後期編

第22話 補習開始日

 今日はついに夏休みの実質的な終了を意味する夏後期補習の開始日だ。

 夏海ちゃんを起こさないように注意しながらベッドから起き上がりダイニングへ向かっていると、憂鬱な表情をした凛花と遭遇する。


「お兄ちゃん、おはよう」


「おはよう、凛花。朝からめちゃくちゃ暗い顔してるけど一体どうした?」


 凛花が憂鬱そうな顔をする理由はなんとなく察しはつくがあえて聞いてみた。


「そんなの今日から補習が始まるからに決まってるじゃない。中学生までと比べたら夏休み短過ぎでしょ……」


 中学生までは夏休みと言えば40日近くあったものだが、高校生になってからは補習があるせいでその半分くらいしかないのだ。

 ちなみに3年生の夏休みはさらにその半分になると先生達から聞かされているため、来年の事を考えると今から憂鬱な気分にさせられてしまう。


「うちの高校は進一応学校だからな。補習に力を入れるのは当然の事だし、諦めろ」


「うー、まだ休みたい……」


 そうつぶやく凛花を宥めながらダイニングへと向かい、朝食を食べるために席に着く。

 すると席で新聞を読んでいた父さんが俺達の姿を見て話しかけてくる。


「そうか、制服姿って事は2人とも今日から学校なのか」


「そうなのよ、まだ休み足りないわ」


「分かる、もうちょっと補習減らして欲しいよな」


 俺と凛花は父さんにそう愚痴をこぼした。

 すると父さんは遠い過去を思い出すような表情となり口を開く。


「社会人になったら夏休みなんて無くなるんだからあるだけマシだろ。俺だって学生時代みたいに休みたいよ……」


「うわー、それ聞いたら社会人にだけは絶対なりたくないって思ってしまうな」


「そしたらお兄ちゃんは将来はニートになるしかないわね」


 そんな会話をしながら朝食を食べ終えた俺達は家を出て自転車で学校へと向かい始める。


「そう言えば夏休みが明けたらすぐ星綾祭よね」


「ああ、確か去年は補習期間中から準備を始めて9月の頭くらいにはもう本番ってスケジュールだったな」


 凛花から話しかけられた俺は去年の事を思い出してそう答えた。

 星綾せいりょう高校の学園祭、星綾祭は文化祭に相当する文化の部が2日間、体育祭に相当する体育の部が1日間の計3日間開催される。

 文化の部では、演劇やクラス展示、ステージ発表などを行い、体育の部ではリレーや綱引き、創作ダンスなどの競技を行うのだ。

 ちなみに1年生はクラス展示、2年生は演劇、3年生は創作ダンスをそれぞれ担当し、チーム対抗で点数を競っていく。


「そっか、じゃあしばらく忙しくなりそうね」


「補習が終わった後に星綾祭の準備になるからな、忙しいのは当然だ」


 しばらく星綾祭について凛花と話しながら自転車をこいでいるうちに高校へと到着したため、靴箱で別れて自分のクラスへ向かう。


「和人じゃん。おはよう」


「賢治か、久しぶりだな」


 同級生の声でざわざわしている教室の中に入り自分の席に向かっていると賢治から声をかけられた。


「今日から補習ってマジでだるいよな。まだ眠いからサボって帰りたいわ」


「多分ほとんどの奴が同じような事を思ってるよ」


 そんな事を2人で話していると教室に入ってきたばかりであろう恵美がこちらへと近づいてくる。


「和人君、前原君、おはよう」


「あっ、恵美。おはよう」


「河上さん、おはよう」


「前原君は久しぶりって感じだけど、和人君とはこの間の花火大会で会ったばっかりだからあんまり久しぶりって感じはしないね」


 確かに恵美とは夏休み中ユニバースランドや花火大会など、何度も会っていたので久しぶりという感じは全くしない。

 俺がそんな事を思っていると、賢治が羨ましそうな表情をして口を開く。


「お前、河上さんと花火大会に行ったのかよ」


「うん、恵美と西条先輩、後夏海ちゃんっていう親戚の子と4人で行ってきた」

 

「なに、あの背の高い美人な先輩も一緒だっただと!? 俺がバレー部の練習で大変な時に和人はそんないい思いをしてたのか。リア充め、今すぐ爆発しろ」


 賢治はそう言い残すと悔しげな表情で自分の席へと戻っていった。

 俺は別にリア充では無いのだが、否定しても賢治はきっと信じてはくれないだろう。


「あっ、もうそろそろで補習始まるから私も席に行くね」


「ああ、また後でな」


 俺が席に着席してしばらくすると、チャイムがなり補習がスタートする。

 今日の補習内容はどの教科も問題演習とその解答解説が中心だったのだが、ちょうど恵美と西条先輩から勉強を教えてもらった範囲と被っていたため正直楽勝だった。

 それから全ての補習が終わった後は星綾祭に関するホームルームの時間となる。

 今回のホームルームの議題は星綾祭実行委員会のメンバー選出と演劇の題材、体育の部の出場競技についてだ。

 星綾祭実行委員会のメンバーになれば内申点がかなり加算されるため推薦を狙っているクラスメイト達が次々に立候補していたわけだが、面倒そうだったので俺はパスした。

 ちなみに恵美は去年実行委員会になっていたため今回は立候補しなかったらしい。

 そしてクラスから男女1人ずつ実行委員会のメンバーを選出した後、今度は演劇の題材を決め始める。

 色々な意見が出たが最終的にクラス内で投票をした結果、シンデレラをやる事で決定となる。

 最後に体育の部の出場競技を全員で決めてホームルームは終了となり、面倒な夏後期補習の初日は無事に終わりを迎えた。

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