第13話 聖剣解放

「ハァァァァァ!」


 勢いよくエリカが突っ込んできた。なんてスピードだ。さっきまでの比じゃない。


「来いッ!」


 だが怒りで動きが直線的すぎる。それに上手く合わせカウンターを打ち込んでやる。

 前の体では絶対に無理だが、この体なら出来るはずだ。


 エリカの攻撃剣を体を逸らして避けて、顔面に右ストレートを入れようとするが、剣を持っていない方の手で火を爆発させて体を回転させてパンチを避けられた。


「なっ!?」


 こんな器用な真似ができるなんて……ッ!?


 俺の腹に蹴りが刺さる。


「ガッ!?」


 俺の体はまるでボールかのように舞台の端まで飛ばされた。


 あまりの衝撃に息ができない。


「ッッッ!!」


 いつ間にかエリカが目の前にいた。

 次は顔面に蹴りを入れられる。


「ウッ!」


「コロ、ス。コロス、コロスコロス! コロシテヤルゥゥ!」


 なんだ、エリカの様子が普通じゃない。


 エリカの周りに浮いている炎の出力も上がっているような気がする。


 ……もしかして暴走してんのか!? ゲームでもあった仕様だ。

 使用者のレベルが足りてないと、聖剣の力に飲まれて辺り全てを攻撃してしまう狂乱状態になってしまうのだ。


「おい! エリカ! 聞こえてるか!」


「コロス!」


 ダメだ会話にならない。この状態になると手がつけられない。生徒会長に助けを求めないと。


「生徒会長! エリカが普通じゃないです! 助けてください!」


「そうだな、妹がすまない。すぐに助けに……」


 生徒会長の声が途切れた。生徒会長が座っている席の方を見ると傷を治してくれた女性がいた。


「リック・ゲインバース。お前がなんとかしろ。こっちは生徒を守るために結界を張るので手が一杯だ。……なに死にそうになったら助けてやる」


 なっ!? あのクソババァなに言ってんだ! この状態分かってんのか!


「クソババァ! エリカを倒せば結界なんて張らなくてもよくなるだろ! 余裕があるなら助けろよ!」


「ほぅ、アタシをババァ呼ばわりか。まあいい。それだけの元気があるんだ、どうにかできるだろ」


 アイツ絶対許さない。後で泣かせてやる。


 とは言え今はこっちだ。とにかくエリカを止めないと。


「ガァッ!」


 エリカの周りに浮いていた炎が色々な方向へと放たれた。観客席や俺の方向、地面など様々だ。


「アイスウォール!」


 氷の盾を作り出し全力で防御に徹する。


 炎で氷は溶かされていくが俺までは届かない。


 だけど防御だけじゃ絶対に勝てねぇ、こっちも攻撃しないと。

 

「おら! お前の相手は俺だぞ!」


 アイススパイクを連続で発射する。炎の壁に溶かされるが今はこれでいい。


「グゥゥ!」


 エリカの視線がこちらへ向いた。この調子だ。


「やーい、貧乳! ぺったんこ!」


 俺は舞台を縦横無尽に走りながら挑発する。エリカの意識があるかどうか分からないので、これが効くかわからない。


「ウガァァァッ!!!」


 めっちゃ効きました。


 炎の波が俺を襲う。それを氷の盾でガードしつつ、隙を縫ってアイススパイクで攻撃をする。


 それを何回か繰り返す。


「はぁ、はぁ、流石に王族の血筋と聖剣解放合わさっているだけあって魔力は桁違いだな」


 こちとら殆どの魔力を使い果たしたのに向こうは魔力垂れ流しの状態でもまだまだ余裕そうだ。


「まあでも、お陰で準備はできたんだけどな!」


 俺は地面に手をつける。


「喰らえッ! 最大出力! ライトニングサンダー!!」


 そのまま雷魔法を全力で放つ。


「ッ!」


 防御しようとするが余りにも遅い。ただでさえ速い雷魔法に地面は水浸しだ。

 すぐにエリカを雷が貫いた。


「ガァァァァッ!?」


 ドサッとエリカが倒れた。


「やった? のか……」


 エリカはピクリとも動かない。


「……コロスコロスコロスコロス!!!」


 勝ったと思ったら、ゆらりとエリカが立ち上がった。そして見た事ないくらいの魔力をを頭上の炎へ溜めている。


「か、勝てない。……無理だ」


 この世界に来てからまだ1日しか経ってないのに、死ぬなんて……

 すまんカイン、俺じゃダメだったみたいだ。


「頑張ってください! リックさん!」


 目を閉じようとしたら声が聞こえてきた。声のした方向を向くとリンが大声で叫んでいた。

 ……オドオドしているのに、こんな大きな声出せたんだな。


「そうだ! 頑張れ! ここで勝ったら女の子にもモテるぞ!」


 続いて横にいたレオンも応援してくれる。

 ……真面目そうな奴なのにふざけた応援してくれるぜ。


「リックーー!」


 次に声がした方を向くとカインだった。カインはただ拳を突き出すだけだ。

 ……そうか、これは俺だけの命じゃないんだよな。リックの命も背負っているだ。そう簡単に諦められないな。


 だがあの魔法にどう対抗する? 今の俺じゃ魔力切れ間近だ。どうしようも……いや、一つだけあった。


 暴走魔法だ。


 確率で起こる事がある魔法で通常魔法の何倍もの威力の魔法が撃てるという、運ゲーだがこれを確実に発生させる方法がある。


 やり方は至って簡単。魔力がゼロになるように属性の違う魔法を同時に放つ。

 これがバグ技なのか仕様なのか運営は最後まで発表しなかったが、ここがゲームと同じ世界ならこれで暴走魔法を使えるはずだ。


「エリカ、死ぬなよ」


 左には氷を右には炎をそれぞれ魔力を限界まで注入する。

 そして左と右を合わせて新しい魔法を作る。


「ビックバン!!」


 俺は作り上げた球を全力で放つ。そしてそれに合わせるようにエリカも炎を放ってきた。


「ハァァァ!!」


 目が眩むほどの眩しさで目を閉じてしまう。そして次にきたのは爆発音と衝撃だ。爆風で体が吹き飛ばされてしまう。




「うっ、うう」


 何が起きたんだ? 魔法がぶつかり合って俺は吹き飛ばされたんだっけ?


 立ち上がるとエリカが俺とは逆側の壁に打ち付けられていた。


「エリカ!」


 エリカの方へ走り。体を持ち上げる。……よかった息はあるようだ。


「……しょ、勝者!! リック・ゲインバース!」


 生徒会長の声が聞こえて安心する。俺はどうやら勝ったようだ。それにエリカも生きていて……

 あれ? なんか目が霞んで……



「……ック! ……リッ……」


 なんだ? カインとリンとレオンが観客席から飛び降りてこっちにきている。


 生徒会長もこっちに走ってきている。


 なんで俺横になっているんだ? それになんだ視界が赤いぞ?


 俺はなにして……


 そこで俺の意志が完全に途切れた。


 

 

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