第11話 エリカの実力

「はぁ、はぁ……なんとか勝てた」


 正直負けるかと思った。

 会場は静かだ。こんな結末になると思ってもいなかったからだろう。

 貴族が平民に負けるなんて有り得ない。いやあってはならないことだ。


「ぼ、僕が負けた?」

 

 ヒーデリックは下を向いて震えている。現実が受け入れられないのだろう。


「……マジで強かったよ、お前」


 本心を口にする。


 この戦い、自分だけの力じゃ勝てなかっただろう。女神様から魔力を貰っていなければ確実に負けていた。


「………」


 俺の言葉に対してヒーデリックは何も言わない。下を向いたままだ。


「次の試合を行う。選手は速やかに移動してくれ」


 生徒会長の声だ。


「立てるか?」


 俺はヒーデリックに手を差し出す。脳震盪が起きているんだ。そう簡単には動けないだろう。


「同情するな!」


 俺の手を払い退けてヒーデリックは勢いよく立ち上がった。

 だが別にそれに対して腹が立つことはない。もし自分が敗者だったとしたら俺も同じ行動をしていただろう。


「………次は勝つ」


 ヒーデリックは小さく言い残して、舞台を降りた。


 俺も降りようとした時に観客席から石を投げられた。


「あぶなっ!」


 それを避けると次に飛んできたのは野次だ。


「貴族が平民に負けるわけがない! どんな卑怯な事をしたんだ!」


 そしてそれに続くようにそうだ! そうだ! と声が聞こえてきた。


 さあどうするか。これ以上ヘイトをかうのは得策ではない。だがここで俺が何を言っても俺へのヘイトはどんどん溜まっていくだろう。


「黙りなさい!」


 俺がどうするか困っていると一際大きな声が聞こえた。エリカだ。


「彼はなんの不正もしていないわ。この決闘の勝者はリックよ。……それにそれ以上の批判はヒーデリック君への侮辱にもなるわ」


 その言葉に会場は静まり返った。カリスマ性もあるなんて凄いな。

 

「ありがとな」


 俺はエリカの横を通る途中で感謝を口にする。


「……早く医務室へ行きなさい」


 俺は頷き、その言葉に従うのだった。






「大丈夫か!?」


 医務室に行く途中にレオンとリンがいた。

 俺の左腕を見たレオンがすぐに近づいてきた。


「大丈夫なわけあるか! 見てみろよこれ! もうちょっと深ければ腕が飛んでたぞ!」


 レオンに傷口を見せる。


 さっきまでアドレナリンが出てそこまで感じなかったが、言われた瞬間に痛くなってきた。


「……余り見せないでくれ、ほら捕まってくれ」


 レオンが肩を貸してくれた。


「あ、あの! 凄かったです!!」


 次はリンから声をかけられた。


「マグレだよ、マグレ」


「そんなことないです!」


「ああ、凄かったぞ。貴族を倒す瞬間なんて男の俺でも惚れそうになったくらいだ」


「ありがとよ、でもどうせなら男じゃなくて女の子に惚れられたいけどな」


「リック君なら絶対モテると思います!」


「ハハッ、だといいけどな」


 そんな話をしていると前から長い黒髪の美女が歩いてきた。目つきが鋭どいのが特徴的だ。

 ……何処かで見たことある顔だ。


「お前なかなか面白いやつだな」


「はい?」


 突然声をかけられて驚く。


「あの、失礼ですが貴方は?」


「あん? アタシを知らないのか? まあ知らないならそれでいい。まあいい、少し動くな」


 女性がそう言うと俺の方を見た。


「?」


 俺が女性を不気味に思っていると次の瞬間体の痛みが無くなった。


「え? あ、あれ?」


 左腕をを見てみると綺麗に治っていた。服は破れたままだが……


「す、凄い」


 リンが息を呑む。


「……こんなに早い回復魔法見たことがない」


 隣にいるレオンも驚いている。


「ゴッドリザレクションだと?」


 この回復速度間違いない。回復魔法の最上位魔法だ。それが使えるなんて何者だ?


「ほぅ、知っているのか。……決勝戦も楽しませくれよ、リック・ゲインバース」


 それだけ言って女性は去っていた。本当に何者なんだ。


「とりあえず観戦するか?」


 何はともあれ医務室まで行かなくて良くなったのはいいことだ。これでエリカの試合も見ることができる。


「そ、そうだね」


「あ、ああ」


 俺は呆けている2人を連れて観客席の方へ行くのだった。


「では両者用意はいいな……始めッ!」

 

 観客席に着くとちょうど試合が始まる前だった。


 舞台をみると俺とヒーデリックの戦いの後は綺麗になっていた。教員が魔法を使って治したのだろう。


「次の対戦相手はエリカ様か、ちゃんと観察しておかないとな」


 レオンの言葉に頷こうとした瞬間。


 大きな爆発が起きた。砂埃やチリが舞い、会場の様子が見えない。


 会場中が静かになる。


 そして舞台が見えるようになると剣を抜いて立っているエリカの姿と横になって倒れている対戦相手の姿があった。


 その瞬間会場中が沸いた。歓声の嵐だ。


 ……俺の時とは全然違うんだな。いやそれよりも。


「う、嘘だろ?」


 ゲーム内でもエリカはパワー型のキャラだったが、ここまでとは思わなかった。


「勝者、エリカ・シャリアーテ!」


 ……これ、詰んでね?


 俺はどれだけ頭を回転させてもエリカに勝つ方法がわからなかった。

 

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