第7話

 


 馬車に揺られ、こうして街に出るのも久しぶり。 妹のせいでいつも具合が悪かったし、必要な物は買ってきてもらってたから。


 でも、今日の買い物は特別な物だ、誰かには任せられない。


「ここでいいわ、待っていて」


 馬車を止め、付き添いのメイドと街へ降りると、人々の注目を感じる。


「ノームホルン家の……」

「加護持ち、ステラリア様だ」


 ……まあ、そうなるわよね。


 華々しく世に出ているのは妹で、やつれているとはいえ、双子なんだから当然似ている。


「王宮から追い出されたらしいぞ」

「加護を持ってもあのジルベールの娘だ、王子妃になんか……」


 追い出された、そうなっているみたいだけど、本当はもっと情けない。 辛抱出来ずに逃げ出したのよ。


「恥知らずにも、もう今度はダラビット家に言い寄っているらしい」

「いくら加護持ちとはいってもな、受けるならあそこも卑しい家だ」


 ……知らないでしょうけど、もう婚約は成立してるのよ。 まあ、お父様や我が家をどう言おうと構わない。 でもね、


「せっかく街に来たのだから、偶には羽を伸ばしてきなさい」


「えっ、ですが……――わっ、こんなに……」


 わたしはメイドに金貨を握らせた。 これからする事を見られたくないから。


「買い物は一人で大丈夫、いいから行きなさい」


「は、はい」


 ロベルト以外は妹のご機嫌取り、信用は出来ない。


 メイドの姿が見えなくなってから、わたしは一人の男に向けて足を進めた。


「――っ……こ、これはステラリア様、今日は何か、その、買い物ですか……?」


「ええ、そうなんです」


 笑顔で応えてから、道に転がる小さな石を拾って掌に乗せる。

 男は、身なりからしてどこかの貴族か商家の令息だろう。 そんな事はどうでもいいけど。


「何か誤解があるようですが……」


 加護は、授かった時に自分に何が出来るかを教えてくれる。 ステラリアが粗悪な金しか作れないのは、やはり正当な加護持ちではないから。


 本物はね……


「――ひっ」


 小石は鋼になり、膨張して三本の剣となって男の身を貫く、手前で止まった。



「ひぃいいいッ……!!」



 ―――こんな事も出来るのよ。



「ダラビット家は、高潔な名家ですよ」



 我慢出来ない、ダラビット家あの人達を悪く言われるのだけは――――


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