける。


「こ、この人が……」


 今度はきちんと恐怖を浮かべているソフィアをよそに俺は逃げる手段を考える。


「その布! ソフィアさんの下着じゃ……」


「女の敵! 逃さないわよ!」


 何人かの女子生徒が部屋の前に集まっている。


 ……このままじゃ終わりだ。どうにかして逃げないと。


「捕まえろー!」


「おー!!」


 その言葉を最後に女子全員が襲ってきた。


「ソフィアたんのパンツは僕のだー!」


 俺は下に落ちていた下着をできる限り取る。


「次はどの部屋に行こうかな〜」


 そう言いながらパンツを抱きしめると女子は恐怖した。


「ひっ」


 今だ!

 俺は足に魔力を回して身体強化してからパンツを放り投げた。

 そしてそれを目眩しにして強引に部屋から出る。


「よし! これで……」


 ドドドッ! 左から足音が迫ってくる。左を向くと女子が沢山いた。俺は逆の方向へと本気で走る。


「命懸けの鬼ごっこかよ……」


 捕まればマジで殺される。社会的にも肉体的にも。

 俺は愚痴をこぼしつつ女子寮を走り抜けるのだった。



 

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