02.パーティのメンバーからも恐がられている(2)

「とりあえず、椅子にでも座ろう。依頼書は俺が持っている」

「分かった」


 ロビーで立ち話もあれだ。こうやってミーティングをする者も大勢いるので、椅子やソファなどが配置されている。

 その中の一つを選び、ジークがソファに腰掛けた。グロリアもまた、それに続く。


 ――よし、ノルマ消化頑張るぞー。

 やはりコミュニケーションが取れない自分は、こういった目に見える形でパーティに貢献しなければならない。感じが悪い上に役にも立たないなど、あってはならない事だからだ。クビにされてしまう。

 それにノルマ未達成はパーティ全体の問題になる。ミスは許されないので、全力を以て臨む所存だ。


 やる気に満ち溢れつつ、そういえばクエスト内容がまだだった事を思い出す。


「クエストの内容は?」


 ――ああ、また冷たい感じになっちゃった……!

 どうしてもっとマイルドに声を掛けられないのだろうか。若干落ち込んだが、ジークはあまり気にしていないようだ。

 懐から依頼書を取り出し、封筒から書類を抜き取る。既に一度読んだのだろう。封は開いていた。


 それを手に取って、ふと気付く。

 当然のように自分とジークの二人で依頼書を囲んでいるが、他の3人はどこへ? 姿はずっと見えないし、どこかにいるようにも見えない。

 ――待って、私とジークでサシ? いや、ジークが可哀相でしょう……。


「他の人は?」


 焦りに焦って、また恐い言い方をしてしまった。が、ジークは問いに対し的確な返事を寄越す。


「リーダー……イェルドさんは上に呼ばれていないな。キリュウさんとユーリアさんなら、別のクエストを任されている」

「ああ、手分けしたんだ」


 ――イェルドさんの月初めにノルマを消化してしまおうっていう、配慮か。

 うちのパーティはノルマを最初の週で終わらせたがる。今回も例外ではなく、リーダーが不在であってもその流れは変わらないようだ。手分けは久々だけれど。この後、何かあるのだろうか。疑問だ。

 ミスってノルマを増やさないようにしなければ。

 そうでないと、自分のような会話の成立しない相手と付き合わされてジークの胃に穴が空いてしまう。今回もサシだし。


 この気まずい空気を終わらせなければ。

 そう思いながら依頼書に目を落とす。


「……」


 ――これは、楽クエかもしれないぞ……。

 依頼内容は魔物、エーミュウの群れ討伐。エーミュウは陸上を走るタイプの鳥を滅茶苦茶に大きくしたような魔物だ。大きく、気性が荒いので戦う術を持たない一般人からしたら恐怖の対象だろう。弱点は魔法全般。

 クエストの場所は薬草畑だ。エーミュウに育てた薬草を食べられて困っているとの事。どう見たって緊急クエストの方だ。


 ではこの魔物の群れをどうやって殲滅するか。

 攻撃の要はグロリア自身で間違いないだろう。魔法で遠距離攻撃がスタイルだからだ。更に言うとジークは物理タンク。つまり盾役である。盾を置いて遠距離でバンバン攻撃しろ、とリーダーはお考えなのだろう。攻略法まで考えて頂いて有り難い。


 因みにだが、ギルド用語に「ジョブ」なるものが存在する。

 どこから、何の、何をする役割なのかを示したものだ。グロリアは遠距離魔法アタッカーという枠組みに入る。遠くから魔法で攻撃行動を取る、という意味だ。

 これらはギルド協会が死亡事故を減らす為に作ったもので、ギルドボードにて個人情報と共に誰でも確認可能。適切なジョブを適切な位置に置いて戦おう、という事らしい。

 なお、メインジョブに加え、サブジョブを持つ者も一定数いる。


 上記を踏まえた上で、ジークのメインジョブは近距離物理タンク&サブアタッカー。エーミュウは物理的な攻撃を弾く、固い羽を身に纏っているので今回ジークがサブアタッカーとして機能する事は無い。

 グロリアの回転が速い頭はそれらの情報を一瞬で弾き出し、そして言葉として吐き出した。特に発言内容を精査する事は無く。


「前衛よろしく。後ろから射殺す」

「ああ、そうだろうな。この面子なら必然的にそうなる。守りは任せてくれ」


 即賛同された。というか、これ以外の解はない。口下手な言葉でも伝わったようで何よりだ。あまりにもコミュニケーションが取れない自分にも優しいジーク、非常に癒やされる。

 ともあれ、作戦会議は終了。あとは現地へ行って作戦通りに行動するだけである。


 ***


 ところで、我等がギルド《レヴェリー》には移動ステーションなる場所がある。

 普通に現地まで徒歩で行くと時間が掛かるので、置ける場所に片っ端から転移魔法を設置し、この移動ステーションからその設置ポイントまでひとっ飛び、という訳だ。魔法技術の進歩には頭が下がる思いである。


 ちら、とジークの方を見やる。

 彼は実は友達が欲しいグロリアと違って真性の一匹狼気質だ。彼と2人でいる時に会話はあまりない。尤も、こちらが何も言葉を発さないのでそれに倣っているだけかもしれないが。


 目的地へ移動する為の転移魔法ポイントが空いた。隣には事務員の女性が立っている。魔法起動の仕事をしているのだろう。

 そんな彼女は事務的にスクリプトでも読み上げるような滑らかさでグロリア達に確認事項を提示した。


「忘れ物はございませんか? 連続しての転移魔法の使用は原則禁止されております。確認がまだでしたら、今一度のご確認をお願い致します」


 ――あー、そうだったそうだった。忘れ物、取りに帰れないんだよね。

 転移魔法はそれなりに魔力を消費する。転移係のお姉さんは爽やかな笑みを浮かべているが、魔法を起動する度にかなり消耗している事だろう。故にステーションは人の出入りが激しい。シフトが小刻みだからだ。


「グロリア。忘れ物はないか?」

「ない」


 ――ああーっ! 確認してないのに、ないって言っちゃった! つい。いやでも、今更忘れ物なんてしないでしょう。

 それとなく自身の身体を見回す。絶対に忘れてはいけない、左腕のバングルと腰のベルトは共にあったので、大丈夫だろう。この2つのどちらかが無いと終わりだが、どちらもあるのでどうにかなる。


 こうして、禄に確認もせず出発して――そして、すぐにグロリアは後悔する事となったのだった。

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