第06話「激突! 太陽の王子《アポロ》VS 夜闇の戦少女《ニュクス》!! (Part,1)」


 海東蓮汰郎は後悔していた。


 変身直後にポーズを取るのはヒーローの特権で一番の見どころ!

  契約者であるアポロと入学前夜の深夜一時まで。そしてオデュセウスへ向かう途中のジェット機の中、入念にポーズの打ち合わせをした!

 あらゆる特撮番組やアニメ番組を観察した! そして無駄のない洗練されたポーズを完成させて本番に挑んだ! しかしッ! 帰ってきたのは唖然という冷めた空気!

『ドンマイだ、蓮汰郎。威光美しき王のポーズを理解できん愚民など気にかけるな。今どきの人間どもの趣味は何処か尖っている。俺は理解できん。古来より伝わる輝きの良さを分からぬ愚か者は見ててむしろ心地よく思えてきた。そう思うだろ?』

「ううっ、ううう……」

 両手で顔を覆い隠す。ヒーローどころか、男して情けない姿であった。


「ウソ、だろ……なっちまったよ。マジで……」

 男子生徒の一人は思わず腰を抜かしかけた。

「すげぇええッ! お目にかかることが滅多にないとは聞いていた! 卑屈な野郎どもが考えた妄想なんじゃないかとも言われていたが本当にいたんだよッ! 都市伝説なんかじゃなかったんだ!!」

 真実を知っていた男子生徒はむしろその逆で大盛り上がりだった。

「いたんだ! 神人と交約出来る男は本当にいたんだ!」

「す、すげええっ! まさか実物をその目で見れるなんて!!」

 目の前に現れた戦士は紛れもなくだ。

「……ビビってやがるな!女どもの方は!」

「当然だぜ! 馬鹿丸出しのアホ面並べて滑稽だな! あはははっ!!」

 女性生徒の数人は息をのんでいた。無様にやられるはずだった海東蓮汰郎は千万に一人の逸材であった。落ちこぼれなどではなかった。


「……ほう、アポロか。お前の名前はアポロというのか」

 教師ジャネッツは鼻からタバコの煙を吹き出す。煙で隠れ切っていた顔がチラつく。

 さっきまでの気だるい態度が切り替わっているのが分かる。興味、関心の表情をアポロに向けている。ニヤついている。タバコを咥える口が明らかに歪んでいる。

「役者は揃ったな……始まるぞ」

 ものの一〇分足らずしか経っていないというのに二本目のタバコは小指の爪程度にまで小さくなっていた。吸い終わったタバコを手に取った教師ジャネッツはそのタバコを片手で握り潰した後にポケット灰皿へとしまい込む。

「歴史を変える聖戦となり得るか……否かッ! さぁ、やれぇッ!!」

 共に条件は五分! ここから先は実力と経験のぶつかり合い! プラウダー同士のバトルが今、始まろうとしている!!


「……よしッ!」

 海東蓮汰郎もポーズをやめ、気持ちを入れ替え失敗もなかったことにする。

 目の前の決闘相手・鴇上叉奈へと視線を向け、右腕が上がる。

(来るッ!!) 

 鴇上叉奈も身構えた。

 プラウダーVSプラウダーの勝負。想像を絶する超規模の喧嘩のゴングが鳴らされようとしていたッ……!







「あ、あのッ! 海東蓮汰郎です! きょ、今日はよろしくお願いします!!」


 開幕! お辞儀ッ!!

 蓮汰郎は右腕を勢いよく天に掲げたと同時に宣誓!

  自己紹介と挨拶を終えた後に腰をキッチリ九十度!


 分度器を使ってもしっかりと分かる! この腰の角度は一ミリのずれもない見事な九十度ッ!!


「「「うぇええええッ!?」」」

 男子女子、勢い余って共にズッコケる。

「「「あ、あい、さつ……?」」」

 彼は何をしたのか。まさかただの挨拶だというのか。あの男、潰しあいの前に選手宣誓でもしたというのか。予想外の彼の行動にまたも一同は唖然とする。

「アッハッハ! そうだなァ~? 挨拶は大事だなァア~~?」

 教師ジャネッツ、これには思わず爆笑。


「……」

 鴇上叉奈は呆然としていた。

 敵が目の前にいるというのに礼儀よく頭を下げる戦士、五秒近く棒立ちなどという油断まみれの姿を晒したのである。

「……こ、これはご丁寧に。どうも」

 鎌を握る腕の力がより強まっていく。叉奈は口元を緩め、動き出す----


「鴇上叉奈です。こちらこそっ、よろしくお願いします」

 -----返、礼ッ!

 鴇上叉奈は自身の胸に手を添えた後に蓮汰郎の御挨拶へ返礼!

 蓮汰郎ほどキッチリ綺麗な九十度角度ではないが、頷くように首を下げたその姿は優雅さと気品さを感じられる!

「おい……女の方まで頭を下げやがったぞ」

 生徒達、一斉に困惑。頭の中は真っ白に染め上がる。

「なんだ? アイツら、自分の立場っての分かってるのか?」

「これから始まるのは今後の立場を決める潰しあいだってのに……随分呑気?」

 何なのだ、この空気は。何故、お見合いのような何とも言えない空気が流れているのか。とてもじゃないが戦争前の空気とは思えない雰囲気である。

「戦士において礼節は大切なことだ。何も可笑しい事はない……ヒヒッ」

 教師ジャネッツはベンチに腰を添えたまま足を組む。可笑しい事はないと口にはしながらも彼女自身腹からこみ上げそうな笑いに耐えきれず、より深いニヤつきを見せていた。

「……しかし何というか嘆かわしい。実に悲しいな。今年もで」

 新しいタバコを取り出し、火をつける。

「喧嘩ではなく決闘、か……さぁ覚悟を決めろ。その若い体から溢れる叡気エナジーを余すことなく放出しろ。お前達の戦いを私に見せてくれ……海東蓮汰郎! 鴇上叉奈ッ!! 今日はお前たちが主役っ、メインディッシュなんだからなっ!!」

 改めて、決闘開始のゴングの準備へ。

 

「海東蓮汰郎さん。先に攻撃を仕掛けておいてなんですが」

 鴇上叉奈は一枚のコインを取り出した。

 日本の通貨でもゲームセンターのコインでもない。それは現地のイベントで配られるというアンティークコインである。

「このコインを今から中央に投げる。このコインが地面についたその瞬間を決闘開始の合図とする……いいかな?」

「いいですよ! とても分かりやすいです!」

 その提案に対して蓮汰郎の返答は快いものであった。反対の意思はない。

「ありがとう。それじゃ、始めましょう」

 手の上に添えられたコインが親指で弾かれる。コインは回転しながら対戦ステージの中央へ。目に見えぬ静かな火花が飛び散るそのハザマへと舞い降りていく。


(いいのか、相手の提案なんかに乗って。罠だったらどうするつもりだよ)

「大丈夫だよ、アポロ」

 蓮汰郎は脳裏から響く相棒の声に対して返事をする。

「お腹を痛めていた僕を気遣ってくれたし、挨拶もちゃんと返してくれた……あの人、絶対に良い人だと思うから」

(チョロいぞお前は……やっぱり気に入ってるじゃないか。あの女が)

 蓮汰郎の緩さにアポロが首を横に振っているのをイメージ出来る。

(まぁ、同感ではあるけどねぇえッ!)

 会話を終えたと同時に叉奈の放り投げたコインがステージの中央の地に落ちる!

バウンドの高さおよそ10センチ!!



「底無き闇に染められ消えろ!【破黒弾アルテァ・ダグ】ッ!!!」

 鴇上叉奈の手の平から再び現れる黒い炎。

 揺らめく黒いエネルギー体! モヤモヤとした謎の砲撃が、蓮汰郎目掛けて一直線に飛んでいく!

(エンジンを上げていくぞ! さっさと構えろ!)

「分かってる!!」

 相棒からの警告、忠告! 蓮汰郎は右拳を構え、左手で手首を抑え固定する。

(エナジー充填! 出力120パーセント上昇ッ!)

 彼女が手の平にエネルギーを集め放ったと同じように、蓮汰郎の右拳に真紅のエネルギーが集結する!

「狙いは相手の砲撃ッ! 迎撃、行くよッ!!」

 それこそまさしくRPGゲームで言うファイアボールそのもの!

 しかし、蓮汰郎の右拳に集うエネルギーはやがてタダの球体ではなく、閉じられた拳と全く同じ形へと変貌していく!! その弾丸、まるで小さな太陽ロケットパンチ!!


「『紅き威光に焦がされ果てろッ!!』」

 放たれる太陽! 踏ん張った地は陥没! 蓮汰郎の背中には目も眩むような排煙!

「『【炎王灼侭ブロード・フレア】ァアアーーーーッ!!』」

 聞こえてくる鼓動! その身に轟く波動!

 放たれた拳型ファイアボールは黒いエネルギー砲目掛けて飛んでいく!


 激突! 分滅! 大爆発ッ!

 ほんの一瞬! コロッセオは一筋の極光と暗闇に包み込まれたッ!!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<<解説>>

●【炎王灼侭】ブロード・フレア

 海東蓮汰郎(アポロ)が使用する遠距離魔法。

 拳にエネルギーを集中し放つ技。簡易的に言えばファイアボールであるのだが、蓮汰郎が放つ際にはその弾丸は”握り拳”の形に形成される。


●【破黒弾】アルテァ・ダグ

 鴇上叉奈(ニュクス)が使用する遠距離魔法。

 片手に収束した漆黒の闇を放つ技。迎撃、奇襲など使用用途多数。

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